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Dark Nightーダークナイトー  作者: あろぅん
闇狩人(ダークハンター)編
2/28

第一夜 翡翠と夕焼け

  この世界は我々のいる世界とは若干、異なる。とは言え、道行く者の瞳、髪の色がそれぞれ個性的な色をしていると言うだけの違いだ。


 そんな世界であってもイレギュラー。異端の者が存在する。

 彼女もまた、その一人である。

──花風町かふうちょう

 東京都にある一つの街。人口も多く賑わっており、近年は都市開発が進みレジャー施設も増えてきている。少し賑わいから離れた場所には閑静な住宅地が広がっている。

 ここは、花風町のどこかにある公立の一般的な高等学校。

 花風高校かふうこうこうのとある教室。


「ねえねえ、今週の更新ストーリー見た!?この主人公、本当にかっこいいんだよー!」


 休み時間、本(漫画)を手に一人の少女が熱っぽく話す。

 この少女、木枯こがらし 夜月よげつ。漆黒の髪をしており、ショートカットである。

 この世界ではむしろこの髪色は地味でもあるが、そんな少女の両眼は他と異なっていた。


「夜月、本当にそういうキャラとおはなしが大好きだよねー」

 ほえほえと癒しすら与えるであろう喋り方でその様子を微笑ましく見つめるのは、夜月の唯一無二ゆいいつむにとも言える親友の白霞はくがすみ 雪華せっかである。彼女はその名に冠する雪のように白い髪と灰色の瞳を持つ一見、儚げにも見える少女だ。

二人の他には近くに生徒の姿はない。だが、小さくヒソヒソと声が聞こえる。


「──雪華、あのさ」

 夜月が言う。

「ん? どうしたの?? 夜月」

「……。ううん。何でもないよ」

 微笑む少女の目は両眼を異なる色。

 左眼は、宝石である翡翠のような黄緑色。右眼は夕焼けのような橙色だった。俗に言われるオッドアイというものだ。ちなみに人体であればヘテロクロミアと呼ばれるが便宜上、オッドアイと言わせて貰おう。

 とあるマンションのポストの前に立つ男、いや、少年が一人。

「── 終時しゅうじ。これで良いんですね……?」

誰かに確かめるように口の中で呟き、ポストに封筒を入れると空間に溶けて消えた。

「──?」

 夜月は今、自室に居る。

 茶封筒を見つめどうしようか悩んでいるのだ。差出人不明の郵便物程、困るモノは無いだろう。ちなみに消印も無い。しかも、どうやら中に何か入ってるらしい。

(んーまあ、いっか。開けちゃえ)

 封を切ると中から一枚の手紙。

 その宛先は──。

「!? と、父さん………??」

 信じられないと言った表情で夜月は封筒を見つめる。最近まで見ていた懐かしい文字が確かに並んでいた。


「! 叔父さんから手紙……?」

 帰り道、雪華が驚きの表情を浮かべる。

「う、うん。あり得ないけど、内容を見る限りは父さんからだったよ。でも今更どうして──」

「そっか。叔父さんが亡くなってからもうすぐ一年が経つんだね」

 雪華は思い出すように話す。夜月の一家と雪華は家族ぐるみで付き合いがあったのだ。

「どう?一人暮らしは──慣れた?」

 心配そうに雪華は夜月を覗き込むように言う。

「うん、ありがと。雪華。少しずつだけどね」

 ちょっと自嘲気味に笑う。

物心つき始めた小さい頃、夜月は母を亡くしている。そして片親で育てられて来たのだ。しかしその唯一の肉親すらも失ってしまったのだ。

「それで、手紙には何て書いてあったの?」

「え? あ、あぁ……。なんか、達者でやれよ! みたいな内容」

「ふふ、それだけ?? まあ、叔父さんらしいけど」

「────」

 笑う雪華を見つめながら夜月は手紙のことについて考えていた。


 手紙の内容については前半は簡素なモノであった。この手紙が届く頃には、自分はこの世には居ないだろうと言う使い古された文句。

 そして、夜月を一人残して行ってしまったことへの詫びが書き連ねてあった。それまでならただの遺書だろう。

『今まで本当に寂しい想いをさせたかもしれない…。だから、これは親としての最期の我儘わがままだ。俺の弟子を見つけろ。そいつに俺の全てを託してある』

そう、手紙には記されていた。


「──って、何の弟子だし」

 つい口から出る。弟子が居るなんて初耳だ。

「ん?」

 不思議そうに雪華が見る。

「あ、ううん。こっちの話」

「……あれ?夜月、そのブレスレットどうしたの。可愛いね」

 夜月の手首を指差す。銀の鎖にコウモリの羽、もしくは悪魔の羽のような形のチャームがついている。

「あ、これ? 何か父さんの手紙と一緒に入ってさ。『これはお守りみたいなもんだから肌身離さず持っとけ』 って」

「随分、可愛いお守りだねー」

 と、ぽやぽや空気を漂わせ、雪華は笑う。

「あ、いや……多分ただの父さんの例えだから」

「お前達、仲良いのは良いけどお喋りも大概にしよーな、特に木枯」

 ぱこん、と軽く日直日誌で担任で古典の担当である五十鈴 いすず 胡蝶こちょうに頭を叩かれた。

「はい、今日の日直♡頑張ってねー」

 にこやかに言う胡蝶。

「い、五十鈴先生! 絶対喋ってたからって日直にしましたね!?」

 夜月の理不尽!!と言う叫びが教室に虚しく響いた。

「我々の出番は、まだ先のようですね」

あるビルの屋上。男は楽しげに様子を遠くから見つめる。

「覗き見なんて悪趣味ですよ」

 隣に居る男がたしなめる。

「ふふ。まあ、良いではありませんか」

 しかし、男は大したことでは無いと言った風で

「──さて、“彼らと彼女ら”はこの先……たのしませてくれますかね。」

 男はニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

(はぁー。すっかり遅くなっちゃった。雪華とつい話し込んじゃったな。──六雪りっせつさんも泊まってけばなんて言うし……)

 六雪は雪華の姉で夜月をもう一人の妹であるかのように可愛がってくれるのだ。料理が得意でいつも作ってくれるのだが量を何故かいつも多く作ってしまうらしく勧められて断り辛いのだ。


 夜月は、夜空にらんらんと浮かぶ満月を恨めしそうに見つめた。

(あれ。何か──)

 ふと、何かを感じた。

 言いようの無い胸騒ぎ。

──次の瞬間。


「ぐっ……?!」

 突如、声を上げてしまう程に右眼が焼けるような激痛を起こした。途端に路地の真ん中でうずくまる。

『グオオオオオオオオオオォ!!!』

 次の瞬間、この世のモノとは思えない獣の咆哮ほうこうにも似た声が聞こえた。

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