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あと2年

 

 兄がよれよれになって帰ってきた魔法合宿だが、まさか本当にボロボロになって帰ってくることになるとは。


 事件は秘密裏に片付けられたらしいけれど、さすがにお楽しみ会をやっている場合ではなかったのか全員解散となった。


 わたしはあれからほぼ丸一日寝ていたらしい。後で診にきた医者がかなり危ない状態だったと言っていた。あの短時間で魔力の消費量がすごかったらしい。厳重注意された。

 そのあと眠るわたしを両親とナインが連れ帰ったらしい。

 帰宅して目が覚めたばかりのわたしは両親に抱きしめられて、それからみっちり危ないことをしないでと怒られた。


 母いわく、ナインが夜中急に「ローズが危ないかも」と騒ぎ出したらしく、急遽使いと兵を出したらしい。そのまま事件の犯人を素早く捕縛し事件解決に尽力したのだとか。


 おにいさまの妹センサー、怖すぎる。驚異の的中ではないか。




「でもまさか、ローズがそんな危ないものに襲われるなんて……」



 もちろん事件のあらましは関係者のわたし、家族にも伝わっていた。両親は黒いモノ『ロスト』の存在を知っていたけれど兄は知らない。それもそのはずで本来、『ロスト』の存在を知るのは高等部に入ってからだ。兄が知るはずもなく。


 兄は話を聞くなり、ずっとこの調子だ。ロストへの恨みを吐き、自らも反省する。ぶつぶつとまるで呪詛のよう。


 すると呪咀吐きの兄がへらりと笑って何かを差し出してきた。



「で、これは何? どうして急に求婚なんかされてるのかな」



 兄が見せてきたのは、レイから届いた手紙。主に求婚のセリフばかりが書き連ねられている。ちなみに3日連続。まだ返事を書けるほど回復していない、と伝えてもらってなんとか返事を先延ばしている。

 兄にバレたら面倒そうだったから黙っていたのに。



「その、助けたときに一目惚れした、とのことで……でも、わたしはお断りするつもりです、釣り合いませんし」

「相手は王族なんだよ? それが通用すると思う?」



 ……思わない。

 監禁してくるやばいやつだと分かっている以上、絶対に婚約だけはまずい。でも監禁するという思考回路を持つ相手に今の言い分が通用するのだろうか。

 本当に、面倒な人に好かれてしまった。


 手錠をつけられて、暗い部屋に閉じ込められる……監禁を想像してみる。そんな生活、考えただけでおかしくなる。



「なんとか説得します。きっと、今は助けられたのを好意と勘違いしているんだと思うんです」



 吊橋効果のように。ピンチを救われたら、その救ってくれた相手を一生慕うだろう、たぶんその感覚なのだと思う。そう信じたい。



「……王子と結婚すれば今まで以上に贅沢な暮らしができるんだよ? なんでもできるよ?」

「いえ、たぶん今までより質素になりますよ」



 即答した。だって監禁されるから。自由なんてないも同然。自由がないなら贅沢だって意味がない。


 兄は少し驚いたようにわたしを見た。普通の女の子なら泣いて喜ぶところだと思う。正直、兄が賛成っぽい質問を投げかけてくるとは思わなかった。



「ローズが婚約する気がないなら、僕はそれでいいと思うよ。愛のない結婚だなんて、嫌だよね」



 兄は満足げに笑っている。

 兄が愛のある結婚にこだわっているのは、おそらく両親が貴族には珍しい恋愛結婚だからだろう。といっても、両親の身分はほぼ差がなかったので逆境を乗り越えた、とかではないけれど。

 そのせいなのか、両親は恋愛に対してやたらガバガバ判定だ。兄に婚約者を強要することはないし、わたしはジルを薦められてはいるけれど、わたしが本当に好きな人ができたらそちらとの結婚を認めてくれるはず。

 そして、おそらくだけど、ナインとそういう雰囲気になったとしてもオッケーを出すと思う。


 わたしは返事を書いてきます、と自室へ戻ったのだった。




 ***




 あれからすぐ復活して学園に通っているけれど。


 わたしは大きくため息をついていた。

 ため息の理由は主に2つ。



「アメリア様、ごきげんよう」

「ふふ、ごきげんよう」



 通り過ぎていくご令嬢たちにわたしはへらりと笑顔を浮かべた。


 魔法合宿のときの試験は見事、学年1位を収め、わたしはそれから才女として知れ渡った。初めは嬉しかったけれど媚びてくる子も多いため少し疲れてしまう。

 もちろん、妬み嫉みの対象にもなるわけで。



「まーた王子から求婚されたのか?」

「ああ、おはようございます、ジル様。そうなんですよ……」



 何度も断っておるけれど、レイは手紙を送り続けてくるし、お誘いなどもすごい。わたしは監禁されたくないから、なんとか理由をつけてのらりくらり交わしているけれど。


 ジルはわたしの顔を覗き込んでしたり顔だ。

 わたしが困っているのを見るのが楽しいのか、ジルはレイから求婚があって断るのが大変だ、と伝えるごとに喜んでいる。



「ま、レイ王子が学園に通ってくるまであと2年もあるしな。それまでには諦めてくれるんじゃねーの?」

「そうだといいんですけどね……」

「それまでに、俺もやることいっぱいあるしな」



 王族は、つまりレイは高等部から学園に通うことになっている。今は家庭教師なのだと手紙に書いてあった。


 ジルは最近やることが山積みだと頻繁に言う。それが何かは教えてくれないけれど、彼も公爵を継ぐのだからそれなりにやることが多いのだろうと深く追及しないことにしている。




 高等部入学まで、あと2年。

 それまでに自他共に認める強いヒロインになって、執着逆ハーに備えなければ。


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