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1章

「そういえば、お前、真島悠一君って知ってるか?」

夕食の時間だった。テレビを見ながら、母さん特製の豆腐ハンバーグを頬張った瞬間、親父がボソッと聞いてきた。

突然耳に飛び込んできた名前に俺は激しく動揺したが無表情のままハンバーグを咀嚼し、ゆっくり飲み込むと

「真島悠一?」と感情を込めずに低い声で返した。

「先週、コンサートに行った時、声を掛けられたんだ。自宅で教えていた時の生徒さんらしいんだが、覚えてないんだよなぁ」

俺は瞬時に考えを巡らせる。知っていると言った場合と知らないと言った場合のメリットデメリットついて。

「あぁ…思い出した。俺、何度か遊んだことあるかもしれない」

「そうか。晃樹君は元気ですか?って聞かれたぞ」

俺から答えを引き出した事で親父はこの件に関して興味を失ったようだった。

あいかわらずだ。

親父が俺に何かを聞いてくる時はコミュニケーションを取りたいからではなく何か情報を引き出したい時だけだ。俺は自分に言い聞かせる。

俺も引き出さなければ。

「真島君、どんな風だった?何話したの?」

普段、俺が親父の話に必要以上に反応することがないせいか親父はちょっとびっくりしたように目を見開いた。

「真島君は今、M大の…経済学部って言ってたかな。背が高くてなかなか感じの良い青年だった」

「へぇ」

たいして興味もない風に相槌を打つと母さんが聞いてくる。

「真島君ってちょっとぽっちゃりした、悠君って呼んでた子じゃない?」

「母さん、よく覚えてるね。そうだね…、確かにぽっちゃりしてた」

母さんは笑いながら、あなたからよく『悠君』の話聞いたもの、と言った。

そんなに話したかな、悠君のこと。その辺の記憶はさっぱりない。



その日を境に俺の日常は変わりつつあった。

「その事」が常に頭にある。

M大・背が高い・感じの良い青年

親父が表現した悠君の今の情報を頭の中で何度も反芻する。

ふとした瞬間に、悠君と遊んだ日々の映像が不意に浮かんでくる。

いつも遊んでいた公園の赤い色のジャングルジム。

ブランコから落ちた俺を心配そうに見下ろす悠君の顔。


あの頃の俺は悠君と一緒にいる時だけ幸せを感じる事ができたんだ。


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