自由を望む者
花は人や獣と違い動くことができない。
生まれた瞬間からそこで生き、そこで死ぬ運命。
人や獣は自由に動き回り、好きな時に好きな場所で子を産み、死んでゆく。
だが、木や花は動けない。だから風や虫を頼って子孫を残すのだ。
まるで自由などない。
花は哀れだ。
否、本当にそうであろうか。
本当にこの動けぬ生命を哀れだと思うか。
答えは否。
何故ならば、このものたちは動けぬのではないからだ。
脚がないから動けないのではない。
ただ、動く必要がないから動かぬのだ。
歩き回るための脚がなくても生きてゆけるのだ。
歩く必要などまるでないのだ。
動き回れるものと、動く必要がないもの。
本当に哀れなのはどちらか。
「妾はまるでこのものたちのようじゃ」
自由に動けぬこの体。
足が悪いのではない。体が悪いのでもない。
家がそうさせるのだ。身分がそうさせるのだ。
自由に歩き回ることさえ制限される。
己の脚で外を歩いたことなどない。
「だけどそなたは自由だ。動けぬのに自由を手にしておる」
動けぬのではない。動かぬのだ。花は自由だ。何にも囚われていない。
羨ましい。
いっそこの手で握りつぶしたくなるほど、
恨めしい。
「妾は一体何であろう。動けるのに動けない」
話すことも笑うことも自由にできない。
見るものも食べるものも、着るものも、そして行うことさえ決められている。
一体誰が決めたのか。
「妾はそなたが羨ましい」
己の足で動き、好いた者の子を産む。獣は自由だ。何にも捕らわれていない。
羨ましい。
いっそこの手で捻り潰したいほど、
憎らしい。
「まるで、」
誰かが糸を引いている。
上へ下へと緩やかに。
勝手に動く手足。
何も持たない手、
地に着かない足、
仮面をつけた顔。
無表情、無思考、無意味、
無関係、無慈悲、無意志、
・・・・・・・・無感情。
「妾は傀儡のようじゃ」
誰かが糸を引いている。
右手を、左手を、右脚を、左脚を、顔を、声を、
・・・・・・心を。
大きな大きな力で、細い細い糸を、緩やかに急速に引く。
逆らうことのできない雁字搦めの細糸を、上へ下へと器用に操る。
「妾は何ぞや。そなたは何ぞや」
何時の間にかいた結婚相手。
見たこともない、誰かも分からない。
歳も顔も性格も、何も分からない。
知らない。
知っているのはその家と身分と位。
「ああ、これが妾の使命。これが妾の運命なのじゃ。」
生まれ変われるならば、妾はそなたになりとうよ・・・・
何にもとらわれないそなたに
本当に哀れなのは花か、獣か、
人か。