第18話 片付けにはハプニングがつきもの
「なんでこう物って溢れるんだろうな」
「断捨離ができないからでしょー。ほら、そっちは棚に……あ、お皿は種類別ねっ」
「おっけー、りょ〜かい」
ため息をつく俺に、奏は的確な指示を送ってくる。
掃除を始めて一時間程が経っていた。
この時間でわかったことは、奏の手際の良さだ。
俺とは違いテキパキと物事をこなし、色々と判断が早い。
正直……掃除スキルが俺とは雲泥の差である。
いや、マジで大人として情けないよ……
俺が片付けにもたついていると、奏がため息混じりに話しかけてきた。
「片付けの下手さ具合を見ると、有賀っちよく家を綺麗にしてたねー。もしかして、毎回ゴミ屋敷にして業者を呼んでたぁ〜??」
「酷いなぁ~。さすがに、そこまでは酷くないぞ? 不器用ながらも自分でやってたし」
「じゃあ……かなり時間がかかってたわけね……はぁぁ」
「ははっ」
「笑い事じゃないって……」
俺の態度に不満そうに唇を尖らせ、呆れた様子で肩を竦めた。
残念な人を見る物言いたげな視線を浴びながら、俺は片付けの続きをする。
ひと通り段ボールの中身チェックをしていかないとなぁ。
何がどれにっていうのをわかるようにしないと……。
「有賀っち、中身の確認が終わったら、ゴミになるのを纏めておいてね。段ボールはちゃんと縛ってー、後は『引っ越しに持ってきたけどやっぱり要らなかった』みたいな物があったら、それも教えて〜。引っ越しのタイミングじゃないと捨てれなかったりとかあるからさぁ。あ、その他ゴミも混在しないように分別するからねぇ。とりあえず、わからなかったら言って」
「おぅ……なんか、指示が的確過ぎて奏がオカンみたいだな」
「じゃあ有賀っちは、私の子供ってことだね〜っ」
「ぐっ……」
「ほらほら〜、時間ないので早く動くよーっ。ぐちゃぐちゃなんだから、今日中に終わらせようよ!」
ここまでさせてしまって申し訳ないよなぁ。
でも、そう思う反面、奏によってみるみる内に片付けられていくんだから、感心してしまうよ……。
俺も頑張らないとなぁ。
とりあえず、次はさっき組み立てたカラーボックスに本を収納して……。
「そういえば、カラーボックスで思い出したけど。教室ごとに備品とかって違うの??」
「ん? どうした急に」
「なんかこの前の飲み会でリカちゃんが言ってたじゃん。おっほん……『予算組みが大変です』とか、『どれを買うのがいいんですか?』とかね」
「無駄に真似が上手いな……」
「えへへ〜。でしょでしょ〜? 私の自信作!」
「それ、本人の前でやるなよ? 収拾がつかなくなりそうだから……」
「善処するね〜っ」
「それは役所の断り文句だからなぁ……。奏が言ってた備品は、教室ごとに違うよ。予算が決まっていて、その中では自由裁量を与えられているからね」
良く言えば“自由”。
悪く言えば“放置”。
まぁそういうことだけど。
校舎発展のためならば、何をやってもいいというのもある。
当然、自己責任ではあるが……。
「じゃあ、教室も変えれるところがあったら変えれるってことー?」
「まぁそうなるなぁ〜。何か変えたい所でもあったのか?」
「うーん。すぐには出てこないけど……今度、図面を見せて! それから考えるからっ!!」
「図面って……お前は業者か!」
という、ツッコミを俺は奏に入れた。
◇◇◇
片付けを始めて結構時間が経った。
眠気もあるし、欠伸が何度も出てしまう。
家の残念な光景はなくなり、見える範囲では綺麗になるところまで終わっている。
1人では厳しかったが、ここまで出来たのは間違いなく彼女のお陰だろう。
「いや~。結構、片付いたね」
俺はそう言いながら、水を飲む。
彼女の手には今日のお礼の一つとして俺から貰ったお茶が握られていた。
ちなみにそのお茶は頑なにお礼を貰おうとしない彼女へ、俺が無理矢理もたせたものである。
「まぁ~ね。寝るぐらいは綺麗になったんじゃないかな? でも、廊下にある段ボールの山をどうにかしないとだけどねぇ~……」
「……目を背けたい現実だけどね。寝る場所確保を優先したからさ、リビングを綺麗にするのに一生懸命で……。ま、まぁだけど大きいのは片付いたし、終わりが近いかな?」
「だねぇ~。早く終わらせてごろごろした~い……」
「悪いな奏、こんな時間までさ。疲れていたら、先に休んでていいぞ? ベッドとか使っていいし」
「え~何々? それって私と寝たいってことぉ~?」
「違うわ!」
「アハハ! 冗談だよ~。顔を赤くして……あ! もしかしてだけど、期待しちゃったのかな?」
「若い人は想像力が豊かなことで」
「照れなくていいじゃーん。私と有賀っちの仲でしょ~」
「突くなって」
「ほらほら~。言ってみ~。どんなことを想像したぁ??」
「からかうのもいい加減に……!」
「あ! また頬を引っ張ろうとしてるでしょ!? させないからねッ!!」
俺が伸ばした手をひらりと躱して、「べー」と挑発しながら廊下へ逃げる。
俺は、そのからかいに乗り奏を追いかけた。
だが……急いでいるが故に、彼女の足下が疎かになっていたのだろう。
落ちていた紙ゴミを踏んでしまった奏は、そのままバランスを崩した。
彼女の口から「きゃっ」と短い悲鳴が漏れた瞬間、俺は反射的に彼女の腕を掴み、倒れないように引っ張った。
その勢いで俺は段ボールに背中をぶつけ、ぐらりと段ボールの山がぐらつく。
「やばっ……」
雪崩が起きる段ボールの山に潰される形で、俺と奏が倒れ込んでしまった。
「痛っ……悪い奏。大丈夫か?」
「変に足を打ったけど、それ以外は……。それより有賀っちは?」
彼女からは普段の元気な態度ではなく、どこかしおらしい声が出る。
……よかった。
どうやら怪我とかはなかったようだ……。
潰した段ボールが彼女と床の衝撃を和らげ、荷物が入っていた重めの段ボールは俺によって当たるのが防がれた形である。
だから、俺の体が痛い。
まぁでも、完璧に自業自得なので、奏に怪我がないという結果が不幸中の幸いってところだ。
怪我をさせたら、笑えない状況に陥るだろうからね……。
……あれ?
体の痛みがひいてきて、徐々に現実に戻されると同時に思考がクリアになってゆく。
それと同時に、自分が今とんでもない状況にあることを理解していった。
ふわりと香る甘い匂い。
自分が嗅いだことのないような、つい惹かれて安らいでしまうような……そんな匂い。
そう——俺が奏を押し倒すような形になっていた。
「すまん!」
俺が慌てて抜け出そうとすると、奏は俺の頬に手を当ててきた。
「ねぇ……そのまま体を預けてみたい?」
妖艶な微笑を浮かべ、人差し指を唇に当てる。
それから、俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。
俺は周りの段ボールを横へとずらし、それから起き上がる。
奏は床に倒れたままで、顔をこっちに向けて、くすりと笑った。
「それは……」と俺が困ったように焦っていると、
「冗談だって」
「は……え、冗談?」
「うん。それに私、傷につけこんで、勢いみたいなことしたくないから」
彼女はそう言うと、にこりと微笑んだ。
「ほぉら有賀っち、背中痛いでしょ。早く湿布でも貼ろー」
「おう……」
俺は気恥ずかしくて頬を掻く。
この後、片付けを再開したが身が入らなかったのは言うまでもないことである。
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