Side ラギー・サンメール
「君たちだね、ローズに嫌がらせしようとしてるっていうのは」
俺は目の前で小さく悲鳴をあげる女の子たちを眺めていた。
用事があるというローズと分かれてすぐ、彼女の後をつけてきていた子たちに気がついたので声をかけてみた。
うん、顔も背格好も聞いていた通りだ。あってる。
腰に携帯している剣に触れてみせた。もちろん、弱いものいじめなんてしない。騎士団にいる者としてそれくらいの矜持はある。
ローズは中等部からずっとひそかにいじめられていた。それは高等部に入ってからも変わらなくて。ローズは強くて、いじめになんて怯まない。そういうところが大好きなんだ。
ローズに恋愛感情があるか、と聞かれたら微妙だけど。
初めて会ったとき、話を分かってくれる子だと思って嬉しかったのを覚えている。家に帰ってから彼女の話をしたら『そういうお友達は一生大事にするのよ』と言われた。
うん、俺も大切なひとはみんな家族のように接したいと思ってる。だから、ローズは俺の家族みたいなものなんだ。
それから、ジルもそう。ジルは尊敬できるし一緒にいて楽しい。それからたぶん、ジルはローズのことが好きだから応援している。
家族みたいに大好きな2人が幸せになってくれるなら、とっても嬉しい。
だから俺の好きは、また温度が違うんだ。
「で、でもローズさん、花の乙女になったからってジル様やラギー様にも色目をつかっているんです! レイ様にだってそうですわ!」
「そうです! わたくしたちはラギー様をお守りしようと!」
「……は?」
何を言ってるんだろう。うるさい、羽虫たちみたいだ。
俺の大好きなひとたちのことを勝手に侮辱して。何様のつもりなんだろう。俺の気持ちまで勝手に推し測ってきて、気持ち悪い。
自分たちが可愛いだけなんだ。
貴族だからプライドだけは高くて、自分たちは間違ってないと思ってる。
ローズは俺と同じ伯爵家だけど、爵位を鼻にかけるようなことはしないし、花の乙女というこの国の女の子たちの憧れの力を手に入れても威張ることもない。
「黙ってよ、うるさいなあ」
相手をするのも面倒になってきた。学年は把握したし、あとはナイン会長に任せておこう。
ナイン会長はローズのお兄さんだ。もしかしたらローズのことが好きなのかもしれないなあとは思っているけど、大切な友達のお兄さんだから大切にしようと思う。最初こそあまり好かれてはいなかったけれど、こうしてローズの護衛を任されるようになった。少しは信用してくれたのかなと思うと嬉しい。
俺としてはローズとジルが一緒になってくれたら幸せなんだけどなあ。そうしたら3人でいつも一緒にいられるから。
だけど、ローズがお兄さんを選ぶならそれはそれで応援するって決めてるんだ。
そこに、最近少し不穏因子が現れた。
まずはレイ王子。
ジルやナイン会長にローズのことを守るように頼まれていたけど俺は情けないことに、ロスト退治の護衛中に眠ってしまった。
でも俺は訓練をしている身だし、気絶なんてしないし眠るなんてこと絶対にしない。何か怪しむとしたら、あのレイ王子がくれたポーションだ。
匂いで勘づくべきだった。あれは普段飲んでいるものではなかったと思う。王子がくれるものは質の良いものなのかと完全に疑うことをしなかった。
もし、あれを睡眠作用があると知っていて飲ませたなら。
今回ローズは無事だったようだから追及はしないけど、注意しないと。
それから、もう1人。
ケイト・グリンデルバルドとかいう男だ。侯爵家の次男だったはず。なぜか最近ローズにちょっかいを出している。
廊下の隅でうざったそうに彼をあしらうローズを眺めていた。
「ローズはあいつに誘拐された」
ナイン会長が言った誘拐の言葉にひどく耳を疑った。なんでも先日、俺と分かれた直後に用具入れに閉じ込められたのだそうだ。
俺がもう少し一緒にいれば。面倒な羽虫たちの相手なんてしなければよかった。
「やっぱり、護衛を頼むのは早かったかな」
俯いて拳を握り締める。
言う通りだ。ローズは大切なひとなんだから、守らないといけないのに。
「…………俺が至らないせいです。もっと鍛錬します」
「うん、そうだね。ローズはラギーくんのことをすごく信用しているし、僕は何より君がローズを家族のように思ってくれているところが好きだよ」
ナイン会長は相変わらずの掴めない笑顔を浮かべると、生徒会長の業務に戻っていった。
俺の世界は、俺が大切だと思うひとたちだけで構成したいんだ。
そうだ、だから危険因子は排除しないと。そうした方がいいに決まってる。
ひとまず、俺はローズの元へ駆け出した。
あのケイトという危険因子から引き離すために声をかけなくちゃ。




