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笑顔が眩しすぎる

 

「さて……誰に頼むのが正解かしらね」



 訓練を始めて2週間ほどが経った。

 剣もまともに持てないほど非力だったわたしだけど、今では振り回せるほどには成長した。おまけに全体的に筋肉もついていて運動能力も上がった気がする。


 兄の剣の先生が言っていたように、近くで行われている訓練場に行きたいけれど……とわたしは家族を思い浮かべた。


 親バカの父はたぶん却下する。兄に頼むとろくなことにならなそう。となると母しかいないのだが。


 わたしは母のもとへ向かい、事情を話した。



「いいわよ」

「いいんですか!?」

「ただ条件とお願いがあるわ」

「……そんな気がしました」



 やはり、母も伯爵夫人だけあってこういうところは手厳しい。



「その訓練場で試験のようなものがあったら3位以内に入ること。もし入らなかったら訓練場には二度と行かせないわ。いいわね?」

「分かりました。お願いというのは……?」



 母はにっこりと笑う。なんだか面倒な気配を察知。



「今度ジルくんとデートしてきて!」




 ***




『いい? 顔に怪我だけはNGよ』と言い聞かせられてわたしは近所で行われていた剣術訓練に参加していた。


 基本剣は握ったことがあるかないかの初心者が集まって男子も女子も入り混じってみっちり2日間。

 女の子はあまりいないのでわたしは1人で訓練場を彷徨いていた。


 訓練場だというからもっとむさ苦しさを感じるかと思ったが、やはり貴族が通うからかよく整備されている。

 ゲームの序盤、経験値が少ない頃に訪れてレベル上げするところみたい――オタクの血が騒ぎ出したところで、ちょうど何かと激突した。

 わたしはそのまま尻もちをついてしまった。



「悪い! 大丈夫か!? 怪我してないか!?」



 頭上から降り注いだ心配する声に顔をあげる。

 見た瞬間、一瞬言葉を失った。


 オレンジ色のハネハネした髪型。ライトグリーンの目。

 圧倒的主人公顔だ。



「は、はい。大丈夫です!」

「よかった! 俺、ラギー。ラギー・サンメールっていうんだ。よろしくな!」

「わたしはローズ・アメリアです。よろしくお願いします!」



 ラギーは1人でいたわたしを友達の輪へ入れてくれた。この数分でコミュニティを作るなんてさすがだ。


 彼も攻略対象、なのだろうか。

 ラギーと比べて周りにいる訓練生たちは顔がはっきりしていない。ぼんやりして見える。まあ、これだけ笑顔が眩しければ攻略対象というのも頷けるけども。

 このキラキラしている男の子が執着型になるとはどうしても思えない。




 それからすぐに訓練がスタートした。

 兄の先生がおすすめしただけあって、厳しいけれどわかりやすい良い先生だ。剣の振り方や受け身の取り方など、まだまだ分からないことだらけ。


 その日は結局夜遅くまでやって、お風呂に入れたのが10時ごろだった。足も手もビキビキと筋肉痛がすごいけれど、楽しいから不思議だ。


 お風呂から割り振られた部屋まで歩いていると、ラギーの姿を見かけた。どうやらお風呂上がりの牛乳を楽しんでいるらしい。



「ラギーさん。1日おつかれさまでした」

「本当、すごい大変だったよなー! でも楽しいからいいんだけどさ!」

「え! 分かります! この確実にレベルアップしてる感じがたまりませんよね!」

「ははっ、その表現いいなー!」



 わたしはすっかり絆されてしまい、ソファーに座って話し始めてしまった。

 話しているうちに彼も伯爵家出身ということが分かったのでわたしも敬語をやめることになった。



「ローズはどうして剣術訓練に参加したの?」

「どうしてって……」

「俺さ、今日いろんな人に聞かれたんだよ。逆に聞き返したらさ、爵位を継ぐのに優位になるからとか家族の役に立つからとか。みんな俺と年変わらないのにすげーなーって!」



 前世のわたしの世界では考えられない。12そこらなんてまだまだちびっこである。



「俺はさ、もっと気軽でいいと思うんだよね。楽しいからとか強くなりたいからとか」

「それでいいと思うよ、わたしは」

「そう思う?」

「だって、剣をかっこよく使いこなすのって憧れるよ。わたしだってそんな感じの理由だしね」



 ラギーは「そうなのか!」となんだかとっても嬉しそうだ。

 ラギーはそれからこの技がやりたい、とかカッコいい自分専用の剣が欲しい、などを話し始めた。

 わたしにとってもそういう話はすごく楽しくて、思わず饒舌で語ってしまった。オタクあるある。



「やば、結構遅くなっちゃったな。もう寝ないと明日起きれなくなっちゃう」

「そうだね。もう寝ようか」



 ソファーから立ち上がってくるりと女子部屋の方を向く。

 なんだか、前世ではこうやって好きなことの話ができる人がいなかったから名残惜しい。



「ね、ラギー。またこうやってお話してもいい?」



 と、気がついたら口に出してしまっていた。ラギーは目をぱちくりとさせてからにっこり笑う。



「もちろん。俺もすっごい楽しかった!」



 ラギーはおやすみ、と言って駆けていく。

 最後まで笑顔が眩しすぎた。サブキャラの元気っ子だと信じたい。


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