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きっとこれで最後

 

 セオドアの件から3ヶ月経ち寒い季節も終わりかけてきた頃のこと。


 わたしはとうとう『これはゲームラストのイベントなのでは』というようなイベント名を兄の口から聞いた。



「花の祝祭、ですか」

「そう、花の乙女が現れるのは本当に久しぶりのことだからね。王宮に残っていた史料をもとに行おうということになったそうだよ」



 兄は少しばかり面倒そうに言うと「仕方がないけれど、これは出ないとまずそうだよね」と口角を上げた。


 というのも兄は生徒会長としてこの話を直々に王族側からされたそうで。学園から城下町を通過して最終的には王宮で祈祷のようなものを行うらしく。

 つまりわたしは町中をパレードしなければならない、ということらしかった。


 その学園側の整備やら準備を生徒会に請け負ってほしい、というお願いをされたようだ。ただでさえ兄は年度末の試験や生徒会の引き継ぎやらで忙しいというのに、追い討ちがすぎる。

 兄は大きくため息を吐くと「ローズの晴れ舞台だから、頑張るけれどね」とはにかんだ。


 花の乙女としてのイベント、さらにこれの後は兄たち3年生の卒業式だ。このイベントでフィナーレの可能性は非常に高い。


 ということは、だ。

 このラスト1ヶ月は今まで以上に自分の行いに気をつけていないと厄介そうだ。執着逆ハーに入ってしまうのだけは避けたい。日頃のみんなの様子を見ている限り、わたしに執着している様子はあまり無さそう……だと思いたいけれど。



 兄のナインはわたしのヒロインらしい事件の巻き込まれっぷりに日々胃を痛めているのか、だいぶ過保護になってしまったとは思う。手紙を燃やす、という奇行はしていないようだけれどそもそも手紙が送られてくることがなくなったような。なぜかお誘いは直接来るため断りにくくなってしまったのが残念だ。

 まあ、とにかく兄は通常運転なのであまり気にしてはいない。


 ジルは少し様子がおかしい気もする。

 婚約話をそれとなく断り続けているのが気に障っているのか、やたらブラックウェル家に呼ばれるのだ。きっと公爵夫人に説得させるつもりでいるのだと踏んでお誘いは丁重に断っているけれど。

 あとなぜか知らないが、田舎領地の別荘の手入れにやたら精を出している。田舎に住みたいと思うほど疲れているのだろうか。心配だ。


 ラギーは相変わらずだ。騎士団でも上手くやっていてモテモテのはずなのに、わたしとジルと一緒にいたいからと断っているらしい。どうしてそんなに内気になってしまったのかは謎だしそろそろ直るように何かすべきか迷っているところだ。


 レイはヤンデレの兆候がなさすぎて逆に怖い。

 唯一の乙女ゲームでのまともな知識だというのに一向にレイのヤンデレ部分が顔を出すことはなく。序盤であれだけのインパクトがあったわりには大人しすぎる。わたしとしてはこのまま何も無い方が嬉しいけれど、なさすぎるのも怖い。


 変、といえばセオドアだろうか。

 頭良いキャラはどこへ、と疑問に思うほど彼は残念な感じになってしまっている。なぜかやたら殴ってほしい、怒りの捌け口にとお願いしてくるし、使用人のようなことを平気でやるのだ。例えばわたしの筋トレバッグを持とうとしてきたり、昼食の席を確保してくれていたり……本当にどうしてしまったのだろう。


 そして、謎すぎるのはケイトだ。

 ロストとのつながりは間違いなくあるし、彼がラスボスだという線も拭いきれない。ラストイベントで急に『今までのは全部演技だったんだ』などとわたしに襲いかかってくる可能性は十分にある。


 というか、ロストについては全く解決していないのだ。このまま何もなくゲームが終わるわけがない。


 最後に備えてもう一度鍛え直した方が良いだろうか、とわたしは考える。



「それでね、花の飾りはローズと仲の良いあの庭師に任せようと思うんだけど。どうかな」

「ウィルさんのことですね。わたしも花のことなら彼が適任だと思います」

「よかった。じゃあ、近いうちに一緒にお願いしにいこう」



 わたしは兄の誘いに頷く。それから思いついたように声を上げた。



「わたし、エスコートはおにいさまにしていただきたいです」

「……えっ」



 珍しく兄が目を丸くしている。

 長時間の馬車での移動はやはり家族とがいいと思ったのだけれど、やはり無理なお願いだったかもしれない。



「忙しいのなら、他の方にお願いしますが……」

「っいや、いいよ。僕がやるよ」

「よかったです。おにいさまとなら安心です。馬車の中でしたらお疲れのおにいさまも仮眠がとれますしね!」



 わたしは安全だし、兄は疲れが取れて一石二鳥だ。

 そう笑ってみせると兄は「ありがとう」と微笑んだ。



「よかった、ローズの護衛についてどうしようか考えていたところだったから。そうだよね、僕が近くにいれば護衛の必要はないね」

「護衛なんてそんな。わたしは1人でも十分強いので、おにいさまは安心して眠って大丈夫ですからね!」



「なんなら肩も貸します」といえば兄は照れくさそうに笑う。久しぶりに頭を撫でられてしまった。


 おそらく『花の祝祭』は最後のイベントだ。兄の胃にこれ以上ダメージを与えないためにもわたしは万全の準備で挑まなければ。


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