第6話・襲撃インシデント
聖女の発言によって――あまり自分で言いたくはないが――まるで全ての人が消えてしまったかと思うほどに、この場は静寂に包まれた。
そんな中、わたしはポカンと開いた口から言葉を溢す。
「ま、魔法少女……?」
「えーと、はい……ヒカリ様の祝福は、【魔法少女】です」
聖女がそう言い切った瞬間、後ろで誰かが吹き出した。
それを聞いたわたしは、反射的に振り向いてしまう。
すると、勇者の有馬がアホな顔をしたまま、百咲に思いっ切りぶん殴られていた。
「あんたねぇ! なに人のこと笑ってんのよ!」
「待っ!? ごめっ!? ちょ、殴りすギッ!?」
連続でボコボコと殴られる勇者を見て、わたしは思わず有馬のように吹き出しそうになるが、すぐに右手で口を押さえて耐える。
「その……ヒカリ様?」
「え、あ……ほんとに魔法少女? わたし、魔法少女になれるの!? やったぁ!!!」
(危な……仮面を取り落としてた………………)
聖女に声をかけられてハッとしたわたしは、無邪気に両手を高く上げて、跳ねながら喜ぶ。
そんな演技をしながら、コソコソと言葉を交わす貴族たちに、わたしは耳を傾けた。
『ま、魔法少女とは、いったい何だ?』
『たしか、私の先祖である勇者――が残した言葉には、『魔法少女とは、とても可愛らしく、そして少女らの勇者である』と……』
『つまりあの少女は勇者なのか!?』
『少しいいかな――子爵。我が先祖の勇者――の手記には、『魔法少女とは、酷く過酷であり、その責務は計り知れないもの……そして、自身すらも贄とする豪胆さを持った英雄だ』と、書かれていましたぞ?』
『何だと!? だがどちらにしても、とても強い祝福ではあるのか……』
『あのような幼き少女に、そんな酷い人生を歩ませる気か! 俺は反対だぞ、絶対な』
どうやら貴族たちは、【魔法少女】がどういった祝福なのか、その概念について推測をして、討論をしているらしい。
(いや……ただ女児向けか大人向けかの違いを言い合ってるだけでは? というか、何を伝え残してんの……)
なぜか魔法少女のことを後世に残した先代勇者に、わたしは心の中で呆れ声を出す。
そして1度口の中を噛むと、可愛らしい声を作って、あどけない笑みを浮かべながら聖女に話しかけた。
「ねーねー聖女様? わたしはどんな魔法少女になれるの?」
「ッ!? あ、えと……しょ、少々お待ちください………………」
聖女はわたしの言葉を聞くと、なぜか頬を少し紅潮させながらそう返事をすると、そっとまぶたを閉じる。
そして数秒すると、彼女は聖杖を胸元に寄せてゆっくりと目を開けた。
「はい、分かりました……?」
しかしながら、聖女の顔はいつも通りの微笑みが浮かんでいたが、その瞳には困惑の色が見られた。
彼女はどこか不安そうな口調ではあるが、今までと同じように、祝福の内容について語り始めようとした。
「どうやら、【魔法少女】という祝福は――」
ドゴォォォォォォォオオン!!!
その瞬間、わたしたちの上方から、石材やガラスが粉砕される音、そして大きな爆発音が聞こえてきた。
「きゃあっ!? な、なんなのもう!」
「うおっ!? なに、爆発!? 某名探偵の映画の世界かなんかなん!?」
「………………殺気は感じないが……敵襲のようだな」
一緒に召喚された3人は、それぞれの反応を見せながら一斉に上を向く。
わたしも釣られて上を向くと、部分的に吹き飛んだ屋根から、地球と同じような青い青い空が見えた。
「皆様方、すぐに戦闘準備を!!!」
聖女の切迫した叫び声を聞いて、わたしは思わず彼女の方に視線を動かす。
先ほどまでの微笑んでいた彼女とは打って変わって、聖女は酷く真剣な表情を浮かべながら、聖杖を強く握りしめていた。
聖女が、言葉を続けて叫ぶ。
「魔族です!!! 敵は魔族です!!!」
次の瞬間、数多なる真っ赤な光が、わたしたちに降り注いだ。
「セイクリッドシールド!!!」
青白い光が半球状に展開され、わたしたちを守る盾となって全ての光を防ぎ、その場に煙が舞い上がる。
パリンッと光の盾が割れて、さらにその場の煙が晴れると、上空から、飴玉を転がしたような声が聞こえてきた。
「はーっはっはっはー! わたしは魔王軍四天王が1人、吸血女王カーミラ様直属の軍隊の副隊長! クイーンサキュバスのエロイアちゃんなのだ! そして……この勇者召喚を、終わらせに来た! ってあれ? もう勇者召喚されちゃってるじゃん!?」
そこにいたのは、背中からコウモリのような羽を生やし、ピンク色の髪をサイドテールに結んだ美少女だった。




