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Rの世界  作者: 冬生まれ
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R-1

■xxxx/08/02


僕の名前はひとまずomifishということになった。僕の眠っていた冷凍睡眠カプセルにトビウオのマークが刻印されていたことにちなむ。名前を聞かれたけど、黙秘したからそうなった。(僕に関するデータがほとんど壊れていて、名前が読み取れなかったのだ。)

元の名前が嫌いなわけではないけど、前の世界とは別の自分になってみたいと思ったんだ。


■xxxx/08/05

研究室の人は何かと不便がないように気遣ってくれる。

まともな神経の持ち主なら、自分が突然稀少だと言われて、大切に扱われ出したら、戸惑ったり不審に思ったりするのだろう。

自分自身の功績じゃなくて、訳の分からない性別だけでそんな扱いを受けているんだから。

だけど、僕は残念なことに理由が何であれ、ちやほやされて嬉しいと思ってしまう。こうやって、大切に扱われたことがあまりないから。


僕は頭が悪いから、ことの重大性に気づいていないんだと思う。だから、いつものように人より遅れてことの重大性に気づいて慌て出すまで、しばらく幸せでいさせてほしい。


■xxxx/08/06

この世界にも桃はあった。

いつもは面談室のような静かな部屋で話をするけど、研究室の人が「たまには気分を変えよう」と言って、施設内にあるパティスリーに連れて行ってくれた。

ショーケース内には宝石みたいに綺麗なケーキが並べられていて、思わず見惚れてしまった。有名なパティシエがいるらしい。施設内の店なのに贅沢だ。

そのケースの中に薄桃色に輝く綺麗な桃のタルトがあるのを見つけて、僕は嬉しくなった。夏といえば桃だ。甘い香りを放ち、みずみずしくてとろけるような食感の果物を嫌いな人なんて、そういないだろう。

注文した桃のタルトはとても美味しかった。僕の知っている桃と全く同じ味だった。タルト生地に乗った紅茶のムースと桃の相性が抜群だ。もったいなくて、ナイフで少しずつ切って、ゆっくり食べた。


そういえば、僕の生活費は経費で落ちると聞いていたけど、この桃のタルトはどうなのだろう。ひょっとして研究員さんがポケットマネーで払ってくれたのかもしれない。

そうだとしたら、気づかずに呑気に食べていたことが恥ずかしい。お礼も言えていない。

僕はいつもこういうことに気づくのが遅くて、周りに呆れられる。

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