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「アポロンなら黙って席を立つ」  ~ハーメルンの笛吹きが、無人島に建国するような事態~  作者: したむら てつ
第五章 アポロン無双編 (続編 本編)
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第十九話 若者たちの侵略

 翌年の春、アポロンとアルテミスは、アテナとヘルメスを伴ってタルタロス王国に帰還した。

 アテナはこれまでの経緯を賢者会に報告するために、オリンポス帝国に戻った。

 そして、アポロンとアルテミスは、正式に商人ギルドを脱退したヘルメスをともなって王宮に帰った。


 ヘリオス王は、我が子たちの帰りをよろこんだ。

 そしてまず最初にしようとしたのが、アポロンを次期の国王にすえることであった。




 しかしこれに対し、真っ向から反対したのは商人ギルドのギルドマスターであるミダスである。


「アポロン王子は、例の誘拐騒ぎをひきおこした張本人であり、子どもたちをそそのかし、われわれタルタロス王国に対して反旗をひるがえし、キティラ島という重要な国土を海賊どもにうばわれる原因をつくったのですぞ。

 フン、いったいどの顔で王室に帰還しようというのですかな。まったく恥知らずにもほどがある」




 それを伝え聞いたヘリオス王は、大臣たちに向かって答えた。


「あの事件のそもそもの原因は学校にあったのだし、かれらを追いつめたのは王国海軍だということを私は心得ている。

 恥ずかしいことに、王国海軍が壊滅して、かえって貿易は活性化したではないか。

 それにキティラ島はもともとオケアノスの領域であり、メロード族の国土と言って良く、それをタルタロス王国との交流の懸け橋にせしめたアポロンの功績は大きい。

 いま、アポロンの王位継承について反対する国民はおるまいよ。きみたちはどう考えるかね?」


 ヘリオス王の弁は、国際的観念にもとづいたまっとうな正論であった。

 大臣たちに反論の余地はない。





 しかし、アポロン王子の王位継承は、まったく別のところで頓挫した。

 アポロン自身が王位継承を拒否したのである。


「わたしは王室に返り咲くためにもどって来たのではありません。

 島で子どもたちとともに経験した数々のできごと。

 ひとがひとであり、それらがすべて自由と幸福という原点によって成り立っているという事実。

 そして、それを現実化する手段と発想。

 それらをこのタルタロス王国にもたらし、今後この国を周辺諸国の脅威としてではなく、世界の先進文化の見本となさしめるためにもどって来たのです」


「そうは言うが」

 ヘリオス王は、これみよがしに情けない顔をして見せた。

「お前の次の王位継承権は、アルテミスにあるのだぞ」


「悪くない話かも知れません。アルテミスも年頃です」

 アポロンは、心にもないことをうそぶく。


「あれが、じっとしているものか。娘だてらに、お前より先に城を出たのだぞ?」

 自分で言いながら、ヘリオス王は妙なおかしみを感じるのか、クスクスと笑っている。


 空気の張り詰めた王室の中、側近たちは直立不動でニコリともせずに親子の会話を聞き流している。

 内心あきれているには違いなかったが。


「父上、私は政界に出るつもりです」

「ほう」

「国政を動かし、あらゆる旧態依然とした慣例を払拭し、世界に先んじてまったく新しい時代を築くつもりです」


「ああ・・・あれか」

 ヘリオス王は、すこし考えながらうなずいた。

 ヘリオスは、アポロンが若者にありがちな大言壮語を振りかざす者でないことを重々承知している。

 ならば、アポロンがやろうとしていることは想像がつく。


「結論が出たと、いうことだな」

「はい。アルテミスとも約束したことです」


「なるほど・・・それも良かろう。

 たしかに、お前たちの理想が成就したあかつきには、この国から国王制を取り除くこともできような。

 時代が変わるということか。しかし・・・」


「摩擦も多かろうとは存じ上げております」


「いや・・・もう、ぬるま湯はいい」


 親子は、しばし笑い合った。









 アポロンは、王都中央区における地方選挙に立候補した。

 国会の議席につくための第一歩である。

 ヘルメスはすぐれた秘書官として、アルテミスは魅力的なスポークスマンとして、アポロンの活動を支えた。

 王位を捨て、政党によらず、一国民として出馬したアポロンは、またたく間に民心をとらえた。


 だが、アポロンは、活動と言っても何をするわけでもない。

 ひとを雇って街を練り歩かせるようなことも、街頭で大声をあげることもない。

 街頭ビラをまくことも、街中にポスターを貼りまわるようなこともしない。

 集まってくれた協力者たちは活動の場がないことに不満をもらしたが、アポロンはそれを制した。


「下品な声とつまらぬ与太話で世の静寂を乱し、己がふぬけた顔で街を汚す気にはなれん。

 なにかをせねば、おおやけに発言できぬというのでは、いったい民主主義とは何なのであろうな」


 すべきことは、ただアポロンの方針を伝えるだけである。


「活動するから、ひとが振り向くのではない。ひとは求めるものを、待ち焦がれているだけなのだ」

 アポロンはそう言った。


 結局、アポロンが選挙に際しておこなったことは次の二文を表明したことだけであった。



  「わたしは何もしない。あなた方の不安をとりのぞくだけだ」


  「国民は働く者のみではない。そこに生きる者すべてである」



 そして、この二文が、ひとからひとへ伝わり、まるで乾いた大地に吸い上げられる慈雨のように、行き詰ったタルタロスの巷に浸透して行った。


「何もしない」という言葉は、一部の競争相手らには、ただの怠慢宣言に聞こえる。

 しかし、多くの国民たちは、為政者たちの「建前を振りかざした、よけいな政策」によってどれだけ苦しめられて来たかも知っている。

「何もしない」ということを前面に出して来たということだけで、多くの国民が、アポロンの方を振り向いたのである。

 実際に「何もしない」わけはあるまい。

「あなたがたの不安をとりのぞく」と言っているのだ。

 それはつまり、キャッチィな建前にとらわれず、純粋に国民の幸福を見なおそうという方針であると認識された。


 そして「国民は働く者のみではない」という言葉。

 この言葉の影響せしめた範囲は広かった。


 稼がぬ立場にある者、

 稼ぐ力のない者、

 稼ぐために人生や命や誇りをすり減らしている者、

 稼ぐよりも生きる理想を追い求めている者たちから、

 初めて現れた真の理解者として受け入れられたのである。





 アポロン王子が世の中を変える・・・!





 すでにアポロンが皇位継承権を辞退して国会議員選挙に出馬したその日から、そんな期待が早々にひとびとの間を駆け巡っていたのだ。

 これ以上、何をする必要があろうか。


 その間、アポロンたちは、まったく別のことをしていた。

 とくに、ヘルメスは、まさに神出鬼没のごとく、タルタロス各地を走りまわっていた。


 そして、投票日。

 政党政治家たちは、驚愕した。

 これまで、五〇%を切っていた投票率が、一気に八〇%を越えたのである。

 報道陣は、これをアポロン効果と呼んだが、じつはそのようなブーミング的な現象ではなかった。


 アポロンは、この投票率を聞いただけで結果と次第を想像できた。

 ヘルメスの工作が功を制したのである。


 そして、アポロンはいとも簡単に地方選挙に当選した。

 圧倒的勝利であった。


 それだけではない、全国各地で、旧来の政党政治家たちがのきなみ落選したのである。

 各地では、まったく無名の新人候補者たちが、その名を連ねていた。

 国会での議席をごっそりと失った与党野党の政党らは、顔面蒼白となったことであろう。

 なにかが、起こったのだ。





 同時に、各地で異変が起こり始めた。

 各地で国会議員たちが、襲撃を受けるという事件が相次いだのである。


 しかしこれらは、必ず未遂に終わった。

 襲われたのは、今回はじめて当選した新人の若手議員たちばかりである。

 これは、はじめから予測がついていた。

 だからあらかじめ、厳重な護衛体制を敷いていたのである。

 護衛は、アポロンの部下コロニスによって組織された私設の特殊部隊であった。

 容易に突破できるものではない。


 度重なる襲撃と防衛がくり返された結果、ついに襲撃者の一部が捕縛された。

 当初はなかなか口も堅かったが、立て続けに襲撃者たちが捕らわれ始めると、その背後関係は自然とわれて来る。

 こうなると、中には口をすべらす者もでてくる。

 予測どおり、襲撃の黒幕は政党であった。

 襲撃に関わった政党は一網打尽とされ、その組織勢力を大幅に縮小せざるをえなくなった。





 そして、選挙から一カ月。

 タルタロス王都の国会議事堂にて、定例の初回議会がおこなわれることになる。

 初回議会のもっとも重要な案件は、首相選挙であった。


 首相とは、国際的に実権を封じられているヘリオス王に代わって、王国政府の代表者となる宰相である。

 じつにおかしなことではあるが、宰相であるということはすなわち、王室の家臣という意味でもある。

 国民の代表として選挙されて国会に集まった議員たちの中から、王室の家臣となる者を選定する。

 それが、この首相選挙である。

 はなから、首相となるべきは貴族であると言っているようなものである。


 つまりこの国では、国民の代表が政治をするのではなく、いまだに王家の家臣が政治をする。

 もちろんその出自は選挙に選ばれた者・・・ということであるので、平民と言ってよいものであるが、その内情は、資本家なり貴族なり、一定以上の富裕層であることにはちがいない。

 さらには、少なくとも形式上はどう転んでも王家の家臣なのであり、この国の旧態依然とした現状をそこに見せつけられるものでもある。


 その背景には、やはり、国会など「平民の目安箱」程度にしか考えていない貴族たちの思い上がりがある。

 国会など、王家の家臣団という立場にある内閣の政治に対し、国民たちがただ文句を言ったり騒いだりするためだけにあるのだと考えているのだ。


 すなわち、アポロンがことをなさねばならぬとすれば、それは、内閣に食い込むことである。

 ただ地方選挙で圧勝しただけの国会議員であっては、三〇〇議席の内の一票を手に入れたに過ぎない。

 しかし、内閣に入る、つまり国政を司る大臣を任命するのは、首相である。

 首相が選んでくれなければ、大臣になどなれはしないのだ。


 ならば、首相になればよい。


 しかし、どうやってその首相になるのか。

 まさにいま、初回議会が開催されるところである。

 議長が、首相選挙の段取りを説明している。

 指名、そして木札による投票。

 それが、毎度、政治結社によって根回しされている出来レースだということは、国民ですら知っている。


 それをくつがえす。


 (王位を捨てて大臣になろうというのも、こっけいではあるな)

 アポロンは自嘲しつつ議席を立つと、ふらりと壇上に向かった。


 壇上に向かうアポロンをとめる者は誰もいなかった。

 あまりにも自然なふるまいであったからである。


 国会は権威にすがる年寄りの安楽場である。

 アポロンのような若者をみることはまれだった。


 だが、こたびの国会は、ようすが変わっていた。

 じつに、若手議員が多い。

 みるからに若者らしい風貌の議員が多いのだ。


 情勢に詳しい者なら、今回の選挙で何が起こったのか多少は知っていただろう。

 各地の地方選挙にて、多くの政党政治家たちが落選している。


 当選した新人議員たちは、いわばアポロンのシンパたちである。

 ひそかにヘルメスがタルタロスの全国各地域を走りまわり、それぞれの選挙区にてアポロンの方針に賛同する若者たちに立候補をうながしていたのだ。


 ただ、アポロンに賛同するという旨を示して立候補すればいい。

 それだけで、勝てる。


 ヘルメスは、そう、かれらに言った。


 若者たちは、アポロン同様に目立った選挙活動を一切していなかったので、既存の政党からマークされることはなかった。

 しかし、なにもしていなくとも、ひとびとは地域から出馬する若者たちが、これまでの政治家たちとまったく別ものであることは分かった。

 アポロンのうわさも知っている。

 そう・・・。

 ひとびとは迷いなく、誰に投票するかを、すでに決めていた。


 これまで五〇%を切っていた投票率が、なぜ今回、突然八〇%を越えたのかということを考えれば、ことの重大さに気づく。

 これまで何ひとつ変わらなかった政治に対し、ずっと無関心を決め込んでいた多くの国民たちが、いま、アポロンの登場によって、こぞって投票場へ駆け込んだのだ。


 若者たちは、仲間を集め立候補料金を捻出し、おのおの独自の意志で立候補した。

 立候補者同士で結託したわけではない。

 つまり、政党ではない。


 しかしこれは実質上、アポロン政党とでもいうべきものであった。

 目に見えない観念の相互認識でつながる、非公式の政党である。

 すでに政権の勢力図は、大きく塗り替わっていたのだ。


 ほぼ半数ちかくの国会議員が、アポロンの味方であった。

 しかし、残り半数。

 いまだ、旧来の政党政治家たちが、居並んでいる。

 この、頑迷で蒙昧な狂戦士たちを、いかに目覚めさせるのか。


 いま、アポロンの目の前に国会のステージがある。

 




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