第33話・シスタさんのお姉様♡
「28歳って、本当ですか!?」
想像していた倍以上の年齢を言われたのだが、わたしはどうすればいいのだろうか。
聞き間違いかと思って大きな声で聞き返してしまったわたしに対し、シスタさんは冷静な態度のまま肯定の言葉と共に首を縦に振った。
「はい、28歳でございます。それと、私の母であるリオン様の年齢は、現在は66歳ですよ」
さらに彼女の口から放たれた事実に、わたしは脳みそを無理やりに揺らされる。
わたしを凌駕するほどのロリ体型だったあのクソガキ賢者が、余裕で還暦を迎えているとはいったい何の冗談なのだろうか。
竜巻が起こったかのように混乱する頭を冷やすため、わたしは1度サンドイッチを口の中に突っ込む。
(うん、美味しい………………って、冷静になれるか!)
わたしは心の中でそう叫ぶと、素早くテーブル上のグラスを掴んでから勢いよく水を煽った。
口内のサンドイッチと竜巻を胃袋に流し込んだことで、水の冷たさも相まって頭蓋骨が一気にキンキンに冷え上がる。
ここまでしたことで、やっとわたしの脳は冷静さを取り戻した。
「リオン様って、もしかして不老か何かなんですか?」
「いえ、そのような話は本人から聞いたことがありませんね。それに、ここ数年で魔力の衰えが激しくなっていると先日おっしゃっていましたので、不老ということはないでしょう」
質問を口にしたわたしが空になったグラスを置くと、シスタさんはどこからともなく水差しを取り出した。
彼女は視線をこちらから移すことなく、綺麗な所作でグラスに水を注ぎながらそう返事をする。
(いや、それどうやってるの……?)
こう尋ねてしまえば話に水を差すと思い心の中で留めていると、シスタさんは「どうぞ」といっぱいになったグラスをわたしに差し出してから言葉を続けた。
「ご覧の通り、私もリオン様と同じような低身長でございます。そのため、リオン様が幼い姿をしているのは血筋ではないかと思われます。あ、しかし……私のお姉様はかなりの高身長ですね。恐らくですが、お姉様はお母様の遺伝子が強く、逆に私はリオン様の遺伝子が強く出たのでしょう」
「な、るほど……? それにしても、シスタさんにはお姉様がいるんですね!」
「はい。お姉様は私と同じく、この王城にお仕えしておりまして。誰よりも真面目で優しく、今やメイド長の役職を拝命しております」
「シスタさんのお姉様、すごいですね!」
彼女の話に対して、わたしは率直に思ったことを口にした。
シスタさんの年齢が28歳だから、そこから考えればお姉様はまだ30代くらいだと予想できる。
それなのにも関わらず、すでにメイド長の様で上り詰めているということは、酷く優秀な人なのだろう。
(でも、なんか……うーん)
特に違和感や不思議な点などは無かった話なのにどうしてか、喉奥に小さな魚骨が刺さっているかのような感覚を覚える。
無視し切れない鋭さに思わず目を細めてしまうが、ひとまずは置いておこうとレタスとトマトが挟まれたサンドイッチに手を伸ばした。
(シスタさんのお姉様で、メイド長………………あ)
サンドイッチを口元まで運んだ瞬間、いつのまにか取り落としていた記憶が蝋燭の火のようにポッと灯った。
喉に刺さる小骨の正体に気が付いたわたしは、とりあえずサンドイッチを口に放り込んでから頭の中で整理を始める。
『メイドさんは、リシア様のことが大好きなんですね』
『そうですね。私はお嬢様が生まれた時から、お嬢様のお世話をしていますので』
『メイド、さん……? ああ、そういえば。まだアヤセ様に名乗っていませんでした。改めまして、私は、この王城のメイド長を任されています、クリスタ・クルーツと申します』
(え、クリスタさんとシスタさんって………………姉妹!?)
2人はどちらも凄く冷静沈着で優秀なメイドさんで、名前の雰囲気も考えてみれば酷似している。
あと確かに、顔立ちもよく比べてみれば似ているパーツもあるため、違いとして挙げられるのは髪色と身長くらいだ。
そして極め付けは、シスタさんの『お姉様がメイド長をしている』という発言である。
あくまでわたしの知識からの推測になるが、この王城内に勤めるメイド長は1人しか存在しないはずなので、つまりはクリスタさんとシスタさんのお姉様は同一人物だということになるのだ。
(ほんとは今すぐにでも、わたしの考えが正解かどうか聞きたいんだけどね……)
だが、クリスタさんがシスタさんのお姉様なのかを尋ねてしまえば、少なからず面倒なことになりそうである。
わたしが彼女と出会ったのは、第2皇女であるリシア様とわたしが遭遇した際に、クリスタさんが彼女のことを連れ戻しにやってきたからだ。
しかしながら、クリスタさんがその後わたしに対して『リシア様と会ったことは他言無用だ』と警告をしてきた。
そのためにわたしは、どうして自分とクリスタさんが遭遇したのかをシスタさんに説明することが難しい。
だからこそ、クリスタさんがシスタさんのお姉様であるかどうか、という質問を今、彼女にするべきではないのだ。
(不安要素は、なるべく取り除くべきだしね)
わたしは2人の関係性という疑問を自分の顎で思いっきり噛み砕き、モグモグと何度も咀嚼をしてから自己解釈としてごくりと飲み込む。
そして喉が渇いたためにグラスを手に取ると、またもや水を一気に煽って自己解釈を胃に流し込んだ。




