Happy End 野原に寝そべって 【ラギー・サンメール】
「え、おめ、おめでとぉぉお!」
うぉぉおん、と泣く勢いで叫ぶのはラギーだ。わたしはジルと顔を見合わせて笑い合う。
ぎゃーぎゃーと一人で大騒ぎしているラギーを横目に、わたしはお腹をさする。「ラギーがうるさすぎて起きちゃうかもね?」なんて声をかけると「黙りますっ」とラギーは静止した。
今日は久しぶりにわたしとジルとラギーの、仲良し3人組で近況報告会をしている。ハイドレンジア学園高等部を卒業してすぐ、わたしとジルは結婚して、ラギーは副騎士団長にまで上り詰めた。お互い忙しくて時間が合わず、なかなか会えなかったのは少し寂しかったけれど。
ラギーはわたしとジルが婚約したときも、結婚式の時も大泣きしていたけれど、今回もまあ盛大に泣いている。でも、そこがラギーのいいところで、そんなラギーを見ると安心する。
「生まれてくる赤ちゃん、俺とも仲良くしてくれるかなあ……」
ラギーはいつのまにかわたしのお腹辺りまでしゃがみ込んでつぶやいた。にこにこと、まだ生まれてもないのに想像を巡らせるラギーにわたしとジルまで笑顔になってしまう。
「ラギーのことも気に入ってくれるよ、ね?」
そう笑いかけると、少しお腹が動いたような気がした。
***
「おーい、こっちこっち!」
ラギーがぶんぶんと手を振ると、その方向へ向かって少しおぼつかない足取りではあるけれど、小さな女の子が歩いていく。
わたしは木陰に腰掛けてジルに寄り添ってその光景を微笑ましく眺めている。
あの子が生まれてから、そろそろ1年が経とうとしている。わたしはだいぶ落ち着いて、最近公爵夫人としての職務に戻った。ジルはやはり忙しくはあるけれど、家族の時間をとても大切にしてくれている。本当に幸せだ。
今日はラギーも呼んで、4人でピクニックをしている。ブラックウェル家の田舎領地は空気もおいしくて天気もいつもぽかぽかしていて、子育てにはもってこいの場所だ。
ちなみに、わたしの子はすっかりラギーにべったりである。生まれたばかりのころは泣き止まなくて困っていたところにラギーが来た瞬間泣き止むというミラクルを起こした。
さすが、ラギーである。
ラギーが腕を広げて到着を待っていると、あの子は途中ですてん、と転んでしまった。わたしもジルも慌てて立ち上がって駆けつける。
「大丈夫、草がふかふかで全然怪我してないよ!」とラギーが声をかけたのでわたしは少し失速した。そして安心からか、わたしまで足がもつれて転んでしまった。
「大丈夫か?」とジルが慌てて手を伸ばす。わたしは「本当、ふかふかだ」とこぼして笑った。さすが公爵領だ、野原まで質が違う。
野原に座り込んでいると、「ま、ま」とぽてぽてと近寄ってきた。ラギーも後から一緒に着いてきてわたしたちは野原のちょうど真ん中あたりで合流した。
「ローズのこと心配してるみたい、優しさはママ譲りかな」
と、ラギーが笑う。隣でジルが頷いていて「ジルだって優しいでしょう」とはにかむ。
「えっへへー、いちゃついてるー」
「いちゃ、?」
「ちょっと、そういうことはまだ知らなくてもいいんだよー」
ラギーはにしし、といたずらっぽく笑うとごろんと野原に寝転がった。ラギーが大好きな我が子も真似をして横になる。
「家族っていいなあ、俺幸せ! 大好きなジルとローズとずっと一緒にいられて、新しい家族が増えて。こうして、これからも一緒にいたいなあ」
そういうラギーは本当に幸せそうで。若干潤んだ瞳につられて、わたしまで目が潤んでしまう。
「ずっとこれからも仲良しだよ、仲良し3人組だもの」
「ああ、この子もラギーがいてくれたら喜ぶからな。わざわざそんなこと言わなくったって、当たり前だろ」
わたしとジルが口をそろえてそんなことを言っていると、寝転がっていた我が子がラギーに笑いかけた。
「い、しょ!」
あまりの可愛さにひっくり返りかけたのを踏ん張ったわたしを褒めてほしい。ジルは少し飛び上がってた。
ラギーはというと、一瞬静止した。そういうときはオーバーリアクションじゃないんだなあ、なんて思う。
「ありがとうー!! みんな、俺大好きだよぉぉお」
……違かった、感情が追いついてないだけだった。笑ったり泣いたりとラギーの顔面は結構面白いことになっている。
だけど、わたしも本当にラギーとおんなじ気分だった。
「ということで、これからもよろしくね、ラギー!」
「うん!」
そう笑ったラギーの瞳は、野原の緑よりも鮮やかで柔らかな、そんな幸せそうな色で輝いていた。




