補足メモ1 オリンポスとタルタロスの歴史 (読み飛ばし可)
古代史時代、大陸のほとんどは「陸の民」であるタイタン族が占め、海洋は「海の民」であるメロード族が占めていた。
この世界には、ほかにも「森の民エルフ」、「山の民ドワーフ」、「丘の民ホビット」などのように、さまざまな人種が存在する。
かれらは異なる種類の生物ではなく、共通の祖先をもつ「人類」である。
かれらはすでに一定レベルの文化技術をもち、それなりに平和な共和社会を築いていた。
とある古い宗教書によれば、あるとき、そのタイタン族のすむ大陸に神々が降臨したのだという。
神々は湖にかこまれた山岳の地下に神秘の城を築き、そこで金髪碧眼のエルフ族をつくり出した。
神々が、何のためにエルフ族をつくったのかは分からない。
そしてその答えを知る神々そのものが、ある時、突如として姿を消してしまった理由についても誰も知らない。
やがて神々がいなくなると、地下世界に残されたエルフたちは野生化して行くことになった。
陽の光をきらったエルフたちは夜闇にまぎれて地上にあふれ、蛮族となってタイタン族の世界から略奪をくりかえした。
それはどのような戦いであったろうか。
エルフたちは、どのような神々の武器を用いたのだろうか。
ある時、タイタンの娘が神の子をみごもったという。
エルフたちは、この年を聖歴紀元元年とした。
エルフたちは、あらたな神の子を旗頭として宗教をおこし、タイタン族を内部から侵略していった。
そして五〇〇年。
やがて西の地下世界から、蛮族化したエルフの大群が這い出し、一気に押し寄せた。
タイタン族たちの世界は蹂躙された。
タイタン族のひとびとは駆逐された。
多くのタイタンが捕らえられた。
エルフはタイタンを支配した。
しかし、エルフたちは自ら何ひとつ生産する技術を持っていなかったので、捕虜にしたタイタンたちを使役して暮らすことにした。
エルフたちは、忠実に兵役につくタイタンを第二階層、技術的貢献度の高いタイタンを第三階層、一般的タイタンを第四階層とし、さらにエルフの支配に反抗的なタイタンたちを第五階層とするヒエラルキーを制度化して他民族に由来する者たちを差別した。
そして自らは、神の使いとして支配層である最高位についた。
さらにエルフ族は侵略戦争を開始。
西方各地から侵略を果たし、領土を拡大して行った。
西域から追いやられたタイタン族たちは東方に逃れたが、そこでホビット族の苛烈な抵抗にあい、さらに北方へと追われてしまう。
だが一部のタイタン族は東の海へ逃れ、とある島国にたどりついた。
そこは大陸の末端ともいうべき列島であり、メロード族、ホビット族、ドワーフ族、またはるばる遠方から流れ着いたエルフ族たちまでもが共存する新世界であった。
大陸から逃れてきたタイタン族のものたちは、ごく当たり前に島に迎え入れられ、その一住民となった。
そしてやがてそこに生まれた多民族国家こそが、「タルタロス王国」である。
聖歴一〇〇〇年頃。
エルフ族は、無理な拡大と支配のために内乱が相次ぎ、統制がままならなくなって来る。
そこへ北方に逃れていたタイタン族が押し寄せる。
しかし押し寄せたタイタン族は、中間域の山岳地帯に王国を建てていたドワーフたちのために足止めされた。
タイタン族はドワーフ族との戦いには勝つが、なぜかそこで支配は起こらなかった。
タイタン族はドワーフたちと和睦し、交易をはじめたのである。
ドワーフ族はタイタン族を介し、東方のホビット族や極東のタルタロス王国と交易するようになった。
このことによりドワーフ族は一気に文化、技術的に躍進し、エルフ族をしのぐ豊かさをほこるようになる。
聖歴一五〇〇年頃。
ドワーフ族の隆盛に危機感をおぼえたエルフ族は、西域で抵抗をつづけていた残存のタイタン族らを駆逐し、ついに西域制覇をなしとげる。
エルフ族は、ここに「オリンポス帝国」を建国した。
大陸東方をドワーフ族とタイタン族におさえられていたオリンポス帝国は、武装した外洋帆船を大量に建造し、海洋からの侵略に転じた。
そしてつぎつぎに南方世界を侵略し、ついにはオリンポス帝国が世界の大半を支配するようになる。
残るは、中央山岳のドワーフ族、東方北部のタイタン族、東方のホビット族、オケアノス海のメロード族・・・。
そして、極東の多民族国家タルタロス王国である。
聖歴一八五〇年頃。
オリンポス帝国は、タルタロス王国が多民族国家であることに目をつけ、そこへスパイたちを潜入させた。
スパイたちは巧妙に立ち回り、やがてタルタロス王国内にて反乱を扇動した。
反乱はタルタロス王国の西端からはじまり、多くのひとびとを巻き込んだ。
国民同士の凄惨な殺し合いがあり、兵士が市民を虐殺し、街を焼いた。
反乱の主導者となったヒュペリオンは、ついにタルタロス王家を打倒し、その実権をにぎった。
ヒュペリオンは「タルタロス帝国」を建国し、新政府を樹立した。
しかし当然ながらその実態は、世界侵略を目的とするオリンポス帝国の尖兵にすぎない。
ヒュペリオンは国民たちに「立ち遅れたタルタロス」と「先進文明国オリンポス」という図式を説き、先進する文明世界に競い勝つべく忠義と努力を強いた。
老いも若きも男も女も働ける者はすべからく労働を強いられ、戦える者はことごとく訓練を受けるようになった。
そして、生産し、貿易し、軍備を拡張すると、すぐさま近隣諸国への侵略を開始した。
壮大な歴史と、巨大な規模をほこるいにしえからの大民族、東方ホビット領域への侵攻である。
オリンポス帝国は、この巨大な民族を攻めあぐね、毒物や麻薬などを使って姑息で残虐な攻撃をつづけていたが、決定的な一打に欠けていた。
だが、タルタロスの兵士たちは勇猛にして精強であり、ホビット領への侵略は順調に為された。
オリンポスの世界侵略事業は、タルタロス帝国の活躍によって期待以上の戦果を上げたと言える。
聖歴一九〇〇年頃。
オリンポス帝国は、タルタロス帝国の侵略に乗じて、大々的な世界侵略を開始した。
地方領の貴族の息子が暗殺された事件をきっかけに、中央山岳のドワーフ族、東方北部のタイタン族を巻き込んだ大戦争をはじめたのである。
東方北部のタイタン族は、まもなく抵抗をやめ、ドワーフたちもついには降伏した。
ドワーフの財産を手中におさめたオリンポス帝国は、まるで黄金指輪の伝説のように、あくなき欲望にとらわれた。
ドワーフ族を徹底的に支配し、隠し財産をさぐり、それでも足りないと、ドワーフたちを工業生産に駆り立ててその利益をむさぼった。
当然、ドワーフたちは疲弊する。
無限の労働力などないのだ。
いたるところで破綻が起き、ついには経済的な恐慌を引き起こすに至った。
聖歴一九五〇年頃。
世界が混乱しているさなか、オリンポス帝国にとって思いがけないことが起きた。
タルタロス軍の常勝ぶりに慢心したか、あるいは軍事戦略上の視点を持つことによって、あるべき世界の真相を知ったためか・・・。
ヒュペリオンが反旗をひるがえしたのである。祖国オリンポスに対して。
タルタロス帝国は開戦の初撃でオリンポス帝国の主力海軍を壊滅させ、またたく間に世界各地の植民地を解放して行った。
さらにこの反乱にドワーフ族が立ち上がり、争いは拡大。
ついに世界大戦となるに至る。
主力海軍に大打撃を受けてしまったオリンポス帝国は状況の不利を知ると、なりふりかまわぬ反撃に転じた。
まずオリンポス帝国は、ドワーフ族の攻撃に対して撤退を続け、戦力の消耗を避けた。
ドワーフの電撃的な進軍を受け流すようにして被害を吸収し、甘んじて侵略を受けた。
軍は国民を守らずに引き上げて行ったのである。
ドワーフの制圧下に入った国民たちは、オリンポス軍のふがいなさを嘆いたが、その怒りは当然ながら目の前に居座るドワーフたちに向く。
国民たちはそれがオリンポスの作戦であるとも知らずに、ドワーフたちを恨み、オリンポス軍の救援をひたすら心待ちに待ち続けるようになった。
その間、オリンポス帝国は、反乱の中心となったタルタロス帝国一国のみを標的にする作戦を展開した。
他国に派遣されていたタルタロスの外交官家族をとらえて人質とし、これを利用してタルタロス軍部にスパイを潜入させた。
スパイはタルタロスの士官になりすまして戦場にてさまざまな悪行をなさしめ、評判を落とさせた。
さらに、その他各地でもスパイを使って指令系統を掌握し、高官たちをオリンポスの味方につけて行った。
そしてタルタロス帝国が他の反乱諸国から孤立しはじめたことを確認すると、オリンポスは容赦なく、じつに残虐な方法で復讐をはじめた。
まず、戦略的に意味のない民間人の居住地区を何箇所も襲撃し、大虐殺をおこなった。
さらに、封印されていた古代兵器を使用し、二つの都市を消滅させた。
あっという間に何十万人という民間人が殺戮されたのである。
これらの報告を受けたタルタロス皇帝ヒュペリオンはその手から錫杖を落とし、そのまま玉座から倒れ、崩御した。
タルタロス帝国の皇位は、その子ヘリオス皇子が継いだ。
しかし、若きヘリオス皇帝を支える立場にあった多くの大臣たちは、すでにスパイたちの扇動によって厭戦気分につつまれていた。
中には、すでにオリンポスの息のかかった者たちもいたはずである。
そんな中、タルタロス帝国の主力海軍が、何者かの裏切りによる作戦漏洩によって壊滅した。
若きヘリオス皇帝はそれでも徹底抗戦をとなえていた。
抵抗をやめれば、その時点ですべての国民がオリンポスの奴隷と化すのである。
そして解放した植民地のひとびともまた、戦う理由を失うだろう。
しかし、保身にあせる小心な大臣たちに、そのような理屈が通用するはずもなかった。
大臣たちはあわてふためき、じつに手際よく内部工作を画策し、ヘリオス皇帝の手の届かぬ場所で降伏の準備を整えた。
若き皇帝には、信頼に足る味方が不足していた。
ヘリオスは温厚で無垢で、とても、野心をもってひとを集めるようなタイプではなかった。
「余はこの時、後世の歴史によって、子供じみた行動を起こすわがままをそしられることを恐れたのかも知れぬ」
ヘリオスは晩年の手記にそう書き述べている。
タルタロス帝国は、ついに降伏勧告を受け入れることになった。
そのあおりを受けて、ドワーフ族の勢力も瓦解した。
敗戦である。
敗戦とは何か?
よくよく考えてみれば分かる。
億単位の人口がひしめくひとつの国家が、わずか数万人の兵士たちを戦い合わせて勝ち負けを決めるのだ。
確かに数万の兵士を死に至らしめた責任者にとっては、ショックな出来事ではあろう。
しかし、その背後にその何百倍もの国民の未来がかかっていることを忘れてはならない。
軍事とは、わずかコンマ数パーセントの割合でしかない兵士たちを使ったギャンブルに等しい。
すべての国民の同意を得たわけでもないのに、勝手にかれらをチップに仕立て、勝手に開始したギャンブルなのだ。
敗戦とはつまり、たかだかそのギャンブルに負けることにすぎぬ。
ギャンブラーの道義としては確かに、負けた者は正々堂々と支払いをすべきだ。
しかし、そもそもそのチップはいったい誰のものなのだ?
国民たちはたとえ軍が敗戦したからと言って、戦勝国に売り払われ、子々孫々、のちの未来を奴隷として生きるいわれはない。
なぜなら数万の兵士が破れても数億の国民が抵抗すれば、いくら最新兵器で武装していたとしても、いくら禁忌の古代兵器を使用しようとも、決してその国を支配することなど出来るはずがないからである。
敵の兵士たちもまた、数万人でしかないのだから。
では、さらに問う。
他国の何百倍もの国民を支配するために、いったいどれだけの兵士を動員すれば良いのか?
いや、そんなことを続けていれば、自国の防衛もままならなくなるであろう。
よく考えるべきだ。
敗戦はあくまで敗戦であり、そこには敗戦したという事実が残るだけである。
敗戦したからと言って、相手国の支配を受けるいわれはないのだ。
そんなことがもし出来るとしたら、すなわちその国の国民は、はじめから奴隷と言う名のチップでしかなかったと言うことである。
つまり、持ち主が変わったというだけのことだ。
国民たちが、生まれたその瞬間から為政者のチップでしかないのであれば、たしかにそうだ。
だがもしそうならば、国民はそのチップでしかない状態から脱さないかぎり、永久になにひとつ変わることがないだろう。
敗戦などとは関係なく。
敗戦。
タルタロスの領内に、オリンポス帝国の兵士たちが進駐するようになる。
ヘリオス皇帝は降伏に際し、前線にいる兵士や避難民たちの安全の確保を条件とした。
それは条約では受け入れられたはずだった。
しかし、実際にはほとんどの兵士や避難民は、恨み重なる現地の敵兵たちによって武装解除したところを襲撃され、虐殺された。
タルタロスの有能な将軍や軍師たちも、一方的な裁判によって、そろって処刑された。
たしかに・・・これらオリンポス帝国の対処は、当時においても、国際法的にも、倫理的にも認められるものではない。
しかしオリンポス帝国の存続のためには、この過剰なまでの見せしめが必要だったのだと・・・政府筋の歴史家たちは語る。
世界大戦という名の反乱は終結した。
こうしてふたたび世界は、オリンポス帝国の支配下にもどったのである。
タルタロス帝国は解体され、新たな民主制度による王国政府が設立。
新たな「タルタロス王国」が誕生した。
ヘリオスは退位こそさせられなかったものの、皇帝としての実権を失った。
帝国制は廃され、民主主義を導入するという名目で選挙制度が持ち込まれた。
封建的な時代が終わり、平等で自由な世の中になったという。
しかし、実態はちがう。
王国国会の議員は国民の選挙によって選ばれるとはいえ、貧しい下層級の国民が選挙に立候補できるわけもなく、また立候補したところで当選できるものではない。
民主主義とはあくまでも精神理念のものでしかなく、社会支配の構図は何一つ変わらぬ。
選挙の動向はすべて貴族層による政党派閥のパワーゲームであり、その政党の背後にはそれぞれスポンサーがいる。
・・・タルタロスの復権を阻むオリンポス。
・・・敗戦し支配されたタルタロス王国のウマミを狙う各種組織。
・・・そしておそらくは、商人ギルド。
まさに名ばかりの制度である。
たしかにオリンポスは憎きヒュペリオンに鉄槌を下し、まんまとタルタロスを無力化することに成功した。
しかし、もはやオリンポス帝国には、それまでのように武力で支配を維持するような力は残っていなかった。
そのため、結局、オリンポス帝国の支配下にあった多くの植民地は、この機につぎつぎと独立を果たした。
オリンポス支配の植民地時代は終わりを告げるかに見えた。
しかし、独立国らは名目上の独立は果たしたものの、オリンポス帝国と敵対するものではなかった。
もとよりかれらにそのような野心も攻撃性もない。
ただ自らを守るべき時のみ戦う者たちである。
あるいは、タルタロスの見せしめが効いたと言えるのかも知れない。
世界各地の新興独立国は、それぞれオリンポス帝国と提携をつづけることとなり、新たな形での国際社会が築かれて行った。
もちろんその中心は依然としてオリンポス帝国であり、国際経済を行き交う共通通貨もオリンポス帝国のものが使用される。
離散しはじめた世界は、オリンポス帝国がふたたび支配することになったのだ。
つまるところ新興独立国らは、オリンポス帝国ににらみを効かされながら自治を任されたということにすぎなかった。




