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五話 杖

「君に魔法使いの杖を贈ると言ったのだが、残念ながら私には手持ちが一切ない」

「じゃあなんで言ったの? 」

スカイの鋭い視線がアンスに突き刺さる。


「そんな冷たい目でこちらを見るな。私だってかっこよく買ってやりたいのだが、ないものはないのだから仕方がない。君一人だと辿り着けないような最適解とよべるような杖を一緒に考えてやろう。それを贈ったってことにしてくれ」

「……はい」

あからさまに落ち込むスカイだった。

せっかく数年ぶりに贈り物を貰えると思っていたのに、現実は非情だ。

思えば、ボロボロの旅服を着て、荷物はバッグ一つで中身は書物だらけ。そして森の中で自給自足しているアンスに金などあるはずもなかった。

伯爵家に生まれながらも、見捨てらた存在なので、スカイも当然金は持っていなかった。

先日酒を盗んだこともあり、実家の警備体制は前よりも厳しくなっていた。

つまり、金の当てはない。


金なし二人、杖を買う!


「まず、この世界の杖についてだね。概要は知っているかい? 」

「ええ、兄たちのを何度か見ていますので大体は」

「なら話は早い」


スカイとは違い、高い魔力総量を記録した二人の兄は、父親からの期待も高く、7歳時に早々と杖を贈られている。魔力総量も高く、火の性質を持つ長男はその火の魔力を更に燃え上がらせるようにと扇型の杖を授かった。次男は長男程ではないが、魔力総量が優秀で、性質は風だった。与えられた杖は竜の翼を模した銀の翼。次男は背中に銀の翼をつけて、風魔法を纏って接近戦闘に優れる。

それらを見たことがあるので、スカイは杖というものがどんなものかを大体であるが理解していた。


「杖というと木の枝のようなものを想像するかもしれないけど、実際はそうじゃない。魔道具とか、魔法使いが装備する武器と理解したほうが早いね」

「はい、兄たちのもそんな感じでした」

「二人の兄は火の魔法を使う長男と、風の魔法を使う次男だったね? 」

「そうです」

「兄は扇で中距離攻撃型の杖を、弟は翼で近接攻撃用の杖か、性質を理解した非常に素晴らしい杖選びだ」

「杖に関して何か新しい知恵はないのですか? 」

「杖って言うのは100人いたら100通りだからね、特に定石というものがない。だから間違った知識が広がる心配もないものだ。なんでそんな杖にしたのってツッコミたくなるようなものはあるけど、君のお兄さんたちに関しては素晴らしいものを選んだと思っている」

昔は優しかった二人の兄ももう一年近く会話をしていない。

とはいえ、一応家族なので、彼らが変なものを選んでいないことに安堵するスカイ。


「さて、杖選びの大事なポイントなのだけど、相性どうのこうのより、もっと大事なことが一つある」

「値段ですか? 」

「そりゃ材質はいいに越したことはないけど……。違う違う、まずは形を決めるんだ。金が溜まった後に材質の良いものに変えてもいい。まずは形、杖って言うのは自分の魔法威力を高めてくれるものだ。どのくらい高めてくれるかっていう明確な数値はない。それは自分の選んだ杖によるし、杖との相性、更にはイメージのしやすさなんかが影響してくる」

イメージのしやすさっていうのはよく理解できる。

扇も翼も、父に贈られた兄たちだったが、それは彼ら自身の意見もきっと反映された結果だと想像に難くない。


「私の杖の話をしよう。私はこう見えて、専門は治療系だ」

「えっ!? 」

「そうなるよね。言ってないものね」

圧倒的な戦闘力を誇り、知識も豊富な自分の師匠がまさかの治療系魔法使いだとは、スカイのほうこそ後頭部を殴られたかのような衝撃に襲われた。


「私の杖は無色透明だ。今も君の目の前にあるよ」

「本当ですか? 」

「賢い者にしか見えないんだよ」

「……」

「そんなに怒らないでよ」

むっつりした表情を読み取り、アンスは急いでごめん、ごめんと謝罪した。


「でも無色透明っていうのはほんと。今もこうして目の前にある」

「なにか特殊な器具ですか? 失われた技術とか? 」

「ははは、そう思うだろう? 戦闘の時はそうやって敵をかく乱したりもする」

あ、賢い! とスカイは素直に感心した。


「で、本当の正体はなんなのですか? 」

「私の杖は、そう”無”だ」

「はい? 」

「”無”つまり、無い、というのが私の杖だ」

「……はい? 」

「まぁわかりづらいよね」

そういうと、アンスはまずは自分の生い立ちを話そうときりだした。

そこから話さないといまいち伝わらないだろうからと。


「今はこうしてボロボロの服を纏っているけど、私の実家も貴族の端くれに名を連ねているんだよ」

「……捨てられたんですか? 」

「君とは違うよ」

「……」

繊細なところに触れたようで、アンスはまた急いで謝罪を述べた。


「旅は自分の意思だし、金を持たないのも自分の意思だ。そんなことより、私の実家の家業は治療系魔法を使って病気や怪我人を癒すことにあった」

スカイは大人しく座って、話に耳を傾けている。


「父は優秀な治療魔法師だったし、私もそれなりに優秀だった。父の性質は水でね、治療には持って来いだったけど、私は無の性質。治療には不向きだと思われていた。けれど、そうじゃなかったんだ。無の魔力には無に返すという性質があり、そういった魔法は治療に大いに役立った。そして無に返すという力を高めたかった私は自分の杖を試行錯誤し、そうだ! 無の杖を、つまり存在しない杖を自分の杖にしようと決めたわけだ。その効果は凄まじく、私の治療魔法師としての腕は日に日に高まった。無にかえす力が増したんだよ。無の杖ってのは、そういうことだ」

「全然わからないです」

真面目に聞いていたスカイだったが、正直言ってさっぱりだった。急に自分の師匠が頭のおかしい人間だとさえ思えてきた。


「なんでかなぁ。父も似たようなことを言っていた」

「そりゃそうでしょ。無の性質だから杖も無しでって、頭がおかしい。あ、そうだ。金もないし、なら俺も杖無しでいいや。無の性質なら効果はあるんでしょう? 」

「ぶー、効果はありません」

「は? 」

「ぶー、私は病気をなかったことにしたいと思い、無の杖を作った。自分で納得した。だから威力が高まった。君は何をなかったことにしたいのかな? 」

「別になにも」

「ほらっ、じゃあそんな杖は本当にないのと変わらない。つまり君向きじゃないってことだ」

なにかやたらとテンション高めの師匠にイラっときながらも、スカイはその話を飲み込むことにした。

安くあがらせる作戦はなくなったようだ。


しばらく時間をあげると言われて、スカイはゆっくりと考えることにした。自分に相応しい杖を。

木の上で枝に寝そべり、自分に相応しいものを考える。


自分の特徴はなにか。

まずは実家から見捨てられる原因ともなった魔力総量の少なさ。

魔力をガンガン消費するような杖は論外だ。


次に、自分は伝説のラグナシである。

魔力変換率も100%であり、これを活かさない手はない。


使える魔法は魔力弾と魔力波のみ。魔力弾は練度100までいった。間違いなく自分の最大の武器である。

魔力弾を使った遠距離戦闘が自分の強みになる。近づいてきた敵は魔力波で飛ばして、やはり遠距離戦闘に持ち込む。

速射が可能で、遠距離戦闘向き。それでいてアンスが言うには自分の好みに合っていると尚良いとのこと。


木から飛び降りたスカイは、アンスの元に向かった。


「決まったよ」

「ほう、聞かせて」

「子供の頃に書庫にあった本で読んだんだけど、失われた技術、古代兵器の欄に拳銃というものがあった。それを模したものを杖にしようかと思う」

「拳銃ね。確か小さな発射口から鉛の弾をはじき出す古代兵器だね」

「そう、良く知っていますね」

「これでも読書家だから」

「どう思います? 」

「魔力弾を放つイメージにぴったりだし、速射とも相性がいい。君の場合魔力弾の威力をあげることがベースととなる戦闘力をあげることにつながるから、100点ってところかな」

師匠からのお墨付きを貰い、スカイは自分の杖を拳銃型に決めた。


「で、どうやって買う? 」

「えー」

そして最初の関門にぶち当たるのだった。







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