第七夜 傍観と達観
久々の更新!
狩人業の始まり。
小狐が去った後、しばらくして蒼蓮が店内に入って来た。
「 お。もう来てたのか。 ?何かあったのか??」
蒼蓮がモカと夜月を交互に見る。
「!蒼蓮さん……。」
夜月がホッとしたような表情になる。
「おや、随分ゆっくりなんですね。 今しがた東条院さんがいらしてたんですよ。 」
あぁ、と言ったように蒼蓮が頷く。
「もう会ったのか。 行き違いになったか…。ん?どうしたんだ、夜月」
そう言うと、途端に夜月の頭をくしゃっと撫でた。
「!?!な、なにするんですか!急に!!」
夜月が頭を押さえ狼狽える。
「いや、なんとなく。な。」
はは、と笑い夜月から手をどける。
「なんとなくってなんですか!?全くもう。」
夜月が顔を真っ赤にさせる。
…急に撫でるなんて勘が良いのか悪いのか。しかもなんとなくって。
視線を感じて前を見ると、モカがこちらをにやにやしながら見ていた。
「 いちゃつくのは構いませんが程々にして下さいよ 」
「 な!?いちゃついてなんていません! 」
夜月が声を荒げるとモカは何かを察したように、はいはいと軽く受け流した。
肝心の蒼蓮は不思議そうな表情を浮かべている。
「 ところで木枯さん。黒羽の調子はどうですか?相性良さそうですかね 」
「 まだ一回しか使ってないからわからないんですよね。」
「 あの闇に襲われた時だけだからな〜。」
と、蒼蓮が付け加えた。
「 ふ〜ん。あ。」
何か閃いたと言うようにモカは柏手を打った。
「 なら、こういうのはどうですか? 初の任務で使い心地試してみて下さいよ。ちょうどお誂え向きな任務があるので。」
『?』
夜月と蒼蓮で顔を見合わせた。
⁂
数時間後…
お互い家で夕飯を済ませ、もう一度集合することになった。
「前にも話したと思うが、闇達は基本的に夜にしか出て来ない。
ヤツらの原動力は人の負の心だからな。幽霊が出る時間も圧倒的に夜が多いだろう? 」
「い、いやな言い方しないで下さいよもう……」
夜月が身震いする。
「で」
蒼蓮が一度切り、後ろを見る。
「なんでお前がいるんだ?」
そこにいる人物に話し掛ける。
「おや、私が居たら先行く未来のあるお二人のお邪魔ですか。それは悪いことをしましたね、蒼蓮」
店にいた時と変わらずスーツ姿のモカは茶化すように言った。
とたん、夜月の顔が赤くなったのは言うまでもない。
「いや、別に俺は構わないが……。どういう風の吹き回しだ?お前が最前線に出ようなんて。」
「大丈夫ですよ。ちゃんとお店も閉めて来ましたから」
にこやかにモカが答える。
「そうじゃなくて……」
呆れたように蒼蓮が頭を覆う。
「あの……モカさんが最前線に立つのって珍しいんですか?」
そこでモカが夜月に詰め寄った。
「へ!?あ、あの?!」
急に近づかれ驚く夜月にモカは、
「砂石でお願いします。」
と言った。しかも笑顔だが目が笑ってない。
固まる夜月にモカは
「私は下の名前で呼ぶ程の人間ではないですからねー。」
と答えた。
おい、と蒼蓮は呆れつつ、
「あー。ちょっとコイツの場合色々訳ありでな」
「そもそも私は今回手を出しませんから好きにして下さいな。傍観者だと思ってもらって結構です」
「……そういうことか。」
蒼蓮は納得したような様子だ。
と、夜月の夕闇色の眼が一瞬光った。
「!……あれ。この感覚前にも……。」
「!!来るぞ!」
そう言い放った瞬間に路地から出てきたのは真っ黒な八つの足を持つ黒い生き物。しかも身体はマンションの二階だてに相当する大きさだ。
その体は普通の生き物ではないことを示すようにようにただ黒い不純物の泥で作った下手物と言った印象だ。
その生物がたった今建物から這い出て来たのだ。
言うなれば……
「うげっ。でかいタランチュラ……。に似てないですか?」
「夜月、お前虫嫌いなのか?」
蒼蓮が聞く。
「す、少なくとも得意ではないです……。」
夜月の表情が引きつる。
「良かったではありませんか。馬鹿でかい真っ黒なGで無くて。」
モカはまるで他人事だと言うように言う。
「縁起でもないこと言わないで下さい!」
そんなやり取りをしている横で蒼蓮が最大化!と唱えると青い蓮のブレスレットがあの初めて会った時の青い鳥の『白嵐』に変わる。
夜月も見よう見まねで最大化!と唱えるとあの黒いコウモリの羽根のような黒い剣に変わった。
「あんまり固まらない方が良い!
と言っても夜月。オマエはその目があるか狙われるとは思うけど……。」
心配そうな蒼蓮はとりあえず夜月の横につくことにしたらしい。
「とりあえず、なんとかやってみます。あの……それより気になることが」
と言葉を切り、モカを見る。
相変わらずさっきと変わらぬ場所に居て壁にもたれかかっている。
夜月の視線に気付くと笑顔でヒラヒラと手を振った。
これから戦闘に入ると言うのになんとモカは丸腰なのだ。
それが気になったのだ。
蒼蓮も言わんとしたことを理解したようで、闇に向き直った。
「さっきも言ったがアイツは色々と面倒でな。少なくとも放置しても死ぬような奴じゃないから気にしなくて良いぞ。」
「それなら良いんですけど……」
「…仕掛けてくるぞ。準備しろ。」