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六話 魔物討伐

「師匠の持ち物をちゃちゃっちゃっと売って、俺の杖を買えないですか? 」

「馬鹿を言うんじゃない。これらはいくら金を積んでも売れないし、買えない大切なものなんだよ。君の方こそ実家から高価な貴金属をくすねてこれないのかい? 」

「やろうと思えば出来なくもないですが、見つかった場合、普通に憲兵に差し出される自信があります」

実家から追い出すいい口実に使われそうな予感は常にあった。


「かわいそうに。家族間なら憲兵は立ちいらないはずなのにね」

「今更ですか。もう俺の家族との関係は知っているくせに」

「ま、無理な路線の話をしていても仕方がない。ここは現実路線で、堅実にお金を稼ぎに行くとしようじゃないか」

「お金を稼ぐ方法があるなら最初から言ってください。堅実な道より盗みを先に示唆するなんて情けない師匠です」

「稼ぐ道を考えようともせず、師匠の持ち物を売ろうとする弟子に言われたくないね」

二人の子気味いいのの知り合いがしばらく続き、それから彼らは数か月ぶりに森から出ることにした。


「ここらで一番大きな街はここだね」

「はい、ヴィンセント領のヤガータが間違いなくここらで一番大きな街になります」

「ならば、目的のものはありそうだ。ところで君。領主の息子なんだ。儲かっている商店に顔を出したら、店主がお金を都合してくれたりしてくれるんじゃないのかい? 」

「俺にその後便宜を図ってやれる力がないことくらい、この領地の人は知っています。そもそも二人の兄と違って俺の顔はそこまで広くありません。顔を出したところで、誰? ってなります。つまり、堅実に稼ぎましょう」

「はぁ、仕方ないね。ちょっと危険だけど、あれで行くしかないか」


ちょっと危険だとほのめかしたアンスだったが、スカイはこの二人のコンビで太刀打ちできない相手はいないという自信に満ちていたので、特に恐怖とか不安とかマイナスな感情は抱かなかった。


「着いたよ。目的はここだ」

街をフラフラと歩き、アンスが見つけたのは古い石造りの建物だった。

時折正面入り口から屈強そうな男たちが出入りしている。


「あ、書物で読んだことがあります。冒険者ギルドってやつですよね? 」

「流石物知りだね。その通り、魔物討伐依頼を受けてお金を稼ぐところだ」

「けれど、魔物っていまどきいるんですか? まだみたことがないですけど」

「いるところにはいるんだよ。それに私の観測じゃこれから魔物はどんどん増えてくる。早めに冒険者ギルドに通い慣れていれば、将来思わぬ収入源になるかもね」

「そんなものですか? 」

「師匠の言うことは信じなさい」

そういってアンスが先頭に立ち、二人は冒険者ギルドの建物へと入っていった。


中は意外と広く、掲示板エリアで書類と睨めってしている連中や、受付カウンターで女性と話し込む人たちなどが目に付く。

アンスは入り口付近から少しそれて、立ち止まった。

口をスカイの耳元まで寄せると、ささやく。


「ここに私が来たくなかった理由だけどね、貴族っていう連中は冒険者ギルドのように魔物を狩って生計をたてる連中を低俗だと思い込んでいる。自分たちの様に国を動かす仕事こそが優美だとね」

「あ、実家にバレたらまずいと」

「それはたいして問題じゃない。私の父はそういうところ寛大だし、君の父は無関心だ」

「……なにその両極端な差別化」

「問題はだ。冒険者ギルドの連中も貴族連中を嫌っている点だ。バレた時点で仕事を受注できない可能性がかなり高いし、最悪袋叩きもある。あまり上品に振る舞うなよ、身分がバレたら面倒だ。下品を心掛けろ」

「……いや、師匠。それはいらぬ心配ですよ」

「なぜだい? 」

「だって俺たち上品じゃないし。この中で一番汚れています。貴族だって言ったら笑われるレベルです」

「君はそうかもしれないけれど、私は身からあふれる上品さがだね……」

「……」

スカイは目の前の薄汚れた男を見つめた。

「なんだい? その目は」


スカイは思いっきり息を吸い込み、そしてアンスを指さして大声をあげる。

「みなさーん!! この人きぞくですぅ!! 」

冒険者ギルド内は一瞬静まりかえり、そして皆すぐに元通り自分の作業に戻っていく。

一瞬聞こえてきたのは、ふんっという鼻で笑った音だけだった。


「ほら、鼻で笑われましたよ。身からあふれる上品さはどこにいったんでしょうね」

「おかしいぞ。この私の上品さが……」

「そんなもんですよ。師匠も俺も。薄汚れた貧乏人としか思われていません」

「がはっ! 」

魔物と戦う前から瀕死のアンスを引っ張って、二人は仕事の受注に向かった。


受付の女性はあからさまに鼻を覆って対応してくれた。

なにやらそこそこ強い魔物の討伐依頼しかなないらしく、苦労するかもしれないと優しく注意喚起もしてくれた。失礼な行動が目に付くが、仕事はきっちりタイプの女性のようだった。


アンスは案内のあった魔物を選別していく。

スカイは受付嬢の耐え難い表情を見て、えっ!? 俺たちってそんなに臭いの? とショックを受けていた。

思えば森の中にこもりっきりの修行だった。

毎日激しく体を動かすにも関わらず、体を洗ったのなんていつ以来だろうか。


やたらと時間をかけて吟味するアンス。受付嬢は匂いに必死に耐える。スカイは申し訳なさで一杯一杯。

「師匠、もうどれでもいいですよ。早く行きましょう」

「ちょっと待て。君の初戦闘に相応しい魔物で、収入の多いものを選んでいるんだ」

「うっ」

匂いに悶える受付嬢。


「いやいや、師匠っ。もういいでしょう! 」

「まだまだ、これもいいなー」

「ううっ」

匂いに苦しむ受付嬢。


「もう、もう一番報酬が高いやつで良いから! 」

「そうはいかない。君の戦闘スタイルと相性のいい敵も見つけないと」

「うううっ、オロロロロロロ」

受付嬢はとうとう耐え兼ねて吐いてしまった。

俺たちどんだけ臭いんだよ、とスカイもかなりショックだった。


結局アンスは一時間ほども悩み、受付に行列はできるは、受付嬢に痴態をさらさせるは、スカイに精神的な屈辱をあたえるはで、とことん迷惑をかけつくして冒険者ギルドを後にした。


「ふう、貴族だってバレなくて良かったね」

「そんなレベルの話じゃねーから!! 」


冒険者ギルドで苦労した二人だったが、魔物討伐への旅路は順調そのものだった。

一般的にかなり苦労すると言われている雪山だが、毎日森の中でサバイバルをしていた二人には足元を取られる雪山もそれほど苦にはならなかった。

雪山に潜むというスノウイエティは、その雪山へ赴く過程の困難さ、そして見つける困難さ、更には魔物の強さから報酬はかなり破格だった。

時折強く吹く風を岩陰でしのぎながら、二人は順調にスノウイエティの生息域へと近づいていった。


「そうそう、まだスカイに教えてなかったことがあった」

「今ですか? 雪山登っている最中なんですけど」

「忘れていたんだから仕方ない。君の魔力弾って練度100に達しただろう? あれね、100まで行くと、重複詠唱ってやつができるんだ。右手に魔力弾、左手にも同時に魔力弾っていうふうに、重複詠唱がね」

「ほんと今更! 」

スカイの怒りのこもった声が響いたとき、地面がかすかに揺れた。

揺れはだんだんと大きくなり、二人の警戒心を高める。


「雪崩ってやつですか? 」

「いいや、どうやらあちらさんから来てくれたようだね」

揺れが更に大きくなり、大きな岩の上に力強く飛び乗った存在がいた。


体長3メートルはある白い毛を纏ったゴリラのような生物だ。腕の長さに特徴があり、口から飛び出す獰猛な牙も強烈な印象を放つ。

スノウイエティを見て、アンスとスカイはすぐさま戦闘態勢に入る。奇襲を嫌って構えたが、スノウイエティはとびかかってこない。


岩の上で、両腕で己の胸を力強く打ち付ける。

「ドラミングってやつですか? 」

「そうだね。そして魔法も行使している。土の性質魔法、身体強化だ。身体能力が3分間跳ね上がるよ。気を付けて」

「そういう情報はもっと早く欲しかったんですけど」

「仕方がない、スノウイエティにはそう詳しくないからね」

アンスは何か魔法を詠唱しているようだった。

スカイの魔力弾は0,1秒で打てるとはいえ、常に心構えは必要だ。最新の注意を払った。


「終わったようだね。身体強化の詠唱時間は4秒。実際の詠唱時間は6秒1だった。魔力変換速度は65%ってころだね。覚えておいてよ、忘れたら死んじゃうかも」

ああ、実際の戦闘ではこうして魔力変換速度を測るのか、とスカイは素直に感心した。

今日はポンコツな面しか見ていなかったので、再度師匠の凄さを確認できてホッとしたスカイだった。


師匠が見せた最初の一手で、この先すべき行動をスカイはなんとなく理解した。

相手の性質は分かった。

後は魔力操作と魔法の種類がわかっていない。


魔力操作がどのくらいかつかめれば、後は魔法が打たれるたびに詠唱時間の情報をアンスがよこすだろう。魔力変換速度はわれているので、もう一度使ってくれば実際に魔法が飛んでくる時間がわかる。


詠唱と詠唱の間、その間は物理攻撃が飛んでこない限り、自分は魔力弾を打ち込み放題だと理解した。







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