第13話・これが本当のモーニング(スター)娘
とりあえず、このツッコミどころたちを1つずつ解決していこう。
わたしは呆然としながらもそう意気込み、エルに質問するべく口を開いた。
「えーと……まず、この通り名はなに?」
「通り名とは、魔法少女の個体名です。契約者は変身中、この通り名を名乗ることが義務付けられ――」
「違う、そういうことじゃない……な、ん、で! こんなふざけたネーミングなの! ロリータ・ツインテール? それわたしの見た目ただ並べただけじゃん!」
あまりにも冷静すぎる対応をするエルに、わたしは声を荒げて抗議する。
しかし、彼女はわたしの抗議内容がよく分からなかったのか、こてんと首を小さく傾げた。
(くそ、ちょっとかわいいな……)
「まず魔法少女は、契約者の肉体を部分的に魔力によって分解、そして再構築させることで変身を行っています。しかしながら、魔力によって再構築された肉体、通称――魔素体は、自己存在を認識しない限り、時間経過と共に崩壊してしまいます。そのため、通り名によって魔法少女に存在意義を与え、自己存在を確立させることによって、崩壊を防いでいます。これらのことから、魔法少女に与える通り名は、契約者の外見や個性、能力に基づいたものが望ましいとされています」
「………………………………な、なるほど?」
えーと、魔法少女が変身する時は、魔力で体を分解してから、もう1回作り直していると。
だけど変身した後の体は、魔力で出来ているせいで、一定時間で崩壊、つまり肉体的に死ぬってことね。
それで崩壊を防ぐには、その魔素体に魔法少女としての名前を与えることが必要。
自己存在の確立、ってことは自分っていう存在をしっかりと認識する必要がある、ってことか。
なんというか、小難しいというか複雑というか、哲学的な話だからか全然頭に入ってこない感じがする。
「いや、だとしてもあの名前は酷いと思うけどね……」
魔法少女ロリータ・ツインテール――ネットを探せば出てきそうな魔法少女名ではあるが、いざ自分がこれを名乗ると考えると、とてつもなく恐ろしく感じる。
だがひとまずは、こんな通り名になってしまった理由に対して、納得は出来ていないが理解することは出来た。
さらに問題なのは、これより下の項目である。
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職業――魔拳士
能力一覧
・髪操作
・髪質変化
・武術「ロリータ」
・色彩変化
・武装「魔法少女」
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「他にも質問があるんだけど………………職業――魔拳士って書いてあるけど、そもそも魔拳士ってなに?」
魔剣士はもちろん知っているし、ゲームなどでも人気がある職業だ。
しかし、魔拳士については正直に言って、耳にいた覚えが一切ない。
名前からして、格闘家やモンクに近い職業なのだろうか。
「魔拳士とは、拳に魔法を纏わせて戦闘を行う、STRとAGI、そしてMNDが平均して高評価されている契約者に最適な職業となっています」
「あー、拳に魔法を……なるほど」
そう言われると、魔拳士って名前はそのまんまのネーミングである。
魔剣士と考え方は同じだし、もっと頭をひねれば答えが出てきたと思う。
ただ、拳に魔法を纏わせたとして、それって果たして強いのだろうか。
剣に魔法を纏わせて敵を斬る、相手に魔法の矢を飛ばす、こういったのが強いというのはとても順当な結果で分かりやすい。
それはなぜかといえば、剣や弓矢の本来の攻撃力が高いため、そこに魔法による攻撃力が重なるからこそ強くなるからだ。
しかしながら、拳の本来の攻撃力なんてものは、剣や弓矢なんかと比べてしまえば、微かなものになってしまう。
そして、わたしも女子の中では比較的に筋力はあるが、普段からトレーニングしている男よりは、筋力が圧倒的に少ない。
だからこそ、そんなわたしの拳に魔法を纏わせて敵を殴ったところで、まったく強いとは思えないのだ。
わたしが魔拳士について頭の中で評価していると、これまでわたしの方から話しかけなければ一切を動きを見せなかったエルが、自分からその小さな口を開いた。
「では、それぞれの能力における、仕様などの詳細についてを開示いたします」
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能力一覧
・髪操作
概要――髪の操作、伸縮、膨張や収縮などを可能にする能力。
・髪質変化
概要――髪質を硬化、液化、気化など、変化させることなどが出来る能力。
・武術「ロリータ」
概要――古代ヴィレット王朝にて、著しく発達した武術。殴打を主軸として蹴りなども使用する武術であり、その特徴は瞬発力と独特な間合い。身長が150センチに満たない女性によって発展され、主にドレスを着用していた貴族令嬢による優雅な武術として、長年継承されてきた。
・色彩変化
概要――同時に2つの属性魔法を使用することが可能となる。そして、能力の発動によって、使用する属性を変更することが出来る。
・武装「魔法少女」
概要――魔法少女に変身する能力。
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「お、おぉ………………1つだけ、世界観が意味不明な能力はあるけど。まあ、なんとなくは把握出来たか、な?」
浮かび上がった半透明のスクリーンを読み終えたわたしは、少し困惑しながらもエルに向けてそう言った。
「承知しました。それでは最後に、ひかり様には1つの制約が課されています。それは、『ツインテールの状態でのみの能力使用』です」
「………………はい? え、ルール? わたしずっとツインテールじゃないとダメってこと?」
「否定。ツインテールの状態でのみ能力が使用できるだけであり、私生活には影響を及ぼしません。正確に言えば、ツインテールを解いている状態では、魔力を行使することが不可能となります」
「ふーむ……なるほ、ど? つまり、戦う際にはツインテールじゃなければいけないってことか」
突然、制約が課せられると言われて焦ったが、聞いてみれば大した事ではなさそうだ。
わたしは日本にいた頃から、お風呂場と就寝時以外はほとんど髪を解くことがない。
ただその代わり、わたしは異世界でもずっとツインテールで髪型が固定されるようだ。
(うーん、別に嫌ではないけど……ほんとちょっとだけ気分的に嫌、かも……?)
「それでは、ひかり様の能力についての説明が終わりましたので、これから実際に能力を使用していきましょう」
わたしがとてもふわっとした複雑な感情を覚えていると、1度も表情が崩れていないエルが再び口を開いた。
「分かった。まずはどれからやればいいの?」
「順番に試行していきましょう、まずは髪操作からになります。『髪操作』と唱えながら脳内で髪を伸ばすイメージをしてください」
「えーと、唱えながらイメージを………………髪操作」
仕様が不明なこともあって、わたしは無意識に小さくなってしまった声でそう呟くと、頭の中で髪が腰の位置まで伸びている自分をイメージする。
「………………ん? なんか変な感覚がすぅわぁ!? す、すっごい伸びてる……!」
なんだかくすぐったいような感覚を、わたしは頭から背中にかけて唐突に覚える。
それが酷く気になって視線を下に向けると、なんとわたしのツインテールの房が両方とも、イメージ通りに腰まで伸びていた。
「はい、成功のようですね。今度は、縮むイメージを浮かべながら『戻れ』と唱えてください」
「すぅ……戻れ」
わたしはそう呟いた瞬間、シュルシュルと蛇が木を登るかのように髪が短くなっていき、いつもの長さである胸前の位置までまで短くなった。
(おぉ……なんか凄い不思議な感覚)
「成功ですね。次は、髪質変化を試行しましょう。金属などの硬い物質をイメージしながら、髪質変化と唱えてください」
硬い物質をイメージとなると、髪を硬化させるのだろう。
わたしは頭の中で鋼を思い浮かべると、口を開いて「髪質変化」と唱えた。
「………………あれ? 特に変化は……ない?」
何にも変化がないように感じたわたしは、不思議に思いながら右側の房に手を伸ばす。
そしてキュッと掴もうとした瞬間、髪がありえないほどの硬さをしており、わたしは驚いて手を離した。
「こ、これが髪質変化、かぁ……」
確かに、金属と遜色ないほどに、わたしの髪が硬く変化していた。
それにしても、この能力はどこで活用出来るのだろうか。
(ふわふわな素材に変えて、枕にする、とか……?)
そんなわたしの考えを読んだのか、エルは淡々とした口調で説明を始めた。
「この能力は、単体ではあまり効力を発揮しませんが、髪操作との組み合わせによって大きな力を発揮します。例を挙げると、髪質変化によって髪を硬化させ、その状態で髪操作することによって、フレイルのような打撃武器として攻撃することが可能となります」
フレイルとは確か、柄の先に鎖などで打撃部を接合した、打撃武器の1種だったような覚えがある。
彼女の説明によれば、髪質変化と髪操作がシナジーを発揮することによって、このツインテールが打撃武器になるようだ。
なんというか、酷く斬新というか……
「え、わたし……破壊属性の魔法少女ってこと? そんな過剰武力なことある? 可愛さどこ行ったの?」
こんな可愛い見た目の魔法少女でその攻撃の仕方は、あまりにも解釈不一致でしかないんだが!?
わたしは心の中で、今日で1番大きな声で文句を叫んだ。




