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四話 魔力変換率と練度

「昨日話していた練度と魔力変換率について話してください」

起きると同時にスカイは師匠のもとへとにじり寄り、昨日の続きを迫った。


「朝から元気だね。もう少し特訓の強度をあげるべきかな? 」

それは勘弁してくれと一言添えて、二度目の催促に入る。

しつこくされて、アンスもあきらめて朝一で昨日の話の続きに入った。


「練度と魔力変換率の話だね。いいよ、そろそろ新しい知識を詰め込んでもいいころかな」

そういうとアンスはまた古びた書物を一冊取り出してスカイに手渡した。あとで呼んでおくようにとのことらしい。


「練度とは個別の魔法ごとにその人がどれだけ熟練しているかを現す。最大値が100で、君の魔力波は8だったね。魔法として形になっているけど、練度100の人と同時に使った場合君の魔力波は吹き飛ばされるだろう」

スカイの知っている魔力率の説明に少し似ていると思った。

続いて魔力変換率の話に入った。


「魔力変換率とは、魔力量が100必要な魔法を使った場合にどれだけの魔力量が必要かを表す数値だ。君は奇跡的に魔力変換率が高く、魔力量100の魔法を使うのに102の魔力量を消費することになる」

「お得ってことですか? 」

「そうだね。君は魔力変換速度が天才的だが、まさかの魔力変換率も驚異の数値を出している。はっきり言ってこの二つの数値が優れていれば、魔力総量なんてどうだっていいんだ」

おおっ、と感嘆の声を漏らしたスカイ。


「例えば、”無”の上級魔法に重力渦というのがある。必要な魔力量300で、詠唱時間も優秀な5秒。指定した半径三メートルの円形内を5秒間重力3倍にする魔法だ。ちなみに、”無”の性質で最上級に優秀な魔法だよ。これを魔力変換率50%、魔力変換速度50%の者が使うと、その者は消費魔力量600、詠唱時間は実に10秒にもなってしまう。君が今後魔力変換率100%、魔力変換速度100%になったとき、君は純粋に魔力量300、詠唱時間5秒で重力渦が打ててしまう。どうだい? 自分の才能の恐ろしさを理解したかい? 」

「はい……なんとなく。ところで、一つ質問が」

「なんだい? 」

スカイが聞きたかったこと、それは幼少の頃に習った世界の常識のほうの魔力率について。


「俺が習った魔力率についてですが、少し違った説明でした。練度に少し近いかな。例えば、魔力弾を打って、その完成度を判定する人がいるんです。完成度が完璧な場合、魔力率100%の数値を貰えます」

「そうだね、まったく愚かな知識だよ」

またも自分の師匠は世界に対して喧嘩を売るようなことを言っている。

自分ももう完全にアンス側なので、スカイも世界に喧嘩を売っているようなものだが。


「個別の魔法って言うのは大きく二つの特徴がある。一つは練度だ。魔法は使えば、そして鍛えれば鍛えるほど強くなっていく。多種類の魔法を使えるのも強みだが、君のように魔力弾特化も立派な武器だ。そしてもう一つの特徴が、魔法は魔力量を大量に注ぎ込むことでその”見た目”の威力をあげることが可能だ。君の放つ魔力弾は消費魔力が1だ。私の見たところ、君の魔力弾は練度90は行っている。専門の者がそれを見て、魔力率を計ると、魔力率90%となるだろう。しかし、少し工夫すると魔力率100%に持っていくことができる。魔力弾の消費魔力を10くらいでいいだろう、そう変更した場合、魔力率100%の評価が下る」

「……」

「気になることでも? 」

「見た目の威力って」

「そう、見た目は完璧な魔法になるんだ。でも、実が詰まっていない。実際に戦えばわかるんだけどね、幸いというべきかこの世界では優秀なヤツほど戦闘に出向くことが少なくなったから見た目さえ整えばいい」

「じゃあ、魔力率って……」

「全くの無意味だね。魔力を多く消費して、表を飾っているだけだ。この辺りに魔力総量新興の原因があるのかもしれないね」

なんだかスカイもそんな気がしてきた。

位の高い貴族程危険な仕事はしない。

魔物との戦闘も、外国との小さな小競り合いもある時代だが、魔法の力に優れているはずの貴族の身分を持ったものがそう言った場にでることはかなりレアといっていい。少なくともスカイは聞いたことがなかった。


「俺が習ってきたことってなんだったんだろう」

「そんなものさ。さあ、修行にいこうか」

「はい」


修行は更に次の段階に入った。

スカイは相変わらず魔力弾だけを使うように指示されて、アンスを狙い撃つようにと言われている。一日10発当てればいいと言われている。

前みたいに赤いシールの箇所限定とかというのはない。その代わり、アンスの反撃が始まった。


魔力弾しか使えないスカイと違って、アンスは魔力弾に魔力封じ、重力渦までつかってくる。

相手の姿を見つけても、準備していないと先に魔力弾が飛んでくる。

スカイの魔力弾は日に日に進化しており、枯れた木ならえぐれるくらいの威力はあるのだが、そこはアンスも似たような威力を持っていた。


魔力で体を覆ってガードするとはいえ、一発でも当たればかなり痛い。当たり所が悪ければ、数分は動けないほどだ。

日中はそんな攻防がずっと続く。ほとんど当てられているのはスカイの方だが。


しかし、これも数日たってくると、スカイ側に光が見えてくる。

アンスの姿を見つけた後、魔力弾を打ち続ければ、アンスに魔力封じ、重力渦を詠唱する猶予を与えない。そして、そうなれば二人の魔力弾の打ち合いが始まる。

そこにこそ勝機があった。

ギリギリのやり取りの中、スカイはわずかだが、自分の弾の方が早いことを実感する。

10発も打ち合っていると、明らかに次弾が自分のほうが早いと。

そうして、一発一発丁寧に当てていく。


アンスの反撃が始まって、一か月後、初めてスカイは一日で10発アンスに魔力弾を当てることに成功した。

10発目は後頭部にあててやったのだ。


「いててて、やられちゃったね。特に最後のは見事。まさか魔力弾を曲げてくるとはね」

「はは、実は密かに練習してて」

「魔力操作はお手の物か」

「そうそう、昔から魔力操作の数値だけは飛びぬけていたんだ、俺」

「そりゃそうさ。仕組みを知れば簡単な話だからね」

「どういうことですか? 」


また新しい話が聞けると、スカイは目を輝かせた。

「そんなに難しい話じゃないよ。魔力操作って言うのは、操作する魔力量が少なければ簡単ってだけだよ。魔力弾の魔力量は少ないし、君の場合魔力変換率も高いから操作する魔力量は本当に少ない。だから先ほどみたいに威力を落とすことなく綺麗なカーブを描けたりする」

魔力操作にそんな秘密があったのかとスカイは感心した。

そう考えると魔力変換率の大切さがわかってくる。魔力量の少ない自分にとって魔力弾というのは本当に良い武器だと改めて思えた。

魔力弾を鍛えるように言った師匠の意図がようやくわかり、心の中でそっとアンスに感謝したスカイだった。


魔力総量

魔力性質

魔力率

魔力操作

魔力速度


スカイが受けた英才教育で教えられた魔法使いの能力というのは上記のものだった。

しかし、師匠であるアンスが正しい知識を教えてくれた。


魔力総量

魔力性質

魔力変換率

魔力操作

魔力変換速度


この五つこそが正しい魔法使いの能力を表すもので、特にその中で魔力変換速度が重要だ。

スカイの魔力変換速度100%はもう遠い日のことではなくなり、近いうちに伝説のラグナシ誕生することだろう。


それを一番実感しているのはアンスであり、スカイ本人であり、故に二人の特訓の日々は一層充実することとなった。


そしてアンスとスカイが出会って半年後、スカイは魔力変換率100%、魔力変換速度100%、魔力弾練度100を達成した。

奇跡だ、と一日中走り回って、夜には酒をたらふく飲んだ師匠のアンスをスカイはその日介抱してやることになった。

ちなみに酒はヴィンセント家の屋敷からスカイが調達して来たものだ。

かなり高価なものだったので、後日ヴィンセント家当主が激怒するのだが、結局犯人がわからず怒りのぶつけどころはなかった。


魔力弾の練度が100になったことで、スカイは魔力波の練習を解禁された。

練度が100になる前に他の魔法も併用してしまうと練度が落ちる可能性がある故の配慮だった。

魔力波の練度が100になったら、重力渦を教えてくれと頼んだスカイだったが、現実は非情だった。


魔力波は魔力弾より練度が上がりづらいし、消費魔力が多いので純粋に数も多く打てない。

だから練度100に到達するのは遥か先という話だ。

そしてなによりも……。

「魔力量足りないよね」

何よりもスカイにぶっ刺さる言葉だった。


スカイは黙って魔力波の練度をあげる訓練に入った。

魔力波の特訓は、アンスとの体術訓練の延長に置かれた。


体術までも強いアンスはその技術をスカイの体に叩き込むと同時に、体術の訓練中に3回だけ魔力波を打っていいとスカイに伝えた。ていうか3回がスカイの限界。


体術は一方的だった。

明らかな手加減を感じるが、相手の攻撃はかわせないし、ひらひらと自分の攻撃はかわされる。

そして顔面や急所へのフェイントにひかっかって、魔力波を無駄に使い距離をとる。


魔力弾での追いかけっこよりもはるかに上達が厳しい道だった。


しかし、やはり若いスカイの成長は早く、これも2か月ほどで、一気に成長し距離を縮めた。

魔力波を上手に使えば、アンスに数発返すことが可能になっている。


顔をボコボコに腫らした日々の恨みを思い出し、スカイは渾身の一撃をアンスの後頭部に叩き込んだ。


「いててて、やられちゃったね。後頭部すきだねー。そこ痛いんだけど」

「だからです」

「性格悪いねー」

こうして遠距離戦闘と、近接戦闘の両方を叩き込まれたスカイだった。

もう季節も移り替わり、冬を迎えていた。

スカイもそろそろ9歳になろうかという頃だった。


「もう教えることもほとんどないね」

「重力渦」

「魔力量が……」

「……」

沈黙が場を支配した。


「そうだね。教えることは終わりに近づいたし、そろそろ君に杖でも贈ろうか」

「杖? 」

そういえば兄たちがそれらしきものを持っていたこと思い出す。

「ああ、普通は15歳になるまでに父親から贈られるんだけど、君の場合は厳しそうだからね」

それもそうだとスカイは思った。




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[気になる点] 魔力波の練度 前話だと11って言ってるのにこの話だと8って言ってます
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