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Happy End 燃え上がるような恋を【ケイト・グリンデルバルド】

 

「俺、ローズちゃんのこと好きかも」

「……はい?」

「いや、だからローズちゃんのこと好きかなーって」

「え、えっとごめんなさい?」

「まさかの即答」



 ナチュラルに告白され、華麗にスルー。


 ケイトのことだから、どうせからかっているのだろうと思った。チラリとケイトを見れば何やら考え込んでいる。



「……けっこう、こたえたな」



 ケイトは目を瞬かせながら、胸の辺りを掴んだ。シャツはくしゃりとしわになる。動悸か何かか? と意味のわからない心配をしていると、ケイトは勢いよく顔をこちらへ向けた。


 うおっとわたしが身じろいだのには気にも留めない様子で。



「うん、好きだわ。俺、ローズちゃんのこと好きなんだ」

「え、それでもごめんなさい」

「うーん、揺らがないかあ」



 揺らがないです、とつっこむ。けれど内心驚いていた。どうやら本気らしい。



「分かった、俺、これからローズちゃんのこと振り向かせて見せるから。覚悟してて!」



 まさかの宣戦布告。

 ケイトの瞳は燃え上がるように赤くて、わたしは思わずごくりと唾を飲み込んだのだった。





 それからというもの、宣戦布告した通り、ケイトは様々なアプローチを仕掛けてきた。

 パーティで会えばダンスのパートナーをいち早く申し込んできたり、デートのお誘いにやってきたり、何やら意味を含んでそうな花を贈ってきたり。



「どう? ちょっと揺らいだ?」

「ううーん……」



 かくいう今日もデートに引っ張り出されていた。話題のカフェを貸し切るという侯爵らしさを見せつけたケイトをわたしはぼんやりと見つめる。



「なんだか、普通だな……と」



 なんせ、初手が誘拐でスタートしたのだ。その他にも長寿だったり魔法のレベルが段違いだったり、属性が多すぎる。それを踏まえると、どうしてもびっくりしない。アプローチがあまりにも模範的すぎた。


「そっかあ」とケイトは首を捻る。



「こういうのは初めてで、よくわかんないんだ……って言ったら格好悪いのかな、ごめん忘れて」



 ぽろりと溢れた言葉にケイトは慌てて顔を覆い隠した。わたしはなぜかそれを見てフォークを落としそうになった。


 そういうの、ずるい。


 そう言いかけたのを飲み込んで、わたしは目を逸らした。






「『今夜、お迎えにあがります』……?」



 手紙、というよりかは怪盗が送りつけてくる予告状に近いそれを見てわたしは思わず笑ってしまう。

 名前は伏せてKと書いているけれど、バレバレである。


 わたしは気がつけばクローゼットを覗き込んでいた。

 ケイトはやっぱり怪盗っぽい格好でくるのかな、とか、何をするんだろう、とか。楽しみだな、とか。


 いつのまにかケイトのことばかり考えてしまっていることに気がついた。


 顔に熱が集まっていくのが分かった。

 どんな顔をして、今から会ったらいいんだろう。




「お迎えにあがりました、お姫様」



 ケイトは少年みたいに笑ってみせた。

 マントを羽織ってしまう窓から登場するあたりが、本当にケイトらしいというか、なんというか。



「やっぱり、お姫様っぽい格好をしていて正解でしたね」



 けらけらと応えるように笑う。わたしはレッドベルベットのドレスを身に纏っていた。ケイトは一瞬見惚れるようにわたしを見つめて、何か言いかけた。


 気付いた、だろうな。


 珍しくらしくないことをしたとは思う。相手の瞳の色に合わせたドレスなんて、好きだと言っているようなものなのだから。



「で、攫ってくれないんですか?」

「……う、うん。行こっか」



 動揺しっぱなしのケイトの手を取ると、そのまま横抱きにされた。

 そのまま、ぴょんっと夜の空へ飛び出して、瞬間で移動した。


 着いたのは、まさかのお城の上。足場は不安定で、どうやって立っているのか気になったけれど、足元を見るのが怖すぎて大人しくしていることにした。



「見てて」



 ケイトはそう言うと、パチンと指を鳴らした。

 ほぼ同時に視界が明るくなる。上空では大きな音が鳴る。



「花火!」



 上空では色とりどりの大輪の花が咲いていた。ケイトの魔法だろうか、見惚れてしまうほど綺麗な花火にわたしは目を輝かせる。

 城下も花火を見ようと賑わい始めていた。



「綺麗でしょ」



 わたしはこくりと頷いた。暗くなってしまう前、その一瞬に見えたケイトの笑顔があまりにも素敵で。

「ね、ケイト様」とわたしは呼びかけた。



「赤いバラの形は、できるんですか」

「できる、けど……」



 パッとまた上空が明るくなる。わたしも、ケイトも酷く照れた表情をしていたと思う。



「わたしたちみたいで、素敵かなって」



 そう答えた瞬間、上空には赤いバラが咲いた。

 照らされたケイトの唇が「好きだ」と動く。



「もう一回言ってくださいよ」

「…………意地悪、楽しんでるでしょ」

「少し」



 にしし、とわたしは笑う。ケイトがこんなに照れているところなんて貴重な気がする。



「でも、ケイト様の声で聞きたくって」



 その直後、唇を押し当てられた。少し勢いがよくて歯が当たってしまう。



「ごめ、その、間違えた、好きって言うのが先だよね」



「俺どうかしてる、殴っていいよ」とケイトはしばらく慌てふためいた。わたしはその様子に思わず吹き出してしまう。

 むっとわたしを睨むケイトに、笑ったまま「それで?」と追い討ちをかけてみる。



「好き。俺、ローズちゃんが好き」

「……わたしも、好きです」

「ね、もう一回、いい……?」



 ケイトが切ない目でわたしを見てくるから、逆らえそうもなく。

 花火なんてそっちのけで、またキスをした。


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