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閑話 早乙女拓也(ヤバめなので注意)

前話で感想、考察を多くいただきありがとうございます。

大変、嬉しく思います!


全て目を通していますが、ネタバレしてしまいますので返してません…すいません。

この話で、前回の内容が見えてくる仕様にしていますので、よろしくお願いします。

 


「お父さん久しぶり。今日は結婚の報告に来たんだ」


「拓也!! お前、急に帰ってきたと思えば今までどこに!? って、結婚だと……まさか、また学校に行っていなかったのか!?!?」



 書斎に響く怒号。

 それは、早乙女家当主の怒りの声だ。


 見る人が見れば、その声を放つ男性の厳格な雰囲気に圧倒され体が竦むことだろう。

 そのぐらいの迫力があり、怒鳴りつける声で家具が震えているようだった。


 だが、そんな声を受けても涼しい顔をして拓也は立っている。

 そして、口を開き……。



「通う必要なんてないよ」



 と、当然と言わんばかりの態度でそう言い放った。

 その言い草に、父親の額に青筋が浮かんだ。


 ぷるぷると震え、今にも飛び掛かりそうな形相で拓也を睨む。だが、怯むことなくニコニコと笑うだけであった。



「前に“真面目に生きる”って宣言したのは、お前だろう! “心を入れ替える”って……!」


「何を言ってるのさ。僕は真面目に生きているよ。心だってこんなにも穏やかだ」


「それがどうして結婚という選択肢になる……。学校に行って世のためになることを……って」


「結婚も世のためだよ。少子高齢化だから、貢献しないとね。僕は4人子供が欲しいんだ。学校になんて行ってたら、育めないからね」



 拓也はそう言うと、やれやれと肩をすくめてみせた。

 未だに状況を把握できない父親は、口をポカンと開け、「拓也がなんと言おうと結婚は認めない」と、話の通じない相手に呆れはてたようにして言った。


 でも拓也にはどこ吹く風と、気にした様子はない。

 相変わらず、王子様のような笑みを浮かべて笑うだけだ。



「ははっ。まぁ少しで20歳だし、最悪そこまで待つよ」


「……頼むから考え直して……大人しくしてくれ」


「大人しくって、僕は普通の幸せが欲しいだけだよ」


「幸せ……? また、金を勝手に使ってよく言えたものだなっ!!」


「ふふっ、お金は使うものだよ。お父さんは可笑しなこと言うね」


「それだけじゃない!! どうやって家を借りたりした!? それに車だって!!」


「馬鹿だなぁ。お金を積めば、どうにかなることも多いし()()すれば問題ないよ」


「まさか……また何かやって」



 父親の顔面蒼白になり、ガタガタと震え出す。

 その震え方は尋常じゃない。


 引き出しから薬を取り出すと、それを一気に口へと流し込んだ。


 その様子を拓也は笑ってみている。

 魅力的に見えるその笑みが、最早狂気にしか見えなくなっていた。


 父親は机をバンッと叩き、大きくため息をつく。



「もう無理だ……。私はこれ以上、お前を見きれない。お金だって、いつまでもあるわけじゃないんだ」


「僕はお父さんの子供だよ? 親が子供の面倒を見るのは当たり前だし、お金は子供のためにあるもんだ」


「……何か、大切なことを話していないことはないだろうな?」


「ないよ、何も。普通に健全な付き合いをしているだけで()()()()()



「何もない」そう言い放つ拓也に、父親は嫌な胸騒ぎを覚えた。重大なことを隠されているのでは……そういう、胸騒ぎである。


 けど、行動が読めない息子の考えなんてわかる筈もなく、不安を頭の隅へと追いやってしまった。



「どっちにしろ認めん。お前の玩具にされる前に、彼女には別れてもらう。理由を話せば納得してくれることだろう」


「理由を話せばね〜。僕も邪魔するし、邪魔しなくてもそう簡単にいかないと思うよ?」


「……どうしてそう思う」


「僕と同じで幸せが欲しいメルヘンな人だからね。それに、それだけじゃないし」


「……?」


「簡単には離れられないんだよ。3つの愛の鎖があるからね。切っても切り離せないのさ」



 意味がわからない。

 父親の顔にはそうハッキリと書いてある。


 わかった様子のない自分の父親を見て、拓也は「わからないよねー」と楽しげに言った。



「じゃあ、僕は行くね。これから、幸せ家族計画を考えないといけないから」


「その娘さんは、本当にお前を愛してるのか?」


「……はぁ?」



 ——突如、拓也の顔の笑みが崩れた。

 目は見開き、憤怒とも言える感情を目に宿して、父親に詰め寄った。




「愛してるに決まってるでしょ? どうしてそんな考えになるのかな? ああ、わかった。お父さんは働くことしか出来ないダメ人間だから、そう思うんだ。真実の愛を知らないんだね。ちなみに、真実の愛と言うのは伝えなくてもお互いが求め合うものだよ。なんだろう? スピリチュアルな関係って言えばいいかな。僕とあやが出会ったのも、たまたまだったし。でもね、出会った瞬間にびびっと感性に訴えかけるものがあって、不覚にもときめいたのを今でも忘れてないよ。それからは、時間を共に過ごしたし、彼女は僕を癒してくれた。ずっと一緒にいてくれるとも言ってるから。だから、死がふたりを分かつまでは一緒だろうね。あー、そうだ。どちらが死ぬ時は、一緒に死なないとね。寂しいもん。これだけ、愛しているのにお父さんは——」




 落ち着いた様子に変わり、にこりと笑みを浮かべ一拍だけ間を開けた。

 そして……。



「僕を否定するのかい?」


「…………」



 父親は、開いた口が塞がらず言葉が出なかった。

 激しい喪失感と罪悪感に、口が動かなかったのだ。


 それを確認した拓也は、踵を返すようにしてドアに向かう。



「じゃあ、僕は行くね。邪魔しないでよ、今度こそ。僕は彼女と添い遂げたいんだから」


「……拓也。もう、これ以上勝手に家の金は持って行かせはしない。学生が終わったら、勘当を言い渡す」


「別にいいよ。真実の愛で繋がった僕には必要ないからね」



 いつも通りのにこやかな笑み。

 それなのに、この部屋の空気感は極寒とも言えるほど凍えていた。


 膝を机につくようにして、父親は嗚咽を漏らし始める。



「……なんで、こんな風に成長してしまった。私はどこから間違えて……!」



 涙が止まることを知らない。

 流れる川のように、机を濡らし続けた。



「せめて奴が出かけてるうちに呼んで、迷惑料を支払って逃してあげないと……。でも、私はどうすればいいんだ」



 書斎に響く声。

 響いた声は余韻を残し、それから啜り泣く音を拾うのだった。


 “あや”が本当の拓也を知るのは、もう少し……後の話である。



執筆の励みになります。

続きがみたい、ちょっとでも面白かったとありましたら、

ブクマと☆の応援をお願いします!


予定していたこととは言えすいません…


次回から普通に戻ります!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんでこんな奴に見張りを着けてないのさ……
[一言] 今さらこの話に書くのもどうかと思いますが、現在進行中の章が終わるまで読めない(読みたい)。 汚嫁のザマァまで一息に読みたい(読みたい)
[一言] 元妻とその彼氏最高にクレイジーで個人的には好き どうやってざまぁ(未定)するのかあるいはせずに物語の一部になっていくのか楽しみでしょうがないですね。 甘々なところも見所ですが、この外伝?も相…
感想一覧
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