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執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?  作者: 陽海
第一章 執着逆ハーに備えて

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なんで来たの?

 

「えー、今日は特別参加者がいる」と剣術訓練場の先生が言い出したので、わたしとラギーは会話を中断してそちらを見た。


 見た瞬間、わたしは「なんで?」と呟いてしまった。


 そこに立っていたのは間違いなくジル。ピカピカの隊服のような服に、手入れされた鞘。間違いなく彼の背丈に合わせて作られたものだ。


 先生の紹介ぶりと、本人の佇まいから、わたしは先日の自分を恥ずかしく思った。

 たぶん、彼はわたしよりももっとずっと剣術に優れているに違いない。



「ジル・ブラックウェルだ。今日は一緒に訓練に参加させていただく。よろしくお願いします」



 礼儀正しい挨拶の最中、目があった。絶対こっちを見ていた。

 思い返されるのは先日のビジネスデート。きっと、可愛いだの、間接キスだのの仕返しにきたに違いない。わたしを馬鹿にするつもり満々なんだわ……





 午前訓練が終わり、休憩中もわたしはずっとジルの動向に目を光らせていた。



「あのさー、俺を盾にして見るのちょっとやめてくんない?」



 わたしはラギーの背後でぐぬぬ、と声を漏らす。

 見ている限り、普通に訓練に参加していて、困っている子にはアドバイスをしてあげている。そして普通に上手い。文句の付け所が全くなかった。

 それに、わたしには気づいていないのか、近寄ってくる気配はない。考えすぎだったのかもしれない。



「でもジルさんがこういうところで訓練するのは初めて見た気がする。いつもは騎士団で稽古をつけてもらっているらしいからさ」

「そ、そうなの? そんなに上手いんだ……」



 じゃあ、なんでますますここにきたのか謎。

 わたしがもう一度ジルに目を向けると、運悪くバッチリ目があった。


 目を逸らしたが、ずんずんこちらへ歩いてくる。

 次に顔を上げた時には、生意気そうな顔が目の前にあった。



「よ、ハレンチ女」



 こいつ、普通に言った。さすがに周囲の手前だからか、声のボリュームは下げてくれたみたいだけど。

 ラギーは当然困惑していて、ちらりとわたしを見る。



「わざわざそれを言いにくるなんて、意地悪ですね」

「別に、ちげーし」



 じゃあ本当に一体何をしに来たんだ。

 わたしが不機嫌気味に顔を背けているなか、ラギーとジルはそれとなく挨拶を済ませていたようで。



「ジルさんは、どうして今日はこちらへ?」



 どうやらラギーはわたしの気持ちを汲んでくれたらしい。

 横目でジルを窺うと、ジルは少し口を尖らせている。



「特に深い意味はない。騎士団以外の訓練場も新鮮でいいかと思っただけだ」

「そうなんですね。えっと……ジルさんが良ければ、ここで休憩していってください。ローズとも顔見知りのようですし」



 にこにことラギーは笑う。コミュ強なラギーはこの絶妙に漂う心地悪さなんて気にならないらしかった。

 ジルも承諾してしまったので、わたしはしぶしぶ一緒に休憩時間を過ごすことになった。





 それにしても、ラギーはすごかった。

 あっという間に敬語なしで会話をするほどにまでなっていた。ジルとラギーが話している様子は普通の少年たちのように年相応のものだった。

 よくよく考えれば、攻略対象たちが会話しているというキラキラした光景の中にわたしはいたらしい。


 午後訓練が始まって、わたしは素振りをしながらそんなことを考えていた。



「もっと重心を下において。力みすぎだ」



 振り向くとジルが立っていた。一瞬身構えたが、この真面目な様子だと純粋にアドバイスをしてくれているようだ。



「バカ、持ち方も少し違う」



 ジルが近づいてきて「俺はお前と違って教えるためだからな」と謎の前置きをした。

 剣を握っていたわたしの上にジルの手が被さる。手指の位置を変えられている。少しくすぐったいけれど、これは純粋に教えてくれているだけだ。我慢。


 いざ、剣を振ってみるとだいぶ楽に振るうことができた。



「ありがとうございます。正直、少し振りづらいと思っていたので、原因がわかって嬉しいです」



 さすが騎士団で訓練しているだけあるなあ、と素直に感心しているとジルがまた口を開いた。



「その、悪かった」

「え、何がですか?」



 唐突に飛び出した謝罪にわたしは反射的に尋ねてしまった。



「だってお前、休憩中ずっと不機嫌だっただろ。だから、俺が来たのが嫌だったのかと思ったんだよ」

「たしかに何しに来たんだろう、とは思いましたけど……」

「そうじゃなくて、ほら、ラギーのこと好きなのかと思って!」

「はい?」



 顔を赤らめている。どうやら本気でわたしがラギーを好きだと思っているらしい。おっと、急に頭痛が。



「えっと、ジル様はわたしとラギーの仲を邪魔したと思ってるってことですか? で、それがわたしの不機嫌の原因だと」

「ああ」

「いや、それ全部勘違いですね。まずわたしとラギーはお友達で恋愛感情はないです」

「違うのか……?」



 キッパリと否定した。不機嫌だったのは馬鹿にされると思っていたから、とはさすがに言えない。なので、次にイラッとしたことといえば。



「どちらかというとハレンチ女発言に怒ってますね!」

「なっ、あれはどう考えてもお前が悪いだろ!」

「わざわざそれを声に出さなくてもいいじゃないですか! ラギーや他の人たちに変に勘違いされていたら困るんですけど!?」



 そこでジルはすんっと真顔になった。



「ラギー、たぶんハレンチの意味知らねえと思う」

「嘘だ……」



 わたしとジルは同時にラギーの方へ目線を向けた。12歳の少年とはいえ、疎すぎやしないか。あの時の困惑顔は「どういう意味?」の困惑顔だったのか。


 この虚しさというかなんというか、ラギーの純情さにわたしたちの言い争いが急に程度の低いものだと気付かされて自然鎮火した。



「その、ごめんなさい……」

「俺も悪かった……」



 ラギーがちょうどわたしたちの視線に気がついたらしく駆け寄ってくる。「仲直りできたかー?」と眩しすぎる笑顔で。



「ラギー、一生そのままでいてね……」



 思わず肩にポンっと手を置いてしまった。

 ラギーにはどうか、執着の鱗片も見せない明るい元気っ子のままでいてほしい。



「よくわかんないけど、ずっと仲良くしてねってことだよな! いいぜ!」



 ……見事なカウンターアタックだった。


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