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Happy End 花陰に入って 【ウィル・アドラー】

 

「僕、近いうちに学園を辞めようと思っているんです」



 卒業してから、3、4度目に植物園を訪れたとき、ウィルはそう言った。急なことで驚いて慌てて尋ねると、ウィルは少しもじもじしながら訳を教えてくれた。



「実は、花屋を開こうかと思っているんです」

「花屋! 素敵ですね!」

「ローズさんならそう言ってくれると思っていました」

「あの、もしよかったら、1人目の客になってもいいですか……!?」



 食い気味にそう言えば、ウィルはぱあっと笑顔になって頷く。



「ぜひ! 僕もそうなったらいいなあと思っていたので、本当に嬉しいです!」




 ***




 なんて、話をしてから半年後。

 今日はウィルの花屋オープンの日だ。

 レンガ調の家屋がとても可愛らしい。小さな庭もあってそこにはテラス席もある。


 オープン祝いの花束(花屋さんにあげるのは変な気もするが)とケーキを持って、わたしはオープン1時間前に店の前にスタンバイした。幸い、わたしが1番乗りだったようで。



 9時になり、わたしはドアノブをひねった。カランカラン、とドアベルの音が聞こえたのと同時にお花の甘い香りでいっぱいになる。



「いらっしゃいませ、ローズさん! 来てくださって嬉しいです!」

「オープンおめでとうございます! お店の外にもお客様が来てるみたいなので……!」



 花束を渡しながらそう言う。わたしは後にしてくれてかまわないからお客様の対応に回ってほしい、という意を汲んだらしくウィルはペコリと頭を下げて外へ駆け足で出て行く。


 それから、賑わってきたためわたしもなぜか接客をしていた。花の乙女がいるお店だと図らずもお店は大繁盛。もちろん、美しさや香りなどウィルの花の良さに気づいて買っていく人ばかりだ。


 ウィルの花を理解してくれて上機嫌のわたしは、この際客寄せになろうと意気込んだ。



 ……そのせいか、閉店の時間までみっちり客の相手をしたわたしは疲れ切っていた。テラス席でだらしなく突っ伏している。


 すると、かちゃかちゃと陶器の音が聞こえてきた。うっすら香る紅茶の香りに跳ね起きる。



「ローズさん、1日本当にお疲れ様でした。ありがとうございます、こんな時間まで……」



 お茶にしましょうか、とウィルはティーセットが載ったトレーを少しだけ持ち上げて見せた。



「改めてオープンおめでとうございます。大人気でしたね!」

「それはローズさんがいたからですよ」

「そんなことないです、みなさんウィルさんの花をとても褒めていましたから!」



 ウィルの魔法で育てた、というのもあって全ての季節の花が揃っていたから、ブーケにするのを楽しんでいるようだった。おまけにウィルのセンスの良さと、何気なく備えた才能をフル活用して、花を使ったスイーツや雑貨や洋服まで売っているとは驚いた。


 今更ながら、やはり購買で売っていた謎の虹色クッキーも彼の手作りだったのだろうか、などと気になってしまった。



「でも、よかったです。正直、ここまでたくさんの人に来ていただけるとは思ってもみませんでしたから……」



 ウィルは紅茶を少し飲んで、ようやくほっと胸を撫で下ろした。どうやらずっと緊張していたようだ。



「もう、ウィルさん、自信を持ってください! ウィルさんのお花は最高です! わたしはウィルさんの才能がようやく表に出て認められて嬉しいです!」



 にっこりと笑うとウィルは面食らったように真っ赤になる。



「ローズさん、もしローズさんがよかったらまた来てくれませんか……?」

「はい、もちろん! 客寄せとしてしっかり働きますよ!!」



 ドンっと胸を叩くとウィルは小さな声で「そう意味ではなかったんですが……」とぼそりと言った。

 何がだろう、と尋ねようと思ったけれどウィルが全く別の話題を始めたせいで聞けなかった。



 花が咲き乱れたテラス席で、その後もしばらくおしゃべりを楽しんだ。

 花が作り出した陰のように、うっすらと黒いウィルの瞳は時折、恥ずかしそうにふせられたりして。なんだか、わたしまで照れくさかった。


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