第5話・有馬と彩星、勇者と………………魔法少女?
「それでは、お名前をいただけますか?」
「あ、有馬翔太っていいます! お願いします!」
静かに尋ねる聖女に対して、有馬は興奮した様子で返事をする。
そんな彼の勢いに気圧されながらも、聖女は軽く杖の先で床を突いてから口を開いた。
「ショータさんですね。それでは始めます……」
そう言って彼女は、そっとまぶたを閉じる。
数秒、沈黙が続いていた瞬間、聖杖に取り付けられた光輪が、さながら閃光弾のように眩い光を放った。
「め、目がぁぁぁあっ!?」
殺人的な発光が30センチほどの距離で直撃した有馬は、両手で目を押さえながら叫び声をあげる。
先ほどまで意気揚々としてたにも関わらず、今の酷く苦しそうな姿を見て、わたしは思わず声を溢した。
「うわぁ……かわいそ……」
そう呟いた次の瞬間、トンッ……と、聖杖が軽やかな音を鳴らす。
聖女はゆっくりと目を開けると、その小さい口を開いた。
「あなたは………………【勇者】です」
「………………まじかぁ。俺が、勇者か」
その瞬間、この場にいた全ての騎士、貴族らが大歓声を上げた。
さながら夏祭りのような、有名歌手のアリーナのような、それほどの熱狂だった。
(やっぱりね。ここまでは想像通り)
だが、ここからは未知数だ。
わたしは、言葉を交わし続ける貴族たちや騎士らの騒然とした雰囲気に呑まれぬよう、少し強めに舌を噛んで冷静さを保つ。
今まで3人が鑑定されたが、【剣神】に【魔女】、そして【勇者】という、酷く優秀な結果が出ている。
そして次はわたしの場だ、聖女によってわたしの祝福が鑑定されることだろう。
ここで大事になろうのは、巻き込まれたわたしの祝福がどういったものなのか、そもそも祝福を所持しているのか、だ。
(ここが、分水嶺だ……)
優秀な祝福か、無能な祝福か――
それによって、わたしの異世界生活、そして命運は、大きく変化するだろう。
すぐ先の未来について考えていると、まだ騒めきの止まないこの場を、再び皇帝がひと言で壊した。
「……そうか」
とても重く、ずっしりとした言葉。
静寂に還ったこの場に、皇帝の重厚感ある声が続いていく。
「貴殿が今代の勇者なのか、ショータ・アリマ殿………………ああ、安心してくれ。貴殿にこの国の未来、その全てを託そう、などとは思っていいない。それほどの重荷を貴殿の枷にするわけには、行かないからな」
最初のひと言とは打って変わって、どこか軽いな雰囲気で話をした皇帝は、1度咳払いをしてから言葉を続ける。
「だが、貴殿はこの国の未来を照らす、勇者という名の光なのだ。貴殿のことは、我は持てる全ての力を使って援助をしよう。どうか、かの魔王を討伐し、この国を太陽の如き光で、照らしてはくれないだろうか」
最後まで言い切ったその瞬間、皇帝はゆっくりと、そして深々と、静かに頭を下げた。
(これが……皇帝か……!)
誰も、それに反応することはない……いや、反応することが出来なかった、という言い方の方が正しいだろう。
それほどに、皇帝の言葉、行動、そして込められた並々ならぬ思いに、その場にいた誰もが言葉を失い、彼に畏怖の念を覚えている。
あくまでわたしが忖度したことだが、彼らの何とも言えないような表情から、その感情がしっかりと読み取れた。
「………………不肖、有馬翔太!」
そんな中、勇者となった男――有馬が、この場を満たした静寂を、剣で切り裂くかのように声を上げた。
「皇帝陛下の頼み、全身全霊でお受けいたします!!!」
数秒の沈黙のあと、この場は拍手喝采で溢れ出した。
人々は次々と称賛の言葉を投げかけ、何度も力強く拍手をする。
そこに水を差すかのように、鈴の音がリンッと鳴った。
「それでは、最後の方の鑑定を。いたしましょうか」
聖女はそう言うと、ポツンと床に座っていたわたしに視線を向けてくる。
まるで宝石のような瞳に魅入られるかのように、ゆらりゆらりと静かに立ち上がった。
(………………………………って、危ない危ない。危うく仮面を取り落とすところだった)
そのまま歩き出そうとして、わたしはハッと我に返る。
聖女様の美しさに、思わずやられてしまっていた。
わたしは1度その場で軽く跳ぶと、てくてくと足音が聞こえてきそうなほど、子どものように陽気に駆け出す。
そして聖女の目の前に立つと、可愛らしい、大きな声でわたしは喋った。
「初めまして! 彩星ひかりっていいます!」
「ふふっ、ヒカリ様ですね。なんだか、キラキラとした素敵なお名前です。それでは、鑑定の方、始めていきますね」
作り出した無邪気な笑顔を浮かべながら、わたしは聖女に挨拶をする。
すると、彼女は微笑みながらわたしの挨拶に返事をし、目を閉じてから聖杖を床にトンっと突いた。
(どうか……優秀な祝福を……!)
沈黙が続いた数秒後、なぜか聖女は困惑したような表情をしながら、そっとまぶたを開けた。
「はい……その、見え……ました」
どこか詰まりながらそう言った彼女は、1度だけ静かに目をつむると、覚悟を決めたような顔をして、ゆっくりと口を開いた。
「あなたは、【魔法少女】です」
………………………………え、1人だけ世界観違くない?




