第2話 いざログイン
「インストールできたか?」
今日は『ブレイブ・リンク・オンライン』通称(VRO)をケイトと始める日だ。電話越しにケイトが話しかけてくる。
俺はパソコンの画面に表示された『インストール完了』の文字を一瞥すると機材にケーブルを差し始めた。
「ああ。無事にインストールできたみたいだ。でもわざわざサービス開始直後に始めなくてもよかったんじゃないか?」
現在の時刻は午前零時。ゲームのサービスが開始されて間もない。わざわざこんな朝から始めなくても、今日は土曜日だから一日中時間はあるはずだ。
「まあそういうなよ。俺は結構楽しみにしてたんだぜ?それになにかと早い方が他との差ができるってもんよ」
「まあそれもそうだな」
実際俺もかなり楽しみにしていたので何も文句はない。どうせ家族は俺のことなんて気にもしてないので、怒られる心配もない。安心して夜更かしできるってものだ。
俺はケーブルを差し終えると、自室のベッドに横になりVRゴーグルを装着した。ひと昔前までは、視覚のみをゲームの世界に送り込むだけだったが、今はフルダイブ技術が発達して聴覚、嗅覚、触覚、味覚までも再現できるようになった。
フルダイブ中はリアルの世界での音や感覚を遮断される。よってコンピューターによって人間は支配されているとしてこの技術を忌避する人間も一定数いるのが現状だ。
「それじゃあまた『あっち』でな」
「ああ」
そう言ってケイトとの電話が切れた。静寂に包まれた空間で俺はゲームの世界へと意識を移動させていった。
しばらくすると、俺の目の前にはオープニング画面が表示された。盛大な音楽とともに目の前に赤い文字に黒い縁取りで『ブレイブ・リンク・オンライン』と文字が浮かんできた。
音が少し大きかったので右上にあるメニュー画面から音量のバーを少し下げてみた。すると、音が小さくなった。
俺はとりあえず『GAMESTART』のボタンをタップした。正確にいうと、今はまだアバターが出てきていない状態なので画面のクリックといった感じだ。すると、かっこいい男の声で『ゲームスタート』と流れてきた。男の声で少々残念だったがまあそれはいいとして画面は真っ暗になった。音楽も止まったようだ。
再びしばらくすると何もない白くて円形の空間に飛ばされた。周囲には数列がずらっと流れて行っており、注視しすぎると酔いそうだ。
ここではアバターがでるようだ。俺は自分の手を握ったり、開いたりしながら感覚を確かめた。さながらゲームの世界とは思えない現実感だった。しっかりと動く。時差はないようだ。
とりあえず俺は目の前のメニュー画面に触れてみることにした。恐る恐る人差し指で画面に触れると、ピコンという音と同時に目の前に鏡が現れた。アバターの設定の確認らしい。下の方には赤字で『一度決定すると元には戻せません』と書いてあった。
鏡に映っているのは見慣れた醜い自分の顔だ。相変わらずブサイクだが、ださい眼鏡とニキビはなくなっていたので多少はマシになっている。これ以上いじることは出来ないのでそのままにして『次に進む』を押した。赤い文字で注意書きが出てくる。それを無視して俺は次に進んだ。
こんどは利用規約がでてくる。相も変わらず読むのも面倒になるくらいの長文だったので飛ばした。こちらも赤い文字で注意書きが出てくるが無視した。
最後に選択画面が出てきた。左側には『人間族』と書かれた黄色の画面。背景にはイケメン勇者がこちらを向いて剣を構えてポーズをしている。正直憎たらしい。こっちを向くな。
右側には『魔族』と書かれた紫色の画面。背景には人型の魔族(見た目だけでは種族は分からなかった)が後ろを向いていた。イケメンかどうかは分からないが、右手には赤黒い炎が発生している。厨二心をくすぐるポーズだ。
俺は陰キャ厨二病の権化なのでもちろん右側を選んだ。ちなみに、ケイトにも事前に魔族を選んでもらうよう説得していた。ケイトは喜んでオッケーしてくれた。本当に優しい男である。
再び赤字注意書きが出てきた。三回目だ。正直鬱陶しいが、二度と変えられない要素らしいので仕方ないと納得した。
設定を終えた俺の意識は白い部屋から別の空間へと移動しているようだった。視界が真っ白になっていく。
視界に色が戻ると目の前には大きな町が広がってた。
俺が「メニューオープン」と言うと視界にメニューが表示された。メニュー画面から『町の詳細』ボタンをタップする。すると画面が切り替わり、町の名前と三つの項目が出てきた。
ーーーーー
【アルグスの町】
・施設
・プレイヤー数
・詳細
ーーーーー
俺はとりあえず真ん中の『プレイヤー数』をタップした。すると、棒グラフが出てきた。今日の日付、七月九日現在のプレイヤー数は十二人だそうだ。案外少なくてびっくりしたが、深夜なのでそんなもんかと思ってしまった。
「よっ!入れてるみたいだな」
「ひっ!」
俺がメニュー画面を閉じようとすると、ケイトが俺の肩を後ろから叩いたみたいだ。思わず変な声が出てしまったじゃないか。
「何を見てたんだ?」
他のプレイヤーのメニュー画面は覗けないらしい。結構いいシステムだ。のぞき見なんてされたら厄介だしな。うん。
「現在この町にいるプレイヤー数だよ。今は十二人らしい」
「そっかあ。案外少ないんだな。まあ魔族の人気よりも人間族の人気の方が高いってネットでも言ってたしな」
「へえ~。みんなこの良さに気が付いていないとは勿体ないね」
「だな。案外悪くないのにな」
アバターの顔や身長等はリアルに影響されるのだが、魔族の場合、種族はランダムに割り振られるらしい。俺は悪魔族。ケイトは鬼族だ。種族に応じて初期スキルを持っているところが魔族の強みなのである。
「あ、そうだ。今度からゲームの中じゃあ俺のことはケルトって呼んでくれ。そっちの方が雰囲気出るってもんだろ?」
「そうだな!よろしくなケルト!俺はじゃあイングストって呼んでくれ」
「了解。イングスト」
俺の普段の名前が陽だから反対の陰から取った。まあ性格的にも陰寄りなのでこっちの方がしっくりくるくらいだ。
「とりあえずどうする?折角だし、レベルでも上げに行くか?」
「そうだね。そうしよっか」
俺達はとりあえず近くの草原でレベル上げを行う事にした。現在町の中心部にいるのでここから北にずっと行けば外に出られる。
この世界はレベル制だ。最高レベルは1000。レベルが上がるにつれて強力なスキルを覚えたり、魔法を使えるようになったり、ステータスが強化されたりする。つまり、レベルを上げれば強くなるというわけだ。
しかしレベルだけが全てではない。技の駆け引き、プレイヤースキル、相性などの様々な要因によって勝敗が分かれる。まあレベルが高いに越したことはないが。
魔族には人間族とは違い、初期からスキルを持っているというメリットがある。しかし、適正のない武器や戦い方が一切できないというデメリットもある。人間族は職業を自由に選べるのに対し、魔族は完全ランダムだ。使用できない武器や戦い方は一生使えない。よって魔族の人気が低くなるというのも分かる気がする。
幸い、悪魔族も鬼族も戦闘向きの種族だ。安心して戦場に出られる。
ケルトとの雑談をはさみながら数十分歩いていると、町の外壁まで到着した。大きい門がそびえたっている。下手したら五十メートルはくだらない。
「ここから先が『はじまりの草原(魔族領)』だ。まあ俺達はスキルがあるから余裕だろうけど気を抜くなよ?死んだら経験値ごっそり持ってかれるって話だから」
「了解」
俺達は気を引き締めなおして、町の外へと飛び出していった。
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