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七話 魔法の知識

スノウイエティが身体強化魔法を纏って、空高く飛びあがった。

本当に無駄なくらい飛びあがってくれたので、いい的になった。


スカイは容赦なく魔力弾を撃ち込む、落ちてくるまでに2秒もあったので、1,5秒間で15発打ち込み、余裕を持って着地地点から離れた。

着地した箇所には既にアンスが重力渦をうっていたみたいで、化け物じみた身体能力をさらに強化したスノウイエティでさえバランスを崩して片足を取られる。


しっかり距離を取ったスカイは、続けざまに魔力弾を撃ち込む。売った数は30発。まだ時間的な余裕はあったが、ヒットアンドアウェーでその場をいったん離れた。

離れた理由は二つ。一つは単純に近接特化だと思われる相手から常に距離を取り続けること。

二つ目は、スカイの魔力量が足りない事。

魔力弾を50発も打ってしまえば、スカイはもうほとんど魔力量がなくなってしまうので、早めの補給が必要になってくる。

ポケットにある魔力補給の飴を食べるのもありだが、あいにく金欠の彼らには大事なアイテムだ。


少し休めば魔力はある程度戻る。

今は隠れるのが最善だ。


5発スカイが魔力弾を撃ち込み、同時にアンスが魔力波で雪をそこら中に拡散した。

攻撃をかわし、雪を振り払ったスノウイエティは気が付く。二人がいないと。

絶妙なコンビネーションで姿をくらませることに成功したアンスとスカイ。

しかし、野生の感が鋭いスノウイエティには彼らが完全に逃げたわけではないことが分かったいた。


随分とすばしっこい人間だ。今までのやつらとは違うと理解する。

潜んでいるのは近くのはずだ。しばらく待った。

姿を見せない。

追いかけても追いつけないのならばと、スノウイエティは新しい魔法を詠唱する。


1,2,3,4,5,6,7,8……。

スカイは岩陰に潜みながら、詠唱時間をしっかり確認した。

魔力変換速度が65%なので、実際は詠唱時間5秒の魔法だ。

以前師匠から上級魔法は6,7秒に固まっていると聞いた。上級魔法ではないが、そこそこ強力な魔法だと考えて良さそうだった。

アンスからの警告がないことも上級魔法ではないというスカイの考えを後押しした。


スノウイエティが魔力のこもった両手を地面にたたきつけた。

雪に覆われた地面が、スノウイエティを中心に隆起していく。その隆起の波は徐々に広がり、スカイの隠れる岩陰まで迫ろうとしていた。

スカイは飛び下がって、隆起を交わす。

対角線上に隠れてていたアンスも岩陰からすかさず飛び出した。


ちょうど二人がいたあたりが、この魔法の限界地点らしかった。

上手な魔法を使ったものだと、アンスもスカイも感心していた。


「今のは大地の息吹。実際にかかった時間は7,7秒だ。ということは、詠唱時間はわかるね? 」

遠くからアンスの教鞭が飛んできた。

「詠唱時間は5秒。上級魔法ではないんですよね? 」

「ああ、せいぜい先ほどみたいに隠れた敵を見つけるくらいだ。賢い敵だね」


スノウイエティは姿を現した敵二人を視認して、どちらから落とすか考えた。

そして、足の方向をスカイへと向ける。

スカイは一瞬警戒したが、攻撃体制へと移る。


そろそろ身体強化の時間が切れる頃だ。隠れていた間にしっかりと数えておいた。

身体強化なしでそのままツッコんでくるならかわし切れる自信がある。身体強化を使うなら……、6秒ちょっとの時間が生まれる。どちらにしろ攻撃のチャンスだ。


スノウイエティが選んだのは、そのまま突っ込んでくるほうだった。

途中でスピードが格段に落ちたのが分かった。身体強化が途切れたあかしだ。

スノウイエティの長い腕がスカイに向けられて放たれた。スカイはそれを華麗にかわしながら、魔力弾を10発撃ち返す。

的確にダメージは入っているようで、スノウイエティはかなり苦しそうな声をあげた。


やはり通常時の動きなら対応ができる。このままのペースでいくなら勝てるとスカイは踏んだ。

その後単純な攻撃が3回続き、スカイは30発魔力弾を打ち返した。

確実にダメージが蓄積していく。


4回目の単純な攻撃が来た時、スカイはスノウイエティの口元に魔力が溜まっているのを確認した。

詠唱が始まる。

1……。


それはすぐさま来た。

スノウイエティの強烈な叫び声が魔力によって拡張された咆哮となり、スカイの聴覚を襲った。

完全に不意を突かれたスカイは体が硬直し、攻撃をかわし切れない。

ならばと精一杯のガードを試みたのだが、スノウイエティの攻撃は一向にやってこなかった。


見れば、スノウイエティは背中から魔力弾を打たれていたようで、打ったのはもちろんアンスだった。

スカイは必死だったから忘れていたが、アンスも一緒だったのだ。しばらく放置されていたのは修行込みなのか? と自分を納得させながら師匠のもとへと向かった。


「どうだったかい? 上級魔物との初戦闘は? 」

「上級魔物? それも聞いてませんでした」

「教えてないからね。スノウイエティに詳しくないといったけど、あれは嘘だ。せっかくこんな魔物と戦えるんだ、お金稼ぎだけじゃもったいない。君の良い修行になると思ってね」

自分の師匠のスパルタ具合にため息をつきたい気持ちになったスカイだった。


「で、どう? 何を学んだかな? 」

「んー、感じたことはたくさんある」

「一つ一つ聞いていこう」

なら一つ一つ話していこうとスカイも思った。

二人は倒したばかりのスノウイエティの上に座り、ゆっくりと話し合った。


「まずは、自分の魔力弾が結構威力高いんじゃないかと思えてきた」

「ふーん、いい勘しているね」

「スノウイエティには生命力があふれていたから、てっきりまだまだ攻撃が足りていないのだと思っていた」

「君の打った魔力弾は合計90発。そのうち有効打が70発だった。私が最後にとどめを刺すために打った魔力弾が10発。スノウイエティの体力は15000あるとされている。私の魔力弾は一発100程度の威力だ。といことは、君の魔力弾は威力200になる。破格の威力だね」

おまけに魔力量も少なくて済む。改めて、いい武器を手に入れたと感心した。


「すごいです。自分でもびっくりです。魔力変換速度のこともあらためてすごいと思いました」

「その通りだ。自身を持っていいよ」

「けど、足りないものもわかった。圧倒的なまでに、魔法に対する知識が足りない」

「よくぞ言ってくれた。それを痛感して欲しくて今日のような機会を用意したんだよ」

「えっ? 今日来たのってお金を稼ぐためですよね? 」

「いや、それもあるけど……。修行のことも考えていたんだよ。本当に」

身振り手振りで自分の意図を伝えようとしているが、どうにもそれは伝わらなかった。


「まぁそう言うことにしておきます」

「信じてよ」

「それより、魔法の詠唱時間を全部知る必要がある。最初、師匠が身体強化の時間を数えていたから俺もそれに習ったけど、考えてみれば魔力変換速度さえそこで判明したのなら、それ以降の魔法詠唱時間は発動と同時に全てわかる。つまりその時間は計算ずくでこちらが攻撃できることになる」

「その通りだ! 優秀だねースカイは」

頭をなでなでされて、スカイはピシッとそれを払った。

褒められるのは若干嬉しかったが、子供扱いされるのはどこか嫌だった。


「ではここで問題です。最後にスノウイエティが放った咆哮だけど、あれはどうかわす? 」

聞かれて、そういえばそうだとスカイは我に返った。

「……対戦相手も知る、ってことですか? 」

「その通りだ! 我が弟子は優秀で助かる」

再び頭をなでて、ピシっと払いのけられるやりとりが起こる。


「あの咆哮は君の魔力弾みたいなものだ。明確な魔法じゃない。魔力に声を乗せただけのものだ。詠唱時間は1秒。スノウイエティしか使わないけど、スノウイエティなら使ってくる。知ってなきゃ、さっきの君みたくなっちゃうね」

「助けて貰わなければ死んでました」

「そうだね。でも知っていれば違う戦い方ができた。森に帰ったら勉強の日々だね」

「覚えることが多そうです」

「そうだよ。そして大抵の知識は私の持っている書物に書かれている。どうだね? 売れない理由がわかったかい? 」

ぐうの音も出ないほどの正論だった。

スカイは黙ったまま、高笑いする師匠に敗北したのだと理解した。


「ったく。もう笑ってないで帰りましょう。スノウイエティをうって、杖を買う! 」

「はーはっはっは、君が引きずり下ろすんですよ。雪山から。これも修行です」

そう言われてしまえば文句も言えない。

スカイは小さな体で大きなスノウイエティを街まで引きずることになった。

もっと強くなっていつかこの師匠を見返してやろうと誓って。






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