第12話・魔法剣士にあこがれて
「この「マホッター」っていうアプリは?」
「マスターが作成された、魔法少女専用の多機能アプリケーションです。「マホッター」を介することによって契約者様は、魔法少女システム・マギへの接続が可能になり、魔法少女についての情報などを入手することが出来ます」
「なる、ほど……? まあ、なんとなく分かった」
「いま言ってた、えーと……魔法少女システム・マギっていうのは?」
「魔法少女に関する全機能を制御するシステムの総称です。主な機能と致しましては、魔法少女の個人情報の管理や魔法少女が使用する能力の制御。魔力循環による肉体的、精神的なダメージの軽減、回復。魔法少女に関――」
「ちょ、ちょっと待って! えーと、個人情報とかを取り扱ってて……能力の制御、あとはダメージ軽減と回復ね。おっけい……ごめんなさい、続きをお願いします」
「承知しました。また機能の他には、魔法少女に連する物品の収納、排出などが存在します。これらの機能は、魔法少女システム・マギと魔法少女専用アプリケーション・マホッターの接続によって、利用が可能となっています」
「ふんふん。これは、あのスマホ消失バグのこと、とかなのかな……?」
「えーと、それじゃあ……魔法少女ナンバーってなに?」
「魔法少女システム・マギに登録された魔法少女に、順に割り振られる番号のことです。現在マギには、1から8までの番号が登録されています」
「ッ!? そ、それじゃあこの世界には、魔法少女がわたし以外に7人いるってこと!?」
「否定。現在この世界で確認されているのは、魔法少女No.7のみとなっています。他6名の魔法少女は既に辞職しているか、または殉職済みや行方不明となっています」
「あ、あぁ……そう、か………………でも、1人はいるんだ……」
「というか、そもそも【魔法少女】ってなに?」
「推定5000年以上前に神格を獲得した、現魔法の神メージーン様に祝福を授かった異世界人のこと、またはその祝福自体のことを指します」
「め、メージーン? それって、どんな人なの?」
「メージーン様は生前、全6属性の魔法を完全習得し、旧アルケレス王国にて大賢者の称号を授かっていました。その功績を認められて神格を授かった結果、現在魔法の神として、現世において多くの人類に信奉されています」
「ほへぇ……な、なるほど……」
「そもそも……神って、どんな存在?」
「――――――セキュリティ・クリアランス・レベルが不足しているため、情報を取得することが出来ませんでした」
「あぁ、やっぱりダメなんだ」
「それじゃあ……わたしの魔法少女としての能力って、どんなの?」
ひと通り疑問に思っていたことを質問したわたしは、最後の質問としてエルに問いかける。
すると彼女は、人形のように固まっていた表情をぴくりと動かすと、グッと目の前まで近付いてきて口を開いた。
「ひかり様の能力については、適性検査によって判断がされます。只今から検査を行いますので、その場から動かないでください」
「あ、はい」
エルの有無を言わさぬ対応に、わたしは落ち着きを失いながらも、指示に従って案山子みたいに棒立ちになる。
「それでは、測定を開始します」
彼女がそう言った瞬間、エルの金ピカな右目を覆うように、複雑な紋様が描かれた円形の光が浮かび上がっていた。
そのまま数秒が経過すると、魔法陣が消えると同時にエルが静かに口を開く。
「完了しました。事前に把握していた情報も含め、測定結果を開示いたします」
彼女のその言葉と共に、わたしの目の前に半透明のスクリーンのようなものが出現した。
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ファイル――個人情報・魔法少女No.8
・基礎身体数値
個体名――彩星ひかり
年齢―――18歳
性別―――♀
身長―――144.4cm
体重―――38.1kg
BMI――18.27
座高―――67.8cm
胸囲―――64.2cm
・身体能力数値
STR――4
VIT――2
AGI――4
INT――5
MND――4
合計評価点――19/25
総合評価――B
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身長や体重が今年の春に測定した結果と、完全に一致している。
つまり、この測定結果は真だと思っていいだろう。
そもそもエルは1度もわたしに触れていないどころか、ただ見ていただけなのにも関わらず、どうやって年齢やら胸囲やらまで把握することが出来たのだろうか。
もしかすれば、このスクリーンを出現させる前に言っていた『事前に把握していた情報』とは、これらの知覚では分からない情報のことを指しているのかもしれない。
(でも、その情報自体もどこから……それとも、さっきの魔法陣で、わたしの記憶でも読んだ……?)
だが、今はそんなことよりも、もっと考えるべきことがある。
『身体能力数値』
合計評価点に記された点数から、1項目での最高点が5点だということは読み取れる。
だがこれらの数値は、何が基準になっているのだろうか。
5つの項目の中で、満点なのはINTのみ。
そしてSTRとAGIは、高数値を獲得出来ている。
逆に1番低いのは、VITの2点だ。
日本にいた頃から、自分の体力は平均よりも少ないとは感じていたが、実際にこう数値化されると思うところがある。
そんなことを考えていると、羽ばたいていないにも関わらず、どうしてか空中で静止しているエルが口を開いた。
「この測定結果を元に、ひかり様に適性のある魔法、戦闘スタイルを収集。そして、それらを合成することによって、魔法少女としての能力を作成いたします。現在、能力作成の準備を進めています――――――完了しました。それでは作成に取り掛かります」
(あー、なるほど。だから測定なのね……)
エルの説明を聞いたわたしは、身体測定を行った理由に納得する。
もちろん、あれほどの詳細な情報をどうやって入手したのか、についてはいまだに理解出来ていないが。
それにしても、わたしに最適な能力は何になろうのだろうか。
個人的な意見としては、せっかく異世界に来たのだから魔法を使ってみたいと思う。
あとは、陳腐なものにはなってしまうのだが、魔法剣士? 魔剣士? そんな職業なんかにも憧れがある。
そんな不確定な未来に思考を理想を抱いていると、無表情のまま停止していたエルが唐突に話し始めた。
「――作成に成功しました。それでは、ひかり様の魔法少女としての能力を全て開示いたします。また、能力の決定に伴い、魔法少女としての個体名が設定されました」
「つ、ついに能力が………………え、まって勝手に名前決めたの?」
危うく聞き逃すところだった衝撃の事実に、わたしは反射的にツッコミを入れる。
しかしながら、それに対する返答が来る前に、半透明のスクリーンが再び出現した。
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ファイル――個人情報・魔法少女No.8
通り名――ロリータ・ツインテール
職業――魔拳士
能力一覧
・髪操作
・髪質変化
・武術「ロリータ」
・色彩変化
・武装「魔法少女」
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「ちょ、ちょっとまって?」
なんか、ツッコミどころが多すぎるんですけど………………?




