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謎めく狼男

 

「……割と渾身の力で脅かしたつもりだったんだけどなあ」



 と、目の前でケイトはしょぼくれた。

 というのも、数分前、彼は突然唸り声を上げて茂みの中から襲い掛かってきたのだ。唸り声だなんてサバイバルゲームっぽいなあ、とわくわくしたのに襲ってきたのがケイトだったからこの通りノーリアクションなのである。


 たしかに本来のハロウィンは脅し脅かされの、トリックオアトリートなのだから、彼は正しいかもしれないが。



「そんなことよりも、その耳と尻尾はご自分で?」

「ん? ああ、これは魔法でちょちょいっとね。似合うでしょー」



 それも上級魔法じゃない。わたしはその疑問は今に始まったことではないと言葉を飲み込む。


 ケイトは狼男の仮装をしているようだった。彼と同じ髪色の亜麻色のお耳と尻尾が大変可愛らしい。目つきも若干鋭く、牙も生えていて彼の魔法性能の高さが窺える。


 獣人、魚人、種族を変える魔法はこの学園で習える代物ではないと聞いていたのだけれど。彼は一体何者なのだろうか。



「さて、さっさとやっちゃいましょう。わたし、あと3人も回らなくちゃいけなくて忙しいんですから」

「ねえ、なんか俺の扱い雑になってない?」

「誘拐やたくさんのちょっかいをこの前の謝罪だけで許しているんですから、これでも十分優しいと思います」

「言うねえ」



 ケイトはにやにやと楽しそうだ。やっぱり彼は掴めないし、してやられている気持ちになって悔しい。


 ジト目でケイトを見ると彼は喉をわざとらしく鳴らした。



「わおーん、がうがう、わおっあおーん!」

「ちょ、ちょっと待ってください」

「え? 今やってる最中なんだけど」



 中断しないでよ、とふてくされる。いや、動物言語じゃ何も分からないんですが。



「えっと、何て言ってるんですか?」

「愛してます結婚してください、かな」

「それなら5点ですね」



 なんだか嘘くさすぎる。セリフに狼男らしさもないし、全体的におふざけ感が漂いすぎている。



「でもさ、実際の狼男だって人語を介していたわけではないでしょ? だから俺も忠実にやってるだけなんだけどー」

「それならブラッディ・ブライドにだって伝わらなかったのでは?」



 ケイトは面倒そうに「そこは愛の力とかで?」と言った。やっぱり動物言語に深い意味はなさそうだ。



「何を言っているか分からないからこそ面白いのかもしれないよ。狼男はもしかしたら今のローズちゃんみたいに食いつくのを待っていたかもしれないじゃん」



 真面目な顔で言われると説得力がある。つまり彼は、わたしが「何て言ってるの」と尋ねるのを前提にあの話し方をした、ということなのだろうか。



「例えばさ、直球で好きだと言っても興味のない人からしたら全然効力なんかないでしょ? だから意識させるために違う言葉で、予想外のやり方で、相手に気づかれないようにじわじわその気にさせていくんだよ。そうしたらいつのまにか意中の相手は手の内にってね!」

「な、なるほど」

「はは、他人事じゃないのにね」



 恋愛は難しい、ということだけはよく分かった気がする。ケイトは生ぬるい、変な顔でわたしを見るから、居た堪れなくなってスタンプカードを手渡した。



「恋愛の奥深さ? を教えてもらったので6点にしておきます」

「わーい、ラッキー」



 ケイトはケイトウルフのデフォルメスタンプを押す。もはやただのワンちゃんだった。


 さて、今度こそ本当におにいさまを探さなくては。

 そう思った矢先、突然悲鳴がした。



「ロストが出た!! 誰か、花の乙女を!!」

「ああ、アメリア様こちらにいらしてください!」



 わたしを呼びにきたらしい生徒たちが急かすように叫ぶ。

 それなら強いケイトも、とわたしはケイトに振り返るけれど焦っている生徒たちに腕を引かれてしまった。


 生徒たちに引っ張られる最中にどうしても気にかかって振り返ったけれど、もう彼の姿はどこにもなかった。


「やっぱりね」そう、呟いていた気がしたのに。


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