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ケイコとマチコ  作者: Tro
#5 星の風
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#5.4 虚像の風

一生懸命に走った甲斐があったのでしょうか。何度も振り返る剣士マチコの視界から、追いかけて来る影が見えなくなりました。しかし念には念をと走る続ける勇者たちです。


ところがです。


「ふんぎゃぁ」と転ぶ魔導師ケイコ。それに立ち止まり、「なにやってんのよぉ」と手を差し伸べる剣士マチコ。


ところがです。


魔導師ケイコの手と剣士マチコの手が離れていくではありませんか! それはまるで、剣士マチコから見れば魔導師ケイコが何かに引きずられていくようにも見えます。しかし良く見えればそれは床がグーンと伸びていくではありませんか!


「ちょっとぉ、どこ行くつもりなのよぉ」と剣士マチコが言っている先から、どんどん魔導師ケイコと離れていきます。そしておまけに立ち込める白い霧。


「うおおおお」と魔導師ケイコの叫び声を残して、見えなくなってしまいました。


「全くぅ、なんなのよぉ」とボヤく剣士マチコ。しかし背後に殺気を感じた剣士マチコは咄嗟に剣を繰り出します。


カキクケコキーン。


刃と刃が激しく激突。その新手の敵は、どこか身に覚えのる出で立ち。そして生意気そうな面構えに「ちょっとぉ」と、これまた生意気な口調。それは紛れもなく剣士マチコ。どうやら剣士マチコに襲ってきたのは、なんと剣士マチコでありました!


一方、白い霧に消えた魔導師ケイコ。相変わらず「うおおおお」と叫んでいますが、そこに爽やかな一陣の風が。それで立ち上がることが出来た魔導師ケイコです。ですが既にドキドキ状態。一体、これは、あれは、と混乱するばかり。そんな時、白い霧の中から、


「あらったまほんにゃらぷ」と、どこかで聞いたことがあるような呪文が。そして、「飛んでけー」の一声で吹き飛ぶ魔導師ケイコ、ゴロゴロと転がっていきます。


「なにするんじゃぁぁぁ、誰じゃぁぁぁ」


魔導師ケイコの問い掛けに姿を現したその者とは? おお、ケイコ、魔導師ケイコです。ここでもソックリさんの登場です。どうやら敵は自分自身、己に勝てということでしょう、良い勝負になりそうです、はい。


ヨシコからの風の便りが無いので、ここでは『鏡の間』ということにしておきましょう。早速、睨み合いが始まった勇者対勇者。もうどっちが本物なのか区別がつきません。ということで、どっちも頑張れ、です。


さあ、続けましょう。そのまま魔導師ケイコからです。お互い、睨み合った後、熾烈な口撃が始まったようです。


「誰じゃぁ、あんた」

「ケイコ!」

「なぬ! 私は魔導師ケイコ かっこいいんじゃ!」

「あんた、バカなの?」

「私、お姉さんだよ」


こんな調子で暫く続くようです。では、剣士マチコの方は、どうなっているでしょうか。早速、覗いてみましょう、ピュン。


「ちょっとぉ、あんたぁ、なかなかやるわねぇ」

「ちょっとぉ、さっさとぉ、私にやられなさいよぉ」


ガキーン、コキーンと剣がぶつかり合うも、出だしも引きも同時、どこまでもソックリな両者は一歩も引きません。そこで剣先に風を送り、威力を倍増させた剣士マチコ、思いっきり振りかぶったー。しかし相手も同じ技、跳ね返されてしまいます。そこで次なる手を考え、考え、考え、答えが出ません。止む無く、力任せに振り回すだけです。


これでは一向に勝負がつきそうにありません。ならばと剣を捨て、魔法対決に挑む剣士マチコ、おっとぉ、ここで両者に差が出てまいりました。なんと、片方の剣士マチコは剣を構えたままです。


「ちょっとぉ、あんたぁ、バカなのぉ」


剣持の剣士マチコが剣無しマチコに罵声を浴びせます。それにカチンときた剣無しマチコは、


「ふん。どっからでも来なさい、よね」と豪語し、剣持剣士マチコを挑発。それでも勝機があるのかー、の真剣勝負となりました。


「エイヤー」


剣を振り下ろす剣持剣士マチコ、危し、または万事休すの剣無しマチコ、勝負あったかー、です。


ところがです。


ヒュールリー。


『秘技 マチコ・オーダー』発動。剣無しマチコが放った秘技により、床に転がる剣が風で舞が上がり、それはまるで糸の切れた凧のように狂い飛びだしました。そして、剣持剣士マチコの後頭部に剣の柄が命中、「あうぅぅぅ」と頭を抱えています。


秘技はまだ続きます。一仕事を終えた剣は剣無しマチコの手元に収まると、「ソイヤー」の掛け声と共に剣持剣士マチコをズバっ。これまた黒い霧となって消えてしまうのでした。


ところで、勝負に勝った剣士マチコは本物なのでしょうか。区別がつかいない以上、なんとも言えない状況です。こちらの剣士マチコも、ぶった斬れば霧と消えるかも。でもまあ、どっちでも良いでしょう、この際、です。


◇◇


「ふー」


安堵のため息をつく剣士マチコです。これで道が開かれた、いいえ、まだ魔導師ケイコの件が残っています。あの子はどうしたのやら、と思っていると、これまた同じように「ふー」という声が霧の中から聞こえて参りました。それを待ち構える剣士マチコです。


そこから現れたのは魔導師ケイコ、それは、どっちの魔導師ケイコなのでしょうか。それもこの際、どっちでも良いということにしておきますか?


「私、やったよ」


そう言う魔導師ケイコは、どこからどう見ても魔導師ケイコです。疑う余地など、と言ってもその確証はありません。取り敢えず受け取っておきましょう、と考える剣士マチコです。


「あんたねぇ、どこに行ってたのよぉ。まあとにかく、先に行くわよ」

「そうだね」

「ん?」


やけに素直な魔導師ケイコに違和感を感じる剣士マチコです。それとも、見ないうちに成長したのでしょうか。いいえ、ケイコに限ってそんなことは有り得ないと思い、試してみることにしました。


「ちょっとぉ、あんたが先に歩いてよぉ」

「いいよ」


怪しい、しかしそれを確かめる方法はありません。剣士マチコは、どうしたものかと思案しながら、そのままトボトボと魔導師ケイコを先頭にして歩きます。もしかしたら気のせいかも、とも思いますがモヤモヤは晴れません。そこで思わず剣で魔導師ケイコを叩いてみました。すると、


「痛いよ、なにするんじゃ、こら」という反応が。これは間違いなく本物だと確信した剣士マチコです。これで懸念は払拭され、この先に進もうと足取りも軽くなった時です。後方から奇怪な声が聞こえて参りました。それも霧の奥の方から、何かを悟ったのか、それとも歌声なのかー。


「♪ほ〜れほれ〜。悪い子は〜おらんかね〜。おったら〜お姉さんが〜箒で〜掃くで〜」


恨みの籠もったその声の主は、まさしく魔導師ケイコ。そうして霧の中から姿を現して来ましたが、どことなくヤツれているような。それでも、しっかりとした足取りで剣士マチコに迫ってきます。


そうなってくると、剣士マチコの前を歩く魔導師ケイコと、後から来た小汚い魔導師ケイコは、どちらかが偽物ということに相成ります。さあ、剣士マチコは本物を見極めることが出来るのでしょうか。


おっとぉ、既に剣士マチコは前方の魔導師ケイコを本物と認定済み。ということは後方魔導師ケイコが偽物であると確定しているではありませんか。


「ちょっとぉ、あんたねぇ、誰よぉ」と(いぶか)る剣士マチコを差し置いて、偽物魔導師ケイコと対峙する本物魔導師ケイコです、バチバチ。


「私に化けても無駄なんだから、この嘘つきめ。あっちへ行け」と本物。それに、

「♪ほ〜れほれ〜。悪い子が〜おったぞな〜、今から〜お姉さんが〜お仕置きしちゃる〜」と箒、いえ、魔法の杖を振り回し始めた偽物です。


それにたじろく本物。そこで、より戦闘力の高いであろう剣士マチコに、「マチコ、あいつをやってしまえー」と命令を下します。それに、「エイヤー」と本物をぶちのめす剣士マチコです。ゴロゴロゴローンと倒れた本物は、


「なにするんじゃもん、アホマチコー」と抗議すると、

「あんたはぁ、偽物よぉぉぉ」と本物を指差す剣士マチコです。

「私がー、本物じゃー」と、なおも抗議する本物ですが、

「ケイコはねぇ、本物はねぇ、もっとアホなのよぉぉぉ」と鋭く指摘する剣士マチコ。それに、

「ほよ」と頷く偽物です。


偽物だとバレた元・本物は、勇者たちを相手にするには分が悪いと逃走を図ります。しかーし、


「待たれよ、そこの御仁」と、元・偽物が立ちはだかりました。しかし、聞き分けのないところは似ているようで、素通りしていく元・本物です。


「ほっほー、逃るとな。それでは致し方あるまい」


元・偽物は静かに目を閉じ、そして魔法の杖を掲げると、「あらったまほんにゃらほんぷー」と何がしらの魔法を発動。その直後、霧の中に逃げた元・本物らしき、「あうー」の声が。それはきっと、黒い霧となって消えたことでしょう。


「許せ、お若いの。これも定めじゃ」


いくら正義のためとはいえ、酷いことをしてしまった、という自責の念をにじませる元・偽物。更にしみじみと、


「剣士マチコよ、先を急ごうではないか」と、立ち(すく)む剣士マチコを(うなが)します。

「ちょっとぉ、あんたぁ、本当に本物なの?」


剣士マチコの問いに、「私、お姉さんだから」と答える元・偽物です。これで、

「ああ、やっぱりぃ、本物みたいねぇ。うん、間違いないわぁ」と納得する剣士マチコです。


こうして突き進む勇者たち。ですがここで注意です。ここから先は勇者たちが『本物である』という前提でお話を進めて参るということです、はい。


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