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Happy End 芽吹いた若葉【レイ・ウィステリア】

 

「僕はローズさんのことが好きです」



 唐突な告白、それも跪いてわたしの手を取るいかにもプロポーズのようなそれにわたしは思わず「ふぇっ」と変な声を漏らしてしまった。


 レイとの恒例になったお茶会だった。彼は以前と比べてすっかりよく食べるようになって、それでおすすめのスイーツやらを食べる会を定期的にやろうとレイが言い出したことによって始まったものだった。


 部屋の隅では召使いが祈るようにわたしを見ている。そして、なんならレイの兄、ルークも外から見守っている。バレてないとでも思っているのだろうか。


 なかなか返答しないわたしに、レイは不安そうに見上げる。依然と手は優しく触れられたまま。



「……わたしも、レイ様のこと、好き、です」



 たどたどしくそう答えれば、レイを含め部屋は安堵に包まれた。しかしわたしの煮え切らない返答をやはり不安に思ったらしい。



「僕と一緒になるのは嫌、ですか」

「何と言えばいいのか……」



 ごにょごにょとわたしは王妃になることへの不安を口にする。するとレイは怪訝な顔ひとつせず、緊張を緩めたように微笑む。



「大丈夫です、僕がそばにいますから」



 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、レイは「その代わり」と少しいたずらっぽく笑う。


 レイの美しい新緑の瞳が、まっすぐにわたしを捉えていた。





「……だからって、ここまでする必要あります!?」



 くわっとわたしはレイに向かって叫ぶ。レイはわたしを見上げて「せっかくの休憩中くらい休ませてください」とわたしの頬に触れる。


 レイは今、わたしの太ももを枕にして絶賛仮眠中である。


 正式に婚約者となってから結婚式まではありえない早さで過ぎていき、わたしはすでに彼と一緒に執務をこなす日々を送っている。


 王妃になることに不安でいっぱいだったわたしにレイが提示したのはまさしくこれだった。


『一緒に過ごすことでお互い不安は消えていくでしょう。執務は慣れないことばかりだろうから僕が教えます。その代わり、僕の癒しになってほしいんです』


 レイが言った言葉だ。あのときは休憩中のおしゃべり相手だとか気楽なことばかりを考えていたけれど、全然それだけじゃない。


 太ももでの休息、ハグやキスまで、レイのお願いは尽きない。


 恥ずかしいけれど、夫の頼みである以上断れない……それに。



「ローズだって、嫌ではないでしょう?」



 憎たらしいくらい爽やかな笑顔でレイは笑った。わたしが言い返せないでいるのをいいことに、彼はわたしの顔を引き寄せてキスをする。


「はい! もう、休憩終わりです!」と耐えきれなくなったわたしはレイを押し退けて仕事に無理矢理戻らせた。わたしも彼の斜めの席に腰掛け、また書類に目を通していく。


 ちらりとレイを窺えば、先程までの甘々な雰囲気はどこへやら、彼はもう真面目な表情に戻っている。


 その様子にどこかむっとしていると、不意に顔を上げたレイと目があった。


 反射的に顔を逸らしてしまった。レイの軽やかな笑い声が聞こえて来る。



「すぐに終わらせますね。今日の奥さんはなんだか甘えたさんみたいなので」



 そっちこそ、という言葉は飲み込んだ。

 だって、レイの言うことは間違っていない。わたしももっと彼に甘えたいんだから。




 ***




「ローズ!!」



 部屋にレイが慌ただしく駆け込んでくる。隣国との会合はどうしたの、と言いかけたけれど彼のことだ、きっちり完璧に終わらせて駆けつけてくれたのだろう。



「ね、髪の毛はわたしと同じピンクだけれど、目はあなたにそっくり」



 わたしは腕の中にいる小さな我が子に視線を落とす。レイも一緒に覗き込んで「ローズに似て可愛いね」などと囁く。


 きゃっきゃと赤ん坊が笑う。

 大好きな彼と同じ美しいグリーンの瞳が、わたしとレイが寄り添う姿を映していた。


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