第四夜 漆黒の狩人
蒼い髪の綺麗な顔立ちの青年は、自らを“風使い”であると名乗る。
「──蒼蓮さん、ですか」
「もしかして、夜月。何も聞いてない?師匠から」
「は、はい? 師匠??」
漫画的な表現で言うとするならば、夜月の頭上に疑問符が大量に浮かぶ。
「──もしかして、父さんの?」
手紙の内容を思い出す。
「そ。夜月のお父さんは俺の師匠」
「すいません。実を言うと私、父さんから弟子が居るってことしか聞いてなくて」
「あー……そうか。あの人らしいと言えばらしい。それじゃ、何も知らないのは仕方ないな」
蒼蓮は困ったな、と小さく呟いた。
「は、はい。あの弟子って何の?いや、その前に“アレ”は何なんですか?」
夜月は不思議そうに蒼蓮に尋ねる。
「あぁ。一応、全部繋がってる質問だから順を追って説明するな?」
蒼蓮はやがて語り始める。
「夜月、ところでお前は幽霊とか信じるか?」
「唐突ですね……一応、信じますよ。視えてしまうこともなくはないので」
ポテトをつまみながら、夜月は小さく頷く。
「え、そうなのか??霊感があるってことか。とりあえずその話は今置いとくとして、良く心霊体験談みたいなテレビで悪霊がどうのとかあるだろ?」
蒼蓮は話しながら、包み紙に巻かれたハンバーガーを夜月に渡した。
「それは大したことじゃ無いけど。俺達にとって問題なのは死霊じゃなくて、生き霊の方」
「生き霊って、生きてる人の強い怨念や嫉妬が霊になって現れる。ってヤツですか?」
「ああ、まさしくそれだ。それが“アレ”だ。今日、夜月が相対した化け物。
俺らの中では
“闇”
と言う」
「闇……」
夜月が小さく呟く。
「だが、本来ならアイツらはその誰かが深く嫌い、あるいは憎む相手にしか襲い掛からない。
今回ばっかりは“例外”だがな」
「今回って?」
夜月が小首を傾げる。
と、突然に蒼蓮は夜月の橙の右目を指差す。
「その目。“視眼”はアイツらにとって“敵で有る証”つまり標的にされ易いんだ」
「!?」
「──夜月、お前さ。隠してるかもしれないけど、普通の人間よりも運動能力はるかに高いだろ」
「なんでそれを……」
「図星だな?その瞳を持っているヤツは遅かれ早かれ闇達にとって敵になる。そのことをアイツらは本能的に知っているんだろう。」
「それはつまりこの目を持っている限りは、ずっとあんなのに狙われ続けるんですか?」
「そう、なるな」
若干だが肯定することに躊躇いを見せたが蒼蓮は続けた。
「とは言え狙われるのは視眼位だけじゃないけどな。俺ら普通の闇狩人達だって闇に攻撃すりゃ狙われるしな」
「闇狩人?視眼位?」
聞き慣れない単語だ。父さんの手紙にもなかったと思う。
「俺達、闇を狩るのを仕事にしてる奴らを闇狩人って言うんだ。視眼位って言うのは俺らの中の階級でお前も視眼持ちだから自然と視眼位になるんだ。ま、その話はいずれな」
蒼蓮はストローに口をつけ、さっき頼んだコーラを飲む。飲み終えたのかトン、と軽快な音が響き紙コップを置く。
「で、問題は闇達。アイツらは確かに危害を加えなきゃ何もしてこない。ただ、闇達はさっきも言ったが『嫉妬した相手』に対しても襲いかかる。
そして、仮にそいつを殺してしまったら──」
「し、しまったら?」
「……ま、今日はこの辺にしとくか。あまり詰め込んでもな」
「え! 今から良いとこだったんじゃ!?」
けど、もうこんな時間だぞ?と蒼蓮は店内にある時計を見る。現在、時計の針は十時半を指し示している。
「心配し無くともまた今度、詳しい話をしような。こうして──せっかくお前と出会えたんだからな」
蒼蓮は微笑み、軽く夜月の頭を撫でた。
「……!」
一瞬、ドキリとしてしまった。頬が熱くなるのを感じる。
「あ、ごめん。嫌だったか?つい」
「いや!むしろ全然!!いつでもたくさん撫でて下さい」
「お、おぉ……??」
蒼蓮はかえって夜月の勢いに押された。
(蒼蓮さん、貴方は無自覚な行動が多いですよ……)
この時から、全てが動き出す。
それと知るのは、もう少しだけ先の話。
砂時計の中の落ちた砂がもう一方を徐々に満たしていくかのように。