目覚めの日
最弱職業だってプレイヤーが乗り移ったら…
君はアザーズ・ライフというオンラインゲームを知ってるだろうか?
ただのオンラインゲームではない、新たな人生として一つの職業につく、そして寿命が来るまでデータをリセット出来ない。という新感覚なゲームである。
一応ダンジョンという概念もあり、そのボスを倒すことが世界の中での共同目標である。
そのため最も有力な職業は冒険者であり、一番比率の多い職業でもある。
俺の職業は何かって?俺は炭鉱夫……生産側だ。
炭鉱夫、この世界で最も必要であり、最も邪魔な職業。武具を作るために必須な職だが、高レベルの冒険者は自力で鉱物を採ることが出来るため、強いパーティには要らない。
更には魔物と戦う能力がずば抜けて低いため、魔宮石と呼ばれるダンジョン内にしかない鉱物を取りに行く時に冒険者を雇わなければいけない。
俺はアザーズ・ライフを始めて3年経つが未だにレベルは五(冒険者は基本的に二ヶ月で五)であるが、この職に不満を持つことは無いし、むしろ攻略性があってやりがいがあると思っている。
にしても、俺がまさかこのキャラに乗り移り、あんなことが起きるとはな……
俺は新谷 広夢三十二歳で独身の普通の会社員だ。
仕事の帰りに横断歩道にて、小さな子が車に轢かれそうになってたところを見つけ子供を反対の歩道へ投げ自分はそのままあの世行きへ……と思っていた……。
目を覚ますと見覚えのない天井、ギシギシ音のなるベッド。
「ここはどこだ……?」
ドアが見える、何処かの部屋であることは間違いないだろう。
キイッッと甲高い音と共にドアが開かれる。
「おはようございますヒロムさん、朝ですよ!さあ仕事仕事!」
そう言って入ってきたおばさんにとてつもない既視感を感じ、目を見開く。
こんなことがあるはずがない、だって、このおばさんはアザーズ・ライフの宿屋のラテーナおばさんなのだ……。
状況が呑み込めずにいる私に「早く仕事に行きなさい!」と背中を強く叩くおばさん……
「え……?ラテーナおばさんだよな?」
「何寝ぼけてるんですか!無賃宿泊はさせませんよ!」
(うん、確実にラテーナおばさんだ、ってことはここはアザーズ・ライフの世界ってことになるな……)
宿屋から叩き出された私はとりあえずリュックを背負って街へ出る。
「ほんとに乗り移ってしまったのか……」
ステータスを覗くと炭鉱夫で、能力値も全てゲームと同じ。
かなり動揺をしていると、目の前に急に『緊急クエスト』のタブが……
触れてみるとブィィィ、ブィィィという警報音と共に機械音声が聞こえる
「ザザッ……貴方様専用の緊急クエストです。このクエストを受理し、達成すれば現実世界で生き返ることが出来ます。しかし、受理しない、又は失敗すれば貴方様の命は消え、ここの貴方様のデータも消えます。受理しますか?」
突拍子もない話に完全に脳が思考停止してしまう。
「あと十秒でこのクエストは消えます」
……
「五…四…三…」
(ハッ、やばいっ!)
ポチッ
「あ、つい受けてしまった……」
受けた後に何らかのウイルスではないかと心配になる
「受理されましたので内容を発表します。今回の緊急クエストの内容はダンジョンのボスのソロ討伐です。期間はゲーム内時間で十五年です。健闘を祈ります。」
「は?待て待て…俺は炭鉱夫だぞ!?対魔物で最弱の炭鉱夫だぞ!?」
「クエストの内容を忘れてしまった時はメニューからクエストを覗いて…」
ピッ!ピッ!
聞き間違いだと信じ、もう一度内容を確認するためクエストを見る
「今回の緊急クエストの内容はダンジョンのボスのソロ」ピッ…
(マジで言ってるのか…スライムすら倒すのが厳しい俺が…ボスを…)
正直無理ゲーである。
何故炭鉱夫が弱いとされるのか、その原因は持つことの出来る道具にある。
このゲームでは武器をひとつしか持ち込むことが出来ない、そして炭鉱夫の命でもあるピッケルは武器に属し、ピッケルは戦闘に持ち込むことが出来ないという謎ルールがある。
つまり炭鉱夫は素手で戦わなければならないのだ。戦闘時に敵に攻撃を与えるには攻撃力が必須だが、素手ではゼロに等しいのでダメージがまず入らない。よって最弱なのである。
「さーて、どうしたものか…とりあえず宿代位は稼がないと不味いな…手元にピッケルはあるしゲームの時のようにダンジョン行くか…」
ゲームの記憶を頼りにダンジョンへの道を進む…
「リアルで見ると本当にでけぇなこのダンジョン!!」
ダンジョンは塔の形をしており、その階層は百階層まであるといわれている。
ささっと受付を済まし中へ入るが、時間が昼だからか、冒険者の数が非常に多い。
少し奥へ進むと、誰もいない小さな部屋があった。
「…よし、魔物はいない。鉱物は…おっ、少ないけどあるにはあるな!とっとと掘って帰るぞ!」
ピッケルをインベントリから取り出し、数分掘っていた。
ドスッ!!
「ふげっ!!」
背中に急に衝撃が来た。
はっと振り返るとそこには緑でいかにもプニプニしている物体が。
「マジか、スライムじゃねぇか…逃げるか!?」
(いや、この荷物の重さだとかばんを置いていくしかない…くっ…どうすれば!?)