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辺境伯令息の崇拝

令息は婚約者を女神のように崇めている

 辺境伯令息ディックの元にその報告が来たのは国立学園に入学する半年前。


「リリエラ嬢!! 何で学園に入学しないなどと!!」

 学園に入学しない。辺境伯に嫁ぐので、花嫁修業させてくださいと言う手紙が来たので、慌てて王都に行こうとしたのだが、王都に向かうよりもこちらで待っていた方が入れ違いにならないと思ってそわそわと落ち着かない気持ちで待ち続けていた。


 そして、カールネイソン公爵令嬢リリエラ嬢がパルフィック辺境伯の屋敷に辿り着いたと聞いてすぐに問い掛けて……問い詰めていた。


「…………」

 リリエラ嬢は到着してすぐにお茶を飲んでソファで疲れを癒していた。そんな時間を邪魔してはいけないと思ったが、それでも聞かないといけない。


「王立学園に通うのは貴族の子息令嬢の義務のようなものです。それなのに何故………」

「確かに公爵令嬢のわたくしが通わないと言う選択肢は本来なら許されません。ですが」

 リリエラ嬢の傍に控えていた侍女が取り出したのは経済学の専門家。礼儀作法で有名な夫人。他にも諸々の有名な方々からの学園に通わなくてもよいと書かれた書類。


「学園で学ぶべき事は全て学んできました。後々変化する事があると思いますがその時はまた学べばいいと思います。貴族の横のつながりも学園に通う前に出来る限り結んできましたし、ディック様は学園に通うのは変わりませんので、それはお任せします」

「それはあくまで机上の空論で……」

 そんなうまくいかないと説得しようとするが、

「いえ、机上の空論というのならわたくしはこの辺境伯領に嫁ぐと言う意味の事を机上の空論だと思っています」

 そっとカップを机に置く。


「辺境伯領は常に隣国。魔物の危機に備えて暮らしています。ですが、中央ではそんな辺境伯領が盾になり剣になっていると言う事実を知らずに平和を当たり前だと謳歌しております。そんな認識のずれがこの国を二分化しているという脅威に気付いていない」

 …………鋭い意見だ。国の中央は辺境の危機を知らないで、いろいろ文句を言ってくるという不満が溜まっている。

 魔物の脅威には近くの領主同士が助け合いをしているがそれで自領が手薄になる事を考えて容易に助ける事も出来ない。かといって隣の領が倒れたら次に牙が向くのは自領。

 だが、中央はそんな危機を知らずに辺境はまともな人がいないとか税金が少ないのは不公平だと文句ばかり告げている。


 流行遅れだとか貧乏くさいとか社会性がないとか野蛮だとか………。

 そんな言葉を聞かされ続けて、国のために戦っているという自負もそのうち砕けていくだろう。


「そんな不満がいつ爆発してもおかしくないからこそのわたくしとディック様との婚姻です。だけど、わたくしも公爵家令嬢。辺境のしきたりも危険性も知りません。そして、それを知るのは学園を通うよりも必要な事だと感じました」

 だからここで暮らしたい。辺境伯夫人になるために。


 そう告げる眼差しは綺麗だった。


 ああ、この方はそういう方だった。

 婚約の話が来たのは10歳のころ。今から4年前。


 本来なら同じ年齢の王太子の婚約者候補の筆頭として…いや、婚約者として名が挙がっていてもおかしくない方なのに国政を学んで中央と辺境の考えの格差に気付いてその違いに脅威を感じた。


『ディック・パルフィック辺境伯令息様。唐突ですが、わたくしと婚約してください』

 カールネイソン公爵夫妻と共に訪れた令嬢は挨拶と共に直々に申し込んだ。


 中央と辺境の考え方の齟齬を解決するために政略結婚。

『公爵家の娘として王家に嫁ぐ方がいいと思われますが、それでは発言力を強くして余計な敵を作りかねません』

 とそこまで考えての婚約の申し込み。


 …………辺境伯を継ぐ者として国立学園に通うのはほぼ義務だったのでそこで結婚相手を探そうと思っていた。中央の貴族との婚姻を結んでの現状を理解してもらいたかった。だが、すでに理解してくれて婚姻を望んでくれている。

 なんという奇跡が目の前に現れたのかとカールネイソン公爵令嬢――リリエラ嬢がまるで女神か天使に見えた。


 それからいろいろ両家の話し合いが進められて、手紙のやり取り。会える時は会いに行き、理解を深めてきた。


 そのたびに自分は素晴らしい方に出会えたと喜びに満ち溢れて、その気持ちが愛情になるのは必然ともいえただろう。


 そして、彼女も同様――。

「相談もせずに決めてしまって申し訳ありません。その…いっ、嫌、でしたか?」

 不安げに上目遣いで尋ねる視線に、

「そんな事ない!!」

 と慌てて首を横に振る。


「だが、それでは入れ違いになってしまうな……私も学園に通わないと言うわけにはいかないのが残念です………」

 落ち込んでしまうとリリエラ嬢はくすくす笑い、

「ディック様はわたくしとは違うやり方で辺境をよくするために方法を学んで来てください。二人で助け合いましょう」

 それに。

 耳元で囁かれる。


「最後の学年だけ編入試験を受けて入るつもりです。特待生制度に飛び級制度もありましたから。……一緒に卒業式に出たいので」

 顔を赤らめて告げる様に、

「待ってます!!」

 と喜んでしまい強く抱きしめて気絶させてしまったが、リリエラ嬢は許してくれた。


 自分は本当に素晴らしい婚約者を得たと思ったのだった。




 だから、彼女が時折憂い顔になる時があって小さくごめんなさいと無意識に謝っている時があるのを聞かなかった事にして、いつか話してくれる時が来たらどんな事実があっても受け入れる覚悟はすでに出来ていた。

公爵令嬢の場合………

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