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パチあたり

作者: 青山丈夫

 クソっ!クソっ!クソっ!


 まったく腐ってやがる!せっかく確変に入ったっていうのにワンセットで終了とはどういうことだ!継続率80%以上だろ?ふざけんな!クソース!


 俺は店員に見つからないように台パンしてタバコに火をつけた。

 最近パチンコで負けっぱなしだ。一時期20万ほど稼いだが、ほんの一瞬でなくなてしまった。一種の詐欺に違いない。甘い蜜吸わせて、こっちの身包み剥ごうって魂胆だな。


 そこまで言うのならやめればいいじゃないかだって?


 やめられるんならもうとっくにやめてるわ!しかしやめられないんだよな。時々自分が馬鹿らしくも思えてくる。

 それに、今の俺には職がない。せっかく内定が決まったというのに、内定を取り消された。俺は何も悪いことしていないのに。なんで俺がこんな仕打ちを受けなければいけないのだ?

 一連の出来事からもう俺は社会にはほとほと嫌気がさしてしまった。なんだかこう、無性にムシャクシャしているのはそのせいだろう。こんなストレス社会、パチンコでも打ってなきゃやっていけねえな!



 俺のタバコが5本目にさしかかったところ、となりに知らないおやじが座ってきた。見たところ60前後か、白髪を生やしていて身なりはあまりいいとはいえない、本当にどこにでもいるようなおやじだ。


 あろうことかそのおやじ、お座り一回転で2R当たりをひきやがった。隣からだって見れる。しっかりランプが光っていやがった。この2R当たりっていうのは、要するに潜伏状態で確変に入ったということだ。なんでこうクソおやじ達は引きが強いのだろうか。


 俺の台は相変わらず当たらない。クソおやじの台に歯噛みしていると、クソおやじ席を立ちやがった。なにも置かずにいったということは、潜伏に気づいていなかったんだろう。

 

 

 後でよくよく考えたら、このときの俺はなんでこんな行動を取ってしまったのだろうか。



「おい、おっちゃん!」


 俺は周りの音に負けないようにおやじを呼び止めた。

 おやじはふりむいた。


「確変入ってるよ、これ」


 本当かい、と言って、おやじが隣に舞い戻ってきて、再び打ち始めた。

 もちろんすぐにおやじは当たりを引いた。


 

 やれやれ、と思いながら、ふと、教えなければよかったんじゃないか、という悪魔のごねりが聞こえ始めた。その台を拾っちまえば当たりは俺のものになるからな。


 だが、俺はこれでいいと思っていた。いくらパチンコが腐っていたって、いくら社会が腐っていたって、俺自身の芯の部分が腐っていなければ、いいじゃないかと。だから、俺自身は腐りたくはなかった。無意識に起こした行動には、そんな背景があるんだろう。

 まあ、後悔がないといえば嘘になるが。


 その後おやじは爆連していやがった。あれは何十万と稼げるコースだろうな、と羨ましくみていた。俺は一向に当たりを引けなかった。台を移動しても引けなかった。いくら投資しても引けなかった。ああ、もう、クソース!



 惨憺たる結果だった。俺は肩を落としながらも、強がりにタバコをふかしてみる。負けた時の一服がこれほどまずいとは!


 俺が店を出ると、あのおやじが待っていやがった。

 聞くところによると、あの後30万稼いだらしく、感謝の言葉がつきない、ということらしい。それで、飯をおごってくれることになった。



 このおやじ実は見かけによらず面白い男で、話が弾んだ。見かけによらずと言えば、このおやじ、会社の人事部の責任者だったらしい。しかも、その会社は俺の内定を取り消したところとライバル関係の会社だ。

 今はもう退職したらしいが、現人事部の責任者が、人材をほしがっていて、よく相談を受けているという。

 

 なんでも、正直者を雇いたいそうだ。



 

 おやじの話が終わった後、俺はタバコをふかしながら、少しがっかりしていた。


 なぜって?しばらくパチンコを打てなくなりそうだからだよ。




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