作戦会議、①
「えっ、何言ってるの。俺だってなんにも解らないよ??」
たまに話かけるだけだった為若干の敬語が混じっていた櫻井も浮かれているのか仲間意識なのか砕けた口調で話すようになった。
櫻井は生物部だったので部室である第二理科室を使わせてもらって二人で弁当を広げて食べながら話した。まあ本人はアニメ研究会とかあったら入りたかったらしいけど「無かったから生物部」と言う選択だったようであんまり熱心に活動してないらしい。
「こっちも召喚陣書かされてたけど意外となんか身体が自然と動くから一発で召喚したよ。余裕余裕」
私の屈辱の失敗談を話して、まずはどうしたらいいか聞いたらこの返答だ。狡い。狡すぎる。
「腹が立つから蹴飛ばしたいのは山々だけど我慢するとして……この世界の元ネタとか櫻井なら知ってるんじゃないかと思ったんだけど」
「いや、全然。」
即答された。既存のアニメやゲームの世界観だとか、櫻井オリジナル設定の異世界かと思ってたんだけど。
「まあ、養成所みたいなもんじゃないかな。ここ」
「養成所?」
「現世でも文系理系で分かれたりした感じ。さっきここの鍵を取りに事務室に行った時にここのパンフレット見かけたから一部貰って来た」
そう言って机に置いてあった紙を見せて来た。それでなんか大判の紙を持ってたのか。
「笹原高等学校…戦士科、商人科、魔導科、賢者科……」
笹原高等学校は紛れもなく私の通っていた学校だ。ただ、普通科と理数科で別れ、普通科も三年になったら文系理系に別れてたのにやたらファンタジックな学科が並んでいる。
「俺達が賢者科。多分攻撃魔法も治癒魔法も出来てそれなりに肉弾戦もこなせるマルチな職種だね。3年が終わって大学らしきとこに行くとこっちは実戦をしながら学ぶみたい。高遠さんはエスカレーターじゃなくて外部受験予定だったよね?」
「そうね、ちょっと専門的なことやりたかったから」
「うーん、それもこの世界だと『ついていけなくて脱落…』とか思われてるんじゃないかな」
静かに腹が立ったので櫻井の弁当の卵焼きを勝手に奪って食べた。
殺意の籠ったフォークが卵焼きにドスッと刺さる瞬間を櫻井は見て居たがそれには何も言わなかった。
「こっちの世界に来て最初に高遠さんが言われてた「戦士向きかも」ってので運動神経は今まで通り良いんだと思うよ。」
「ふぁ~~~!!!フォローありがとうございまふゥ~~!!!!」
完全に臍を曲げた私は卵焼きを頬張りながら適当に返事をした。
付き纏う劣等生の評価、すぐに現世に戻れるとしても一発皆をギャフンと言わせてからじゃないと帰りたくない。
別にちやほやされたいわけじゃないけど、自分がトップかトップ争いの一角に居た世界しか知らないから皆から劣等生と思われるのがなんとなく嫌なのだ。これがプライドってヤツか…。
「これおいしい。甘い」
我が家の卵焼きは甘さゼロだが櫻井の卵焼きはふんわりしてて甘かった。
「母親が作ったやつだけど…そういえば両親の職業ってここではどうなってるのかな」
「なるほど、それも違うかもしれないのか。お姉ちゃんも翻訳家目指して大学から1人暮らししてるけど違うかもしれないってことだね」
「翻訳するのが古代の魔導書、とかはありそうかも」
なるほどな、と思っていると櫻井が私のお弁当の卵焼きを取って行った。オタクにありがちなコミュ障野郎と思っていたがそうでもないらしい。さほど仲良くない他人の弁当を奪って行く程度には図太いようだ。
正直こっちの世界の事は私より櫻井が詳しい。何も解らなくても『なんとなく』で理解してる気がする。癪だがコイツを頼る他あるまい。
「毎日昼はここで世界観の擦り合わせ、っての、いい?」
櫻井がいつも昼食を誰と食べているか知らないけど、断って来てくれたらいいなと思って聞いてみた。
「いいよ」とアッサリ櫻井が言った。
「高遠さん、元の世界に帰りたいってそっちの方法を探すんだとばかり思ってた」
「こんな劣等生のまま帰れるわけないでしょう?」
力強く返したら櫻井が「そういうもんですかねぇ…」と口癖なのかそこだけ敬語交じりの口調で呟いた。そういうもんなのだ。異世界だろうが異次元だろうがなんだろうが舐められて帰るワケには行かない。
最後にアスパラベーコンを口に放り込んで弁当箱を仕舞う。ペットボトルの緑茶で流し込んだ。
「じゃ、そう言う事なんで、ここ以外ではアンタの事「サクラ」って呼ぶからね」
「じゃあこっちも「タカ」って呼んでもいいんですかね?「タカさん?」」
「呼び捨てでいいよ」
「りょーかい」
櫻井…いや、サクラもそう言って弁当箱を綺麗にバンダナで包んでいる。
こいつと二人、この別世界でやっていくんだと思うと憂鬱だし面倒だけど目標が出来た。とりあえずこの世界でも学年トップを取る事。それだけ叶えればまぁ、現実世界に帰ればいいかな。
帰り方はその時考えればいいとして…後回しだ。