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第46話 家に帰って

 

『まだ終わりじゃない』と言った彼女に手を引かれるまま、俺は帰路についている。


 奏がどういう意味でさっきのような発言したんだろう?

 それが、俺にはさっぱりわからなかった。

 てっきり、帰り道で何かあるのかと思っていたけど……特に何をするわけでもなく、ここまではいつものような会話をしていただけである。


 けど、鼻歌まじりに上機嫌な様子で歩く彼女を見ていると……わからないことへのモヤモヤはわりとどうでもよくなってくる。

 奏が楽しそうならそれでいいしね。


 まぁ……考えても仕方ない。

 でも、こんな状況も悪い気はしないな。

 そう思えるだけ、俺には余裕があり、奏といるだけで心のゆとりは違うのかもしれない。


 そんなことを考えていると、いつの間にか家の近くまで来ていた。



「奏……もう家に着くけど。なんか寄らなくてよかったのか??」


「うん! だって、帰るって言ったじゃ~ん」



 にししと笑い、家の中に入る。

 手洗いなどを一通り済ませた後、奏はグラスに冷えた麦茶を入れてソファーに腰掛ける俺の元へと持ってきた。



「冷蔵庫に麦茶なんて用意してたっけ?」


「来る前に用意したんだぁ。外って暑いしから、帰ってきた後に冷たい飲み物を飲んで「くぅ~!」ってやりたいでしょ??」


「ははっ! なんかおっさんみたいだな~」


「おっさんって言うなし!」



 奏がぷくっと不服そうに頬をふくらませて見てくるので、俺が指で突いてその頬を破裂させてやった。

 すると、奏の口からぷすっと空気が抜ける音が出て恥ずかしかったのだろう。

 顔をほんのりと赤く染めて、目を伏せてしまった。


 その姿がどうにも可愛らしく、俺は思わずくすりと笑ってしまった。

 それを見た奏は、口を尖らせジト目で見てきた。



「し、ん、た、ろー……?」


「ハハハ……。ごめんって。でも、つい突きたくなる顔ってあるだろ?」


「やるなら優しくやってよー。急にやられて、さっきみたいに変な音が出たら恥ずかしいじゃん」


「俺的には可愛らしかったけどな」


「もぅ……ばか」



 今度は拗ねたわけではなく、耳まで赤く染めてもじもじとしおらしくなってしまった。

 俺もそれが気恥ずかしくて頬を掻き、天を仰いだ。

 それから空気を変えようと、聞きたかった『今日はこれでよかったのか?』と切り出そうとしていると、俺が話し始めるより前に、奏が話し始めた。



「しんたろーって、デートはどういうことだと思う??」


「どういうことって、随分と抽象的だなぁ~。けど、改めて考えると難しい気が……」


「まぁまぁ~。答えがこれって決まったわけじゃないんだし、考えを聞かせてよ~」


「うーん……」



 デートと言われ真っ先に思い浮かぶのは“どこかに出かける”ことだろう。

 元嫁としていた“やたらと金がかかる”のもデートだし、奏と今日、過ごしたようなのんびりとしたのもデートには違いない。


 でも、そんな答えを奏が言うとも思わないし……。

 うん、正直わからないなぁ。


 俺が頭を捻らせて考えていると、奏がじーっと見て表情を窺っているようだった。

 目が合うとにこりと笑い、仕返しとばかり頬を突いてくる。



「なかなか悩んでいるみたいだね~」


「なんか在り来たりな答えしか出てこなくてさ。でも、奏のことだから達観した哲学的なことを言うと思ってね」


「アハハ! 哲学って、そんな大層なものじゃないけどね。あくまで私の持論だし」


「持論ね~。そう考えると、俺が奏をぎゃふんと言わせる言葉が出てこなさそうだなぁ……はぁ」


「ため息つかないの~。こう成長したのも、『自分のお陰だ!』で誇ってもいいんじゃない?」


「はは、それもありかもね」



 昔は、俺が持論を口にして諭したり、窘めたりすることが多かったけど……。

 今は無理そうだなぁ~。完璧に立場が逆転されてるよ……。



「じゃあ、私の考えを言うね……。デートはお互いが特別な意識を持って過ごすことを言うんだよッ!」


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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、ここまで立派に考えている子もなかなかいないのでは、と思う。 多分、他の男と付き合ったわけではないのに、どうやってそういう恋愛観を養ったのかなあ。
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