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Bad End 鬱蒼と茂る 【ラギー・サンメール】

ラギーのエンドはローズとジルが両思いであることが前提になっています。

 

「え、ジルが隣国の王女と、結婚……?」



 ラギーが呆然とそう呟いたのを、わたしとジルは顔を見合わせて頷いた。


 わたしとジルは先日結ばれ、近いうちに結婚することも決まっていた。けれど先週急に婚約解消の命を隣国の王家側から直々に下されてしまったのである。



「仕方ないよ……隣国との結びつきを強めるためだもの……それにもう国同士で決まったことだから……」



 今にも涙が溢れそうだった。ジルはそんなわたしを見て歯を食いしばりながら背を撫でる。そんなことされたら、もう泣いてしまう。


 ラギーはそんなわたしたちを見てガタリと机を揺らして立ち上がる。酷く動転しているようだ。無理もない、ラギーは誰よりもわたしとジルの結婚を喜んでくれていたのだから。



「2人は、あんなにお互い好きなのに、愛し合ってるのにっ、それでも、いいの……?」

「よくはない、けど」

「そんなの、ひどいや……」



 ラギーは顔を伏せる。表情は見えない。

 大事な友達を、こんなに苦しめてしまうなんて。

 でもわたしだって苦しいし、悲しい。どうしたらいいか分からないの。逃げてしまいたい。



「王女が、いなかったらよかったのに……なんて言ったってどうしようもないけど……」



 そうこぼして、またわたしは泣き始めてしまった。




 ***




「本当に素晴らしいわ、戦争を匂わせただけであっさり公爵身分の殿方を差し出してくれるのですもの。うふ、でもよかったわ、だって彼、とても私好みなんですもの!」



 国同士の繋がりを祝したパーティーが行われている。わたしも、もちろんラギーもジルの友人としてパーティーに招待されていた。

 隣国の王女は先ほどからわたしの耳に聞こえるか、聞こえない程度の声量でそんなことを喋っている。

 完全なる嫌がらせだ。わたしとジルのことは社交界ではだいぶ話題になっていたことだし、隣国とはいえその噂の公爵令息と婚約しようとしている王女が知らないはずがない。


 わたしはため息をついてちらりとジルを窺う。ジルもわたしを見ていて眉を下げる。

 もう、こうやって会うこともできなくなってしまう。そう思ったら視界が潤んだ。


 扇子を取り出してせめて、と口元を覆った。目元までオーバー気味に覆う。王女を視界に入れたくない。離れよう、と方向転換する。


 扇子の向こう側で、誰かが王女に話しかけているように見えたけれど、どうだっていい。





 パーティの終わりが近づいてきた頃、何やら衛兵たちが騒ぎ始めたことに気がついた。一応会場にいる人々に公にするつもりはないようだが、緊急事態らしいどよめき方だ。


 一体どうしたんだろう、と首を傾げているとジルが小声で話しかけてきた。なんでもラギーが少し前から見当たらなくなっているらしい。パーティも終わるし、どこかで酔いつぶれていたりしたら困るから、と手分けして探すことになった。


 中庭に出ると近くの客が「王女がいなくなっているみたいだ」とひそひそ話す声が聞こえてきた。ただ、「まあいつもの夜の逢瀬なんじゃないかしら」なんて嘲笑混じりの言葉が加わる。


 夜の逢瀬、とは言わずもがなである。王女だからってやりたい放題らしい。そんな人にジルが取られたのだと思うと怒りが込み上げてくる。


「ラギー? どこにいるのー?」と声をかけながらわたしはどんどん人気のない方へ歩いていく。ラギーを探すついでに、王女の不純行為の証拠を抑えることができたら、なんて思いがあるのも事実で。



「ラギー、いたら返事して? もうそろそろパーティが終わるよ」



 そう声をかけたとき、どこかから声が聞こえた。出だしははっきり聞こえたのに、最後はどこかくぐもっていて聞き取れなかった。しかし切羽詰まった女性の声に嫌な感じを覚える。


 声は裏庭、それも森と繋がった方向から聞こえていた。


 わたしは気配を消しつつ、ゆっくり声の方へ近づいていく。



「ねえ、謝ってよ」



 不意に聞こえてきた声にびくりと体を揺らし、わたしは木の陰に身を潜める。どうやら奥に誰かいるらしい。喧嘩か何かだろうか。



「お前がいるから、お前がいなければ」

「…………え」

「ああ、でもお前がいなくなったんだから、ローズとジルは元通り。そうだよな?」

「…………ラ、ギー?」



 声のトーンがいつもとは想像もつかないほど低くて、一瞬気がつかなかった。ラギーは驚いたように体を揺らして、こちらに振り返った。



「どうしたの、ローズ?」



 わたしは声を出せなかった。

 振り向いたラギーの顔にべっとりついた赤黒いものと、彼の後ろにある女性の姿。

 吐き気を催すには十分だった。



「な、んで。ラギー、それ、おう、じょさ」

「ああ、これ? だっていない方が幸せでしょ? ローズとジルを邪魔したこれがいけないんだよ」

「でも、それでも」



 殺しちゃ、ダメなんだよ。


 言葉を出しかけて、ラギーが持つ刃物を見てしまった。今度こそわたしは視界が真っ白になっていくのを感じた。



「許せなかった、許せなかった、許せなかった」

「ラ、ラギー」

「だから殺したんだ、『家族』を守るのは当然だからさ」



 いつもは追い払うか脅すだけで済むのに、今回は厄介だった、と笑顔で言うラギーに背筋が凍る。


 ラギーはわたしとジルのために王女を殺した。

 わたしが、いなければ、なんて言ったから?


 裏庭に衛兵が向かってくる足音がした。ラギーに逃げて、と言ったけれど彼は動く気がないらしかった。



「じゃあね、ローズ。幸せになって」



 ……幸せになんて、なれないよ。

 転がった王女の死体と、血がついたラギーをどこかぼんやりと見つめた。


 衛兵に取り押さえられて連行される直前にそう言ったラギーの笑顔はきっとこびりついたまま、わたしは一生悔い続ける。


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