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五十三話 結界

高等魔法学院に辿り着いた騎士団、そしてスカイとレメ。

彼らが目にしたのものは、学校の敷地を覆うように張られた球体の結界魔法であった。


結界自体は透明なので学校の様子は見て取れるが、その精度によっては人が通れなかったり、魔法を遮断したいるする。立てこもるには絶好の魔法と言ってよかった。


「カネントの結界魔法か」

ジェーン・アドラーは一目見てすぐにそう理解することができた。

思わず舌打ちする。

スレインズはしっかりとした事前の計画を持ってして高等魔法学院を襲っている。


先日タルトンが攫われた夜、カネントは高等魔法学院の立地の下見だけでなく、この結界魔法の下準備も兼ねてここを訪れていた。

その下準備あっての目の前の結果である。


人質を取られているだけでなく、目の前に張られた結界まで。

この場にいる誰かが大きい声でスレインズを罵った。

いつも先手を打ち続ける彼らスレインズに、騎士団が憤りを表すのも無理はない状況だ。


「ふん、また厄介なものを」

結界に手で触れながら、ジェーン・アドラーはこの結界を突破する方法を考えていた。

スカイとレメはこの点では一切力になれない。

学校で結界魔法についてはまだ習っていないし、幼少期に実家にてその知識を吸収したこともなかった。


半端な知識も持っていないのでは、口の挟みようもない。

ただ大人しくジェーン・アドラーの判断を仰ぐだけである。


「大したものだ。いろいろと条件を付け加えている結界魔法だな。抜け穴もあるが、それはどうやら私たちには無理なようだ。その分堅いと見ていいな……」

解析をしながら、ぶつぶつと誰にともなく話す。

騎士団の面々はその光景になれているのか、各々に来る決戦に向けて準備をしていた。


「ふむ、おおよそ分かった」

しばらくして、顎に手を当てたジェーン・アドラーが納得といった様子で顔をあげた。

後ろで控えていたスカイたちや騎士団の面々に振り返る。


「皆、聞いてほしい。結界の解析が終わった」

全員が集中して耳を傾けている。

騎士団長として実力があるだけでなく、彼女は人望もあることが伺い知れた。


「これはブラロスの側近カネントの張った結界魔法と見て間違いないだろう。そして、敵の魔法ながら良くできた結界だ。一筋縄ではいかない。特に厄介なのが、おそらく条件を加えている点。この魔法は私たち騎士団の為に張られた結界だ。見たことない人も多いだろうけど、これは人によって姿を変える結界なの」

レメだけでなく、騎士団の大半もその意味を理解しかねていた。

しかし、スカイは少しだけ概要を理解している。

以前戦った同級生が似たような結界を張っていたし、何よりトリックメーカーに近いものだったから他より理解が追いついてはいた。


「ここからは解析しきれないから予測だけど、加えられた条件は3つ。一つは魔力総量。5000以上だと強く結界に引っ掛かり、以下だと抵抗が弱くなる。二つ目は年齢。20歳以上は強く結界に引っ掛かり、以下は抵抗が弱くなる。最後に、魔法性質ね。火の性質から強く結界に引っ掛かり、ランキングごとに下がり、無の性質は抵抗が弱いわ」

彼女の分析を聞いて、頭で整理する者や、メモを取る者などもいた。

レメは新しい知識を聞けて少し感心した様子だ。


一方、スカイは驚きに満ちていた。

今ジェーン・アドラーが解析条件に、自分はどれも引っ掛からなくね?と驚いていた。

魔力総量も、年齢も、魔法性質も、何もかも顔パス同然である。

結界魔法とかかっこいいこと言っているが、穴ざるもいいところであると感じていた。


「この分析結果から読み取れるのは、強者の魔法使いを強く跳ね返し、弱者の魔法使いをすんなり通す作りね。人質の上手な使い方にも活用できるし、かなり有効な結界と見ていいわ」

「む」

思わずスカイは不満げな声を発してしまった。

この穴ざるな結界魔法は雑魚魔法使いを通す目的の作りだったからだ。

つまり、スカイは雑魚であるとこの結界の作り手は申しているのだ。

声に出して不満を漏らすのも無理はない。


ジェーン・アドラーが疑問の視線を向けたが、事情を知っているレメにスカイは引っ張られて騎士団の奥へと隠れた。

裏でコソコソと説教されるスカイであった。

魔法結界を抜けられるスカイの今の状態は、切り札だと言えなくもない。


なぜレメがそんな情報を騎士団に渡さないかと言うと、王命がまだ出ていないからだ。

王命次第では協力するはずだった騎士団とは、目的に差が生じてしまうかもしれない。

スカイが結界を突破できるという情報を、レメはまだ隠すべきことだと思ったのだ。


王命を待ち、同時に結界魔法の突破方法を考えながらその場に待機していると、高等魔法学院の中から変化が訪れてきた。

一人の生徒が騎士団たちに向かって歩いてきていた。


その男はスカイも良く知る人物で、同級生のアスクだった。

スカイが助けたいと思っている一人でもある。


アスクもスカイの姿を確認できると急いで走り、結界で若干引っ掛かりはしたもののなんとか通り抜けることができていた。

「スカイ!」

「アスク、無事か!?」

「ああ、最初に襲撃されたときに数人が怪我しただけで、皆ほとんど無事だよ。僕もケガはないんだ」

「良かった。助けに来たんだ。一旦この場を離れて待っていろ。皆もすぐに解放する」

「待って、僕は逃げてきたんじゃない。スレインズからの要求を預かって来たんだ。紙を王都騎士団に預けたらまた戻らないと。じゃないと僕の代わりに生徒が一人殺されることになっている」

「良くできた結界魔法だと言ったろう?」

会話に混ざってきたジェーン・アドラーはさきほどの述べていたことが実現したことを言っている。

強者は跳ね返すが、弱者はこの通りすんなり結界を通ることができる。

今回は要求を伝えるために利用したのだ。しかも逃げ出さないように、しっかりと脅しも入れている。


「姑息な真似だ」

「しかし、賢い。要求の書かれた紙をこちらへ」

アスクは素直に指示に従い、スレインズから預かっていた紙を渡した。

ジェーン・アドラーは騎士団の下へと戻り、要求の協議をしに行く。


残されたスカイとアスク。

アスクはどこか怯えた様子だったが、スカイが力強く言ってのけた。

「絶対に助けてやる。まあ、安心して待っていろ」

「……うん!最強のスカイが言うんだから、間違いないよね」

スカイの強さを信じ切っているアスクだから言いきれることだ。

言い終わると走って結界内に戻るアスクだった。

その背中をスカイは見えなくなるまで見送る。

言葉を嘘にはしないと自分の中で誓った。


「要求は?」

近づいてきたジェーン・アドラーに気が付き、質問した。

「予想通り、金銭目的だ。まあ、桁が少し一つ二つ多いくらいだ」

「あとは王命だけか」

攻撃許可が出ても、上手にやらなければ人質に危害が加えられてしまうかもしれない。

そうなったときに結界魔法をすり抜けられる自分の存在は大きいとスカイは感じていた。暗躍するには最適なポジションである。

ジェーン・アドラーはまた別の考えを持っていたが、全ては王命次第というところもある。


この場にいる全員が待っていた王命が、一人の騎士によってようやくもたらされた。

スレインズからの要求が来た1時間ほども後だ。

彼らの要求もまた王城に送っているため、少しばかりの情報の行き違いもあるだろう。


とりあえず、ジェーン・アドラーは王命を開いて呼んでみた。

皆が見守る中、彼女の表情が変わっていくのが容易に見て取れる。

少し汗もかいていた。

内容のおそろしさに、全員が少し身構える。


「王命が下った。心して聞いてほしい」

静まり返る。

「これより騎士団は、ナッシャー王家の名のもとに、スレインズを殲滅する。その際に他の些事は一切気にしなくても良いとのこと。スレインズを殲滅する、ただそれだけに邁進せよ!」

力強く言いきられた言葉。


その内容は、盗賊団にひれ伏さない逞しい内容とも取れるが、人質のことが一切考慮されていない。

人質のことを当然知っているはずなのに、王命にはそれらが些事だと記されている。

中には有名貴族の子弟どころか、王女殿下ソフィア・ナッシャーさえいるというのに。


「騎士団長、何かの間違いではないですか!?」

「王家の印付きだ。まあ、本物だろうな。スレインズはどうやら相当王家の怒りを買っているらしい」

「しかし……」

「しかしはない。これは王命である」

騎士団長がそう言ってしまえば、他の騎士団員たちはもうそれ以上不満を口にできるはずもない。

それぞれ思うところはあるが、それでも騎士団としての仕事を忠実にこなすだけである。

彼らは王家の剣だ。王家が振ると決めたのなら、彼らは黙って目の前の敵を斬り伏せるだけなのである。


しかし、それは彼らの事情だ。

スカイにとってはこんなふざけた話を飲み込むつもりはない。


生徒のことを一切気にせず、スレインズを殲滅するだけを考えるこんな王命など、クソだと言いきれる。

自分は生徒を助けるためにこの場にいるのだ。

ただスレインズを殲滅するためだけなら、力は貸せないどころか、ほとんど敵対勢力でさえある。


王家にどれほどの事情があるのか知らないが、彼らがあっさりとソフィア・ナッシャーを見捨てるようなことをしているのにも、スカイはかなり頭に来ていた。

どこか、実家から見捨てられた自分の事情とかぶる。

それが余計に怒りを刺激する。


それにソフィア・ナッシャーは知らない仲ではない。

一日に2,3度はスカイを蹴ってくる女なのだ。

皆の前では天使の様に微笑むが、スカイの前ではあくどい笑みを向ける。

更に、彼女は自分こそアンスの一番弟子だと名乗る、完全にうざい存在である。


それでも、そんな腹立つ存在でも、同じ師匠に教わった身なのだ。

黙って見捨てたら、師匠のアンスにどんな顔して再開すればいいか分かったものじゃない。


スカイは己の行動を決めたのだった。


「騎士団総員でこの結界を打ち壊す!その後はスレインズを一人残さず討ち取る!抜かるな!」

ジェーン・アドラーは彼女の杖である聖剣を抜いて騎士団を鼓舞した。

この後に攻撃魔法で結界を突破するつもりのようだが、スカイがそれを遮った。


「ちょっと待ってくれ!俺に作戦がある。しばらく時間が欲しい」

彼らの前に立ちはだかり、伝えた。

しかし、もうほとんど誰も止まることはなかった。

スカイの側を走り抜ける近接型の魔法使いが今にも結界に斬りかかっている。


ジェーン・アドラーだけはスカイの前で話を聞くことにした。

「王命は既に下っている」

「あんたは戦いたいだけだろう。ブラロスとは戦わせてやる。だから、時間をくれ!」

「どけ、お前は私の後に続いてカネントの相手をしていろ。こうなってしまえば、素直に戦った方がお友達も助かる数が増えるかもしれない」

「どかないね」

話を聞く気のない騎士団長に、スカイは杖を抜いて、拳銃の射出口を彼女に向けることで意思表示をした。

「本気か?」

聞いてみたものの、スカイの目を見て本気だとすぐに理解する。


ブラロスとの戦い、そしてカネントの排除。スカイはそのための大切なピースでありながらも、それでも戦うというのなら、それでもいいかもしれないとジェーン・アドラーはどこか楽しんでいた。

アドラー家の根にあるのは戦闘狂の血である。彼女にも間違いなくそれが受け継がれていた。


聖剣を構える。争う必要のない二人がぶつかり合おうというとき、ジェーン・アドラーは左手からやってきた新手の攻撃を防いだ。

そこにいたのはレメだ。

刀と聖剣がぶつかり合う。


「行きなさい、スカイ!この人は私が抑える。行っておくけど、何よりも会長の身が最優先よ!わかったわね!」

レメの行動にスカイもジェーン・アドラーも驚かされたが、一歩速く動いたのはスカイだった。

「頼んだ!白いやつ……アイスを奢る!」

この場をレメに任せると決めて、結界へと一直線に走る。


そして、もちろんだが結界を簡単に通り抜けた。

それを見ていた騎士団、そしてジェーン・アドラーが驚く。


「おかしいわね。あれは強者を弾く結界なのだけど?」

「ふふ、スカイをまだ知らないみたいね」

「ええ、それほどいい男でもないし」

「見る目ないわね」

二人のおっかない女性が刃を交えながら楽しそうに話していた。


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