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歪 ナイン・アメリア

 

 ローズは最近危険に遭いすぎている。

 誘拐に装飾の落下。ただでさえ日々いじめをしようとする者がうろついているのに。


 ローズがお転婆で、花の乙女で、そういう目に遭いやすいのは重々承知している。けれど、僕が側にいながら守れない。

 だから夏休みの間だけでも、僕が側にいてローズを守りたい。


 両親はおそらく僕の気持ちに気がついているだろう。僕が繕った説明に「遠回しに言うなあ」と父は言い、夏休みに田舎の領地に行くことを提案したのだった。




 中等部からローズへの想いの種類について考えてきた。

 純粋に危なっかしい妹を思う気持ちかもしれない。けれどローズがクラスメイトや友達と話していると嫌な気持ちになるし、早くいなくなってほしいとさえ思う。これは妹を思う気持ちで括っていいのだろうか――



「……頼もしいおにいさまがいて、わたしは幸運ですね」



 守る、という言葉は曖昧だと思う。家族として、好きなひととして。どうとでも受け取れるから。


 しかしローズの表情は、否を示していた。

 ローズはおそらく僕のこの行き過ぎた兄妹愛に勘づいている。それでいて僕を対象には見れない……そう語っていた。


 僕は、予想通りその反応に傷ついていた。



 その日の夜は寝付けなかった。

 ローズが望むなら、僕は兄らしくいよう。けれど、僕が抱えているのはきっとローズを1人の女性として見ている愛情だ。この気持ちを捨てて、隠して兄らしく振る舞う……けれど、正しい兄らしさが分からない。



「ねえ、ローズ。僕はどうしたらいいのかな……」



 目を瞑り、魔法を発動させた。ローズの杖にかけた追跡魔法を確認するためだ。


 こんなことをしている時点で、兄妹愛とは言い難いだろうな……そう苦笑してから杖の位置が移動していることに気がついた。

 動き方からして、外から家に戻ってきているらしい。僕は慌ててローズの部屋へ走った。



「じゃあね」と、部屋の中から声がした。男の声だ。


 ――誰と一緒にいた? 


 部屋に入って問い詰めたかったけれど、僕は堪えて踵を返した。


 正しい兄なら、そんなことはしない。ローズに嫌われたくない。

 ねえ、これはローズの求める『おにいさま』?




 明日からまた面倒な学園生活が始まる。

 領地から家に帰ってきて荷解きをしていると、手紙が目に映った。ブラックウェル家の紋章と王家の紋章だ。内容を少しだけ確認する。僕はスタスタと暖炉に向かって火をつけた。


 婚約を進めている? 王家のパーティに招待したい?



「え……燃やしちゃって大丈夫ですか?」

「うん。2ヶ月も前に届いたものだから必要ないかなって」



 ローズが近寄ってきて少し焦ったけれど暖炉を見ると、紙たちがパチパチと燃えていて文章が読めるとは思えない。

「重要なものはなさそうだったよ」と言う。加えて今更返したって迷惑だとも言った。


 ローズは「そうですよね」と納得したらしかった。

 馬車に長い時間揺られていたからか、少し疲れ気味だ。部屋に戻って休むよう促す。


 その背を見送ってから、僕は灰になった手紙たちを見つめた。


『おにいさま』でいたいと思うけれど、僕だってローズのことが大好きで、それを捨てることなんてできないんだよ。


 このまま誰からの好意も気が付かなければいいと思うし、ずぅっと僕の側にいてほしい。


 だから、ごめんね?


読んでくださりありがとうございます!

ブクマ、評価、いいね、励みになっております......!

次章から後半となります!次章は全キャラ登場のわちゃ重になる予定です!お楽しみにー!


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