第10話 VS地竜【2】
「さてはお前『魂喰らい』が効くな?」
俺はこの時、勝利を確信した。
今まで俺の魔法をことごとく浴びて平気な顔をしていたドラゴンが、さっきの技は避けたのだ。
これは俺達がドラゴンの放つ覇気に足がすくんでしまうのと同じで、生物の生存本能によるものだろう。ゲームにそんなこと求めるなよという声が聞こえてきそうな気もするが、相手はボスだ。マップを徘徊している雑魚とは訳が違う。
「グルルルルル・・・・」
ドラゴンが上空へ逃げてから、もうすでに5分が経過した。その隙に何度が魔法を放ったが、素早い身のこなしで全て避けられてしまった。MPももう半分を切っている。無駄打ちできない状況だ。
しかしドラゴンは一向に降りてくる気配がない。どうしたものか・・・・
「なあイングスト。あいつを何とか地面に叩き落としたら勝てそうか?」
「ん?ああ。地面に下ろした後、10秒稼いでくれればいけるかも」
「了解。俺に任せとけ!10秒じゃなくて20秒は持たせるぜ?」
そう言ってケルトは自身に攻撃力上昇Ⅰの魔法を付与、その後『圧殺潰し』でハンマーを最大限強化した。
「なあドラゴンさんよ?ハンマーにはこういう使い方もあるんだよ!!」
そう言ってケルトはハンマーをドラゴンに向かって全力で投げた。ケルト自身は威圧系スキルによって動けなくなっているが、その闘志は今も動き続けている。その瞳には諦めの「あ」の字も映っていなかった。
しかし、咄嗟にハンマーを投げつけるとはよく思いついたな。
昔読んだラノベに、「ピンチになった剣士は剣を投げる」という剣術の流派が存在していた。それをハンマーで代用したと思われる。
効果はてきめん。不意の出来事にドラゴンは回避が遅れ、ハンマーが直撃した。流石はケルトの最大の一撃。ドラゴンは落ちていき、地面へと直撃した。すかさずケルトが追撃を入れる。
「ははっ!イングストばっかり警戒しやがって足元救われたなあ!『局所破壊』!」
同時に地面に落下してきたハンマーを手に取り、落ちてきたドラゴンの羽にハンマーを打ち込んだ。
「グギャアアアアア!!」
ドラゴンが絶叫した。見ると左の羽に風穴が空いている。もうこれで空へは逃げられないだろう。
「終わりだ!!『魂喰らい』!」
俺は杖を握っていない左手から紫色の光線を発射した。その光線はゆっくりとドラゴンへ迫っていく。
もうドラゴンには空へ逃げる余力はないようだ。決死の覚悟でこちらへと突進してくる。『魂喰らい』を耐えて反撃するつもりなのだろう。
しかし・・・・
「グギャアアアアアア!!!!」
紫色の光線に直撃したと同時に、ドラゴンは息絶えた。やがて青白い光と共に宙へと消えていった。
前側と後ろ側の扉が自動的に開いていく。どうやらボスは完全に倒せたらしい。
俺は立て続けに23回レベルアップした。耳元でレベルアップ音が何回も何回も鳴り響く。正直うるさい・・・・
「勝った。勝ったぞ!!」
「やったな!!」
威圧系スキルから解放された俺達はハイタッチを交わした。勿論、できれば女の子とするのが夢なのだがケルトとしても全然嬉しかった。ようやく人生15年にして喜びを分かち合える友に出会えたのだ。思わず涙が出そうになったが、必死でこらえた。
「とりあえずステータス確認してみるか!」
俺はメニュー画面から『ステータス』の項目をタップした。ケルトも同じことをしているようだ。
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イングスト 悪魔族
レベル:33
二つ名:なし
体力:40→170
攻撃力:37→167
守備力:37→167
素早さ:42→172
魔力:60→190
MP:50→180
SP:45→175
スキル:魂喰らい、早熟、マップ解放、魔王契約、魔王覇気、魔力増強Ⅰ、消費MP減少Ⅰ、魔法命中率上昇Ⅰ、鑑定眼
魔法:火炎槍、暗黒砲、爆発、火炎壁、鈍化
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ケルト 鬼族
レベル:26
二つ名:なし
体力:55→140
攻撃力:65→150
守備力:48→133
素早さ:50→135
魔力:42→127
MP:52→137
SP:70→155
スキル:粉砕潰し、地震、貫通破壊、鬼化、早熟、マップ解放、攻撃命中率上昇Ⅰ、消費SP減少Ⅰ、鑑定眼
魔法:攻撃力上昇Ⅱ、素早さ上昇Ⅰ
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「魔王契約に魔王覇気ってことはイングスト魔王になったのかよ!?」
「ええええええええ!?」
共有化をかけてお互いのステータスを見ていた俺達は衝撃の事実『イングスト魔王化』を発見してしまった。
「俺が魔王・・・・・なんかいいな!!」
あこがれていた最強に一歩近づいた。そんな気がする。
厨二病の俺は早く『爆発』を使ってみたかったが、今日はここでお開きにした。お時間も丁度いいしな。
明日は学校だ。憂鬱である。しかし、それが終われば俺が魔王としてゲームで無双する物語の始まりだ!!俺は興奮した気持ちのまま、眠りへとついた。
この時彼らは知らなかった。
ある人物の陰謀が既に始まっていたことに。
第一章 アルグスの町編 終
次章 港町レグリア編




