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ヒロイン至上主義

 

「ローズ・アメリア、貴女は『花の乙女』なのです!!」



 それは乙女ゲームの舞台、ハイドレンジア学園高等部入学式のことだった。学長の興奮した声、どよめく会場。困惑顔の攻略対象たち。


 わたしはというと――会場の誰よりも真顔だった。




 ***




 入学式が終盤に差し掛かったころ。突然わたしを光が包みこんだ。正直めちゃくちゃ眩しくて目とか開けられなかった。そのあと手の甲に花のあざがあって、首を傾げていたところ――冒頭に戻る。


 うん、予想していたことだ。

『ロスト』という化け物がいてわたしは魔力量不明、それを倒せる力を持つのはヒロインだけ。ヒロインが特別なのは当たり前のことだ。


 それにしても『花の乙女』て。

 学長が鼻息荒く教えてくれたのだが、花の乙女は千年に1人に現れる聖女の進化前みたいな位置の女の子らしい。予想通り、ロストを倒す力があるみたいだ。


 大昔、ロストが大量発生したことがあってそれを一掃したのがその初代花の乙女だったのだそうで。そのロストたちが消えていった荒地に花が咲いたから、花の乙女という名前らしい。


 どうして執着逆ハーなのだろう、と気になっていたけれどようやく謎が解けた。花の乙女なら何をしてもオッケーということなのだろう。だから男性を何人取り巻いていようが、何人恋人がいようが花の乙女だから許される。ただの嫌味な女すぎる。絶対なりたくない。


 たぶん、さっきの場面はタイトルコールで、学長室でのくだりは黒背景にモノローグだったんだろうな。きっと『わたしが花の乙女、だなんて。なんだか恥ずかしいけど頑張るぞー!』みたいないかにもヒロイン的なセリフを言っていたりして。

 思わずくすくすと笑ってしまった。


 なんにせよ、乙女ゲームがスタートした。

 わたしは大量に魔法書を詰め込んだ、筋トレバッグを持ち直して教室へと歩き始めた。




 ***




 あれから1週間経つけれど、特に変わったこともなく。


 もちろんあの後、兄には心配だと泣きつかれたし、ジルにはなぜか「それのやばさわかってんのか」とキレられた。ウィルにはなぜか拝まれるというカオスっぷり。


 あ、気づいたことはいくつかある。


 まず、ウィルは予想通りサポートキャラだった。

 お店を覗いたら変な色のクッキーや飴が売っていた。商品名も恋するクッキー、みたいな絶妙にダサい名前で。たぶんアイテムみたいなものだと思う。


 きっと攻略対象以外の人が食べたら普通のクッキーなのだろうけど、ウィルは効能を知っていて売ってるのだろうか。そう思いながらじっと商品を見ていたら「誰かにあげるんですか?」とウィルに泣きそうな目で聞かれてしまった。

 そんな物騒なものあげないし、申し訳ないけれどたぶん買うことはない。


 それから、悪役令嬢なるものはいなそうだ。1週間経つけれどそれらしい人は出てこないし、お呼び出しもされていない。いたらぜひとも仲良くなってみたかった。美しい凛とした女の子と一緒にバトルしたい、というのが本音。


 やっぱりヒロイン至上主義。恋敵はいないし、特殊な力持ってるし。ビギナーモードすぎる、甘々設定だと思う。



「ローズさん。ここにいたんですね」

「あ、レイ様。どうかされました?」



 もちろん攻略対象は同じクラスだ。ジルもラギーもレイも一緒。

 こうして毎日顔を突き合わせていると整った王子顔にも慣れてくる。



「早速仕事ですよ、花の乙女様」

「仕事、ですか」

「はい。ロストを退治しにいきますよ」



 わたしは少し驚いたけれど、レイは気にせず淡々と進めていく。

 レイの背後からひょっこりとラギーが顔を出した。



「これから3()()()僕とラギーくんと一緒にロストが発生した場所に行ってもらいます」

「俺、騎士団入ってるし、強いし、ローズの護衛を務めますっ」

「ということなのですが、一緒に行ってくれますか?」



 聞き方、拒否権ないでしょ。

 わたしは少し眉間をひくつかせつつ頷いた。


 レイと2人ならちょっと……って思ったけれど、ラギーがいるなら大丈夫だろう。


 そんな安易な気持ちでわたしはこの3()()()の仕事を承諾してしまったのだった。


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