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夜のデート?

 

「え、どうしてここが……」



 だってここってマイナー領地じゃなかったの? すんごい田舎にあって少なくとも「来ちゃった」のテンションで来れるようなところではない。


 おまけに全身黒ずくめ。スパイかなにかかと疑ってしまうほど、スタイリッシュだ。なのに登場の仕方はきちんと乙女ゲームっぽいというアンバランスさ。



「強いて言うなら、匂い?」

「はい?」



 レディになんて失礼な。わたしは勢いよく香水を取り出してきて吹きかけた。ケイトは何が面白いのか、けらけら笑っている。



「で、夜中に何のご用です? またわたしのことを拉致でもしにきたんですか?」



 生憎、今のわたしには強力な武器(シスコン兄)があるのだ。わたしが大声で叫べばたぶん駆けつけてくれる。



「そんなに睨まないでよ。じゃあさ、夜のデートのお誘いって言ったら一緒に来てくれんの?」



 げえ、と顔を歪ませると「露骨だなあ」と肩をすくめられた。胡散臭すぎて信用なんて出来ないんですが。

 けれどケイトはイエスと言わなければ帰ってくれなさそうだ。わたしは「1つだけ確認を」と渋々前置きする。



「わたしの安全は保証してくれますか?」

「うーん、微妙。でも花の乙女ちゃんなら大丈夫なんじゃない?」



 そのセリフでこれから何をするのか、大体察知した。

 この怪しい男について知るチャンスだ、みすみす逃してなるものか。


 わたしは窓枠に足をかけてケイトに向かって手を差し出した。





「どーう? この辺り割と出るんだよねー!」

「本当、キリ、ないですね……!」



 わたしとケイトは夜のデート、もとい夜のロスト討伐を行なっていた。


 わたしは拳で戦うゴリゴリのパワー近接系なので疲労も凄まじい。ただでさえ視界の悪い夜で、森の中だから足場も悪いから体力がどんどんなくなっていく。


 それなのに、ケイトは顔色一つ変えず、淡々とロストに攻撃を繰り出している。もちろん、浄化作業はわたししかできないためわたしの方が重労働ではあるが。



「ケイト様も、お強いんですね」

「まあね。でも花の乙女ちゃんほどじゃないかなあ。たぶん殴るのは初めてだと思うよ」



 堪えきれない、というようにケイトは笑い出す。ロストをぶん殴って倒している花の乙女なんて今まで文献で見たことがないらしい。

 そういう文献ってあったのか、と思ったけれど彼は怪しいので色々つっこまないことにした。



「歴代の花の乙女ってろくでもないやつばっかだって知ってる?」



 と、ケイトはふいに尋ねてきた。辺りのロストはもう一掃されていてわたしは肩で息をしながら「でしょうね」と何も考えず返してしまった。



「ふふっ、でしょうねって。自分だって花の乙女でしょ」



 ケイトはけらけら笑いつつ、まともだったのは初代と次代くらいだったと付け足した。

 きっと花の乙女だから、という理由で横暴が許されてきたのだろう。権力があると人は簡単にわがままになってしまうから。

 この乙女ゲームで執着逆ハーが成り立つのも頷ける。


 そう考えるとヒロインって結構性悪なのかな。何人も男の人をめろめろにさせるなんて、策士でもない限り出来ないだろう。



「俺さ、最初にローズちゃんを見た時もまたかって思ったんだよね。だって周り男子ばっかじゃん?」

「……そうですけど。ジルとラギーは友達ですし」

「そうっぽいよね。それはそれでカワイソーな気もするけど」



 少しだけ脳裏にジルの告白勘違い事件が浮かぶ。勘違いだったのにケイトに慰められてすごい恥ずかしい。たぶん、ケイトは誤解したままだ。



「あの、この前の件ですが……その、あれは勘違いなので」



 忘れてください、と縮こまったがケイトは適当に相槌を打つだけだ。忘れているのか、はたまた興味がないのか。どちらにせよ好都合なので掘り返さないことにした。



「まあ、とにかく。ローズちゃんはマシってこと」

「はあ」

「それから、最初拉致っちゃってごめんねって言いにきた」



 ケイトがきまり悪そうに言うので、しばらくぽかんとしたままケイトを見つめ続けてしまった。



「えっと、もしかしてそれだけのためにわざわざ?」

「え、悪い?」

「いや、ちょっとびっくりしたっていうか」



 最初に拉致った人とは思えないくらいずいぶん礼儀正しいではないか。まあ夜に窓から、という点は除いて。「今度は普通にドアから入ってきてくださいね」とからかってみる。


 ケイトは少しむっとした顔になり、それから思い出したように声を上げた。



「そろそろおにいさまがお怒りになりそうだし、部屋に戻るよ」



 そろそろ抜け出して2時間くらい経つ気がする。いくら夜中とはいえ、バレている可能性は高い。

 問い詰められたら面倒だなあ、と思っているとケイトがぱちんと指を鳴らす。すると、不思議なことに部屋に戻ってきていた。


 ケイトは「じゃあね」と窓から軽々飛び降りて行く。一瞬慌てて下を覗き込むも、もうそこにケイトの姿はなく。


 今のって高等魔法の転移魔法? しかも2連発で使うなんて。

 すごく強いし、ロストについても詳しい。王子であるレイが知らなかった花の乙女の戦い方についてまで知っていて……



「本当、一体何者なの……?」


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