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死人の誘い

 

 走っていった先には数十匹のロストと、それと対峙するラギーの姿があった。



「ラギー、大丈夫!?」

「ローズ、うん大丈夫! 来てくれてありがとう!」



 さすがラギーだ。彼にはロストを完璧には退治することはできないけれど、それでも増幅しないように戦った形跡がある。わたしが来るまでの間、ラギーが対応してくれて本当によかった。



「発生源は?」

「それが、様子のおかしい人を探してもらっているんだけど、いないみたいなんだ。だからロストがひとりでに出てきてるっぽい!」



 学園にまでとうとう出てこようとは、とわたしは握り拳を作る。

 まだまだロストについては分からないことだらけだが、周辺でピンチが起こるということは物語は終わりに近づいている、と考えていいのだろうか。


 それにさっきのケイトのことも気にかかる。まるでロストが出る、と知っているかのようだった。

 聞いたら答えてくれる……とは思えないけれど。



「ラギーは弱体化させて! わたしが浄化作業を!」



 そう声をかけ、わたしは周りの生徒たちを避難させつつロストを殴っていく。ロストを殴打しているところはかなりゾッとする光景だろうから、生徒たちは出来るだけ早く避難させたいところだ。


 どうせなら全攻略対象たちに、わたしのヘドロ状態の手を見て幻滅してもらいたいのだけど、あいにく周りにはいない。


 残念に思いつつ気を取り直し、わたしはラギーと共にしばらくロストと戦うことになったのだった。




 周辺のロストたちは消え、ハロウィンのおどろおどろしい飾り付けがなされている中、花が至る所に咲き誇っている。明らかに雰囲気をぶち壊しているけれど、こればかりはどうしようもない。



「ラギー、ありがとう。わたし1人だったら結構大変だったかも」

「ローズなら倒せたとは思うけど……そう言ってくれて嬉しい!」



 さすがに疲れたのか、ラギーは木に寄りかかって呼吸を整えている。汗を垂らすところやそれを拭い取るところもなんだか格好良い。それにモテるラギーのそばにはいつのまにか女子生徒たちがにじり寄ってきている。

 さっきまで怯えていたとは思えない、女子って強かだなとわたしは苦笑した。



「ローズ、ハンカチとか持ってない?」

「え? 持ってるけど……」

「拭いてほしーな!」



 ラギーはにっこり笑って頬についている黒い汚れを指差した。わたしはハンカチを取り出してラギーの頬に当てる。


 なんだか弟みたいで可愛い、なんて微笑みながら汚れを拭う。



「あ、スタンプカード埋まった? 俺ローズにやりたいなあ!」



 やたら大きな声で言うので、首を傾げつつ頷くとラギーがにっこり笑う。それからラギーはわたしの背を覗き込んで「やっといなくなった」と息を吐き出した。


 後ろを向くと驚くことにさっきまではうじゃうじゃいた女子生徒たちがいなくなっていた。

 どうしてだろう、そう疑問に思ったけれどすぐにラギーに話しかけられて考えは遮断された。



「俺、ゾンビなんだけど、似合ってる?」



 そういえばまだラギーの仮装をしっかり見ていなかった。

 ラギーはツギハギのメイクを施し、ボロボロの衣服を身に纏っている。先ほどの黒いヘドロが付着していい感じに味が出ていた。



「ラギーはいつも元気いっぱいだからゾンビはあまり似合わないよ」

「うーん、そうかもしれないな」



 ラギーはわははと快活に笑う。こんなにひょうきんなゾンビはまあいないだろうな。



「ジルに怒られそうだなあ」



 と、ラギーはきまり悪そうに言う。どうしてそこでジルが出るのだろう、とわたしは頭を捻る。



「ね、もし2人が結婚しても俺と友達でいてくれる?」

「結婚……するかは分からないけど、ラギーと友達でいることに変わりはないよ」

「よかった」



 結婚だなんて、大袈裟な。そもそもなぜジルとわたしの婚約話が今になって持ち上がっているのかすら分からないのだ。母は嬉しそうではあるけれど基本わたしの気持ち優先だと言っていたし。

 まあ、ジルのことだから、本当に面倒な親睦を深める手順をすっとばしたいのかもしれないけれど。


 わたしは安堵しているラギーを見つめながら、ラギーは本当にわたしとジルが好きなのだろうなあとほんわかした気持ちになる。



「ゾンビの口説きゼリフってどんなのか気になるなあ」

「そうだった、しないとスタンプ押せないもんな」



 ラギーはわたわたと少し慌ててからごほんと咳払いをした。

 ラギーに口説かれるなんて面白いな、なんて呑気に考えていたからか、一瞬鋭くなった目つきに背筋が冷える感覚がした。



「死んでもずっと一緒にいようね」



 放たれた言葉は、ラギーのものとは思えないほど暗くて。

 わたしはラギーって演技派だったのだろうか、と目を丸くしながら「10点」と点数をこぼしていた。



「こういうセリフってなんかドキドキしちゃうよな!」

「前々から考えていたの?」

「んー、まあそんな感じ!」



 ラギーがそんなに気合いを入れてセリフを考えるなんて、なんだか意外だ。


 デフォルメされたラギーゾンビのスタンプを押してもらい、わたしは彼と分かれることにした。


 ロストが学園に出たことを伝えるためにも、とにかく兄に会わなければ。


 広い学園内を探し回るのは途方に暮れるけれど、とため息をつく――けれど、あっけなく兄は見つかった。


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