宣言後の吸血鬼達
「朱雀君本気ですか!?」
理事長が声を張り上げる。
「朱雀さん!?」
「………」
紫苑は理事長と同じように声を張り上げ、ソウは何かを考えているようだ。
「本気ですよ理事長。だって何もしなければ討伐される事なんて分かりきってる事です」
「しかし、朱雀君たちが天と魔の血を引く者達の仲間になればいい事ではないのですか?」
「「……ッ!」」
理事長がそう言った瞬間後ろの二人が息を飲むが分かった。
まぁ当然だろう、少し聞いただけだが二人は過去に天と魔の血を引く者に親を殺されているのだから。俺の親は……事故死だから、な…天やら魔やらは関係ない。
それに二人は強い、心が。何故なら復讐という事は考えていないからな、親が殺されているのにも関わらず。俺だったらきっと復讐しているだろう、12真祖の力もフルに使って。
「それは無理です、俺は昨日…仲間になる事を断ったので。当然『異界』の方にも「吸血鬼が対抗する気だ」、と言う方向で話が行ってるでしょう」
俺の言葉に黙る理事長。後ろで二人が安堵したのが気配で分かった。
しかも例え仲間になったとしても最初の頃から仲間になっていたならまだしも、今から俺達のような成人にも満たない奴等が仲間になった所でどんな対応が来るかなんて殆ど分かっているようなものだしな。
「…朱雀さん、今敵対宣言をしたのは俺達のためですよね」
「ソウ?」
ソウがここで俺に話しかける。紫苑はソウの言った事が理解できていないらしくソウの方を向く。
「良く分かったな。紫苑なんてテンパってるのに」
「朱雀さんはお人好しですから、多分俺と紫苑じゃあそこら辺の雑魚は倒せても『名前付き』が出てきた時点であっさり負けると考えたんでしょ?」
俺の心読んだりしてないよな?ソウ達の吸血鬼としての能力は聞いた事がないからありそうで怖い。
紫苑は今のソウの言葉を聞いた事で少し前にソウが言った事が理解出来たようだな。
「当たり、ソウと紫苑じゃあ『名前付き』には勝てないだろう。だから俺とこれから共に行動して俺はお前達を守りながら鍛える」
「朱雀さん、何でそこまでして僕達の事を?」
紫苑が問いかけてくる。
分かりきってる事を聞くなよな、紫苑。ソウも「何を言ってるんだこいつ?」みたいな感じで見てるぞ。
「そんなの決まってるだろ、俺達は吸血鬼としての仲間なんだろ?助け合うのは当然の事さ」
「朱雀さん…ありがとうございます」
「やっぱり朱雀さんはお人好しだ」
紫苑は少し涙目になりながらお礼を言ってくる、ソウは笑顔で。そんな二人の頭に手を置いてポフポフと頭を叩く…まぁ年上にこんな事するの初めてだけど。
「……分かりました」
「理事長?」
今まで黙っていた理事長が何かを決心した顔で声を出す。
「朱雀君、紫苑君、双識君。私が『異界』の上に偽の情報を流します、それなら時間が稼げるでしょう。それで朱雀君、何処かバレない様な所で二人を鍛えてあげて下さい」
「「「え?」」」
理事長が言った言葉を俺と紫苑とソウは理解ができなかった。
「り、理事長、そんな事をして大丈夫なんですか?」
俺は脳の思考回路を総動員させて何とか思っている事を口にする。
「……多分バレたら大変な事になるでしょうね、しかし君達はこの繚櫻学園の生徒です。自分の学園の生徒を守るのは理事長の役目でもありますから」
理事長は笑いながらそんな事を言った。そんな理事長に俺は笑顔で
「理事長…ありがとうございます!」
お礼を言った。
「「ありがとうございます!」」
紫苑とソウも俺に続いてお礼を言う。
「いえいえ、こんな事しか出来なくてすいません。さぁ、君達は早退扱いにしておきますから速く行きなさい」
「本当にありがとうございます…あ、それと理事長これを」
俺は指を自分で噛み切り血をだして静雄達にあげたような小石よりもう一回り大きい石を理事長に差し出す。込めている魔力は段違いだ。
ついでに何故石にするのかと言うと石にする事で魔力の通った血を出し、それを封印するためだ。自分以外からの攻撃で血を流しても魔力は出て来ない、自分の意思がない限り血に通っている魔力は体外にでた瞬間に直ぐに消えてしまう。
でも自分から付けた傷や自分の意思があって血を流した時には魔力が通ったまま地が流れる。理由はよく分からないけどこれも俺の心臓に刻まれた物が関係しているのだろう。
「これは?」
「それは俺の魔力を封じ込めた石です…まぁ魔石と言った物ですかね」
「魔石?魔力を一切感じないのにですか?」
「それは俺の魔力で出来ています、そしてそれ自身が魔力を抑えるための物でもあります。自分の身に危険が及んだ時は頭に俺達の事を浮かべて『割れろ』と念じるか、直接割って下さい、きっと理事長の助けになると思います…まぁ、使われない事が一番ですけど」
少し笑いながら言う俺。
「…そうですか、ではありがたく頂いて置きます」
俺の顔をみた理事長はそう言って石をポケットにしまう。良し、これで保険もかけたし大丈夫だろう。静雄には後でメールか電話でもすればいいだろ。
いくら魔の血を引いているからと言っても親友だし、居なくなるなら一言メッセージでも残しておくのが礼儀だ。
「はい…では俺達は早退します。さようなら、また何時か会えたら会いましょう」
そう言って一歩後ろに下がる俺、そして紫苑とソウが前に出る。
「理事長、ありがとうございました。理事長は天か魔の血を引いているみたいですけど、嫌いじゃありません」
「俺も理事長は嫌いじゃないです。ありがとうございました」
二人も理事長に感謝の言葉を述べる。
「いえいえ、私もこんな事しかできずに。気を付けてくださいね、『異界』に居る『名前付き』は尋常じゃない位強いですから。この学園にいる『名前付き』の静雄君と椎名さん、蓮香さんと聖奈さんですら『名前付き』の中では中級、もしくは下級の存在です。『名前付き』の階級は最上級までありますからね」
心配そうな顔で言う理事長の最後の忠告に俺は驚いた。椎名という人は知らないが、静雄と蓮香先輩、それに生徒会長は紫苑とソウが吸血鬼の力をフルに使って勝てるかどうかと言う強さだ。
にも関わらず『名前付き』の中では中級、下級の存在と言われたのだから。
後ろの二人なんて立ったまま固まってるし。
「…そうですか、最後までご忠告ありがとうございます。では紫苑とソウをせめて上級の下位か上位までにはもっていけるように頑張りますよ」
理事長に「任せてください」とでも言うように俺は笑顔を理事長に向ける。
「そうですか、頑張ってくださいね」
「はい、ではまた」
俺は理事長に挨拶をする、紫苑とソウも膠着状態が解けたようで急いで頭を下げる。
「はい、また会えた時に」
そんな二人を微笑ましい顔をして俺達に手を振る理事長。
そんな理事長を見ながら俺は理事長室の扉を閉める。
ガチャ
「朱雀さん、理事長いい人でしたね」
扉を閉めて直ぐに話しかけてくる紫苑、その顔は笑顔だ。
「そうだな、本当に最後までいい人だったな」
「そうですね、俺も嫌いじゃないと言いましたけど素直に好きですって言えば良かったかも」
ソウが少し顔を赤くしながら言う。
「ソウが照れるって、珍しいよね」
「う、五月蝿い紫苑!」
「アハハ、もっと赤くなった」
ソウが照れてる事が珍しいらしくからかう紫苑、そんな紫苑にさらに顔を赤くして反論するソウ。
そんなさらに赤くなったソウをさらにからかう紫苑。
俺はそんな二人を見て改めて心に誓う、絶対に守ると。
「ハハハ、ハ…あれ?どうかしたんですか朱雀さん?そんな険しそうな顔して」
「ウゥゥ…ん?ホントだ、どうかしたんですか?」
っと、どうやら見られたらしいな。
「いや、只お前達を鍛えるメニューを何にしようか悩んでいただけだから」
「「え?」」
俺の決心を二人に聞かれると恥ずかしいから誤魔化す俺。そんな俺の言葉を聞いて体をまた硬直させる二人。
そんな二人を見て俺は笑いながら言う。
「安心しなって、最初はゆっくりやってくから。それと速く荷物教室から持ってこいよ、俺達は早退なんだからな。集合場所は昇降口な」
「ふぅー…はい、分かりました!」
「セーフ…はい、了解です!」
俺の言葉を聞いて安堵の態度見せた後、二人は元気よく返事をして自分の教室を目指して走っていく。
早退する奴が走って良いのか?そんな事を考えながら俺は自分の教室に向かって歩いて行く、しばらく来れないであろう教室、もしかしたら一生来れないかもしれない教室に。
かなり時間が空いてすいませんでした。
授業中に書いたりして何とかここまで書けましたww
さて、これから朱雀達をどう動かそうか迷いますね……。
まぁ、そんな感じでお先が不安な作品ですけどがんばっていきます。
感想その他色々待ってます!