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三十五話 とても大切な話

男子寮でさえ自分の部屋へ向かうルート以外は歩き慣れていないというのに、女子寮などほとんど迷宮に等しいものがあった。

道中遭遇する女子から向けられてくる視線の警戒レベルが、ダンジョンで出会う魔物の警戒レベルと近かったことが更にその考えを加速させていく。


どうにか一人で目的地までたどり着こうとしたのだが、結局それは無理そうだと判断してスカイは自分のことを遠巻きに見ていた二人の女子のもとに近づいた。


「ちょっといいか? 」

「え?  なによ……」

どちらかというと声のかけやすい方を選んだ。

「レメの部屋ってどこかわかるか? とても大切な話があるんだ」

「うそ、大切な話って。あのさ、そういうのを直接伝えるって私結構いいと思うよ。ビービー魔法使いとは関わりたくなかったけど、そういうことなら案内してあげる」

そういうこと、が何を指しているのかイマイチ理解できなかったのだが、スカイは案内してくれるならと大人しく付いていった。


案内をしてくれた二人が道中やたらとテンションが高かったのが不可思議だったが、無事にレメの部屋に付いた。

「あんたさ、いつも無口でぶっきらぼうな感じだけど、ちゃんと人間らしい感情もあったのね」

彼女も実はEクラスの生徒なので、日ごろのスカイの様子は知っていた。

「む。俺は普通の人間だ」

「そうか。そうよね。ビービー魔法使いだからって私勝手に変な偏見持ってた。……なんかごめんね」

「別にいい。案内してくれたからな」

「そう。じゃあ頑張ってね。女の子は押しに弱いから、多少強引でも必死に頼めば何とかなるかもね」

「そういうものなのか? 」

「そういうものよ。何より情熱が大事ね。声を張って、目を見て、気持ちを込めるの。あなたじゃないとだめなんだって気持ちを伝えるの」

そこまで必要なのか……とスカイは少したじろいだ。

しかし背に腹は代えられない。

憎たらしい兄とバランガに痛い目を見せるためには、自分のプライドなど捨ててやると決めていた。


「わかった。助言をありがとう」

「いいのよ。結果、教えてよね」

うむ、と頷いてスカイはレメの部屋の扉をノックした。


二人はそれにあわせて、キャッキャッとはしゃぎながら走り去った。

なぜあんなにテンションが上がっているのか、スカイには最後まで分からなかった。


レメは部屋にいて、ノックの音を聞いて玄関に向かい扉を開いた。

Aクラスの友人の訪問かと思っていたのだが、そこにはスカイの姿が。

何か生徒会からの仕事でも入ったのかと考えたが、スカイの顔がやたらと真剣味を帯びている。

「……なに? 」

「レメ、とても、とても大切な話があるんだ」

さきほどの女子のアドバイス通り、スカイは声を張って、目を見て、気持ちを込めた。

「へっ? ちょ、ちょっと、ちょっと待ってよ! ええっ!? ここで言うの? そういうこと」

「うーん、できれば経緯も話したいから部屋に入りたい」

「そ、そうよね。そういう話は部屋でした方がいいかもしれないわね」

かーっとほほを染めてレメはスカイを迎え入れた。

急な訪問に、急な告白。あまりに予想外過ぎて全く準備ができていない。


スカイを部屋にあげると、レメは一度部屋を出て洗面所へ向かった。

鏡で自分顔を確認して、髪の毛を整える。

何度か深呼吸をして、部屋に戻ろうとして、また深呼吸を繰り返す。


それが何度か続いてようやくレメはスカイのもとに戻っていった。


「いいわ。覚悟できたから話して! 」

「わかった。レメ、今日来たのは大事な頼みがあったからだ」

「うん、わかってる。わかってるから……」

「ん? 分かっているって。なんでだよ」

「だって、前々からうすうす気が付いてはいたわよ。あんたやたらと私のことを見てくるし」

いつそんなことをしたのかスカイは心当たりがなかった。

そもそも今回のことを頼みたいと思ったのも、ついさっきだ。

なぜわかっている。女の勘ってやつか? 鋭すぎやしないか? とスカイは疑問に思う。


「分かっているなら話が早い。レメ、俺と」

「俺と……? 」

「俺と一緒に、光の性質魔法の練習をしてくれ。それでアドバイスとかしてくれ」

「はい? 」

「いや、だから光魔法を教えて欲しい。使い方は分かっているけど、レメほどの細かい機微はわからない。細かいところまでしっかり教えて欲しいんだ」

「……」

うつむいて黙り込むレメ。

「ダメか? 」

反応がないので嫌がられたのかとスカイは心配した。

仲のいい光魔法の使い手はレメしかいない。頼れると思ってきたのだが、仲がいいと思っていたのは自分だけだったのかとスカイは残念な気持ちになっていた。


ガバっとレメが勢いよく立ち上がる。

スカイの胸倉をつかんで、腹に一発パンチを入れる。

「ぐはっ!? 」

「ふう」

「何をするんだ! 」

レメに殴られたのはこれで二回目だ。理不尽な暴力にスカイは抗議する。


「光魔法は教えてあげる。でも、次紛らわしいことをしたらコロスから」

「なんで!? 」

何を勘違いさせたかもわらないスカイは、その後も時折くるレメからの怒りをその身で受け止めることになった。


タルトンから無色の七魔を教えて貰ったこと、バランガと来週戦うこと。

それらをレメに説明したことで、彼女の光魔法の知識を得られることに。


「ふふふ、私の特訓は厳しいわよ」

杖である刀を肩に背負って、レメは不敵に笑う。

「厳しいのには慣れている」

「そうかしら? 光魔法はとにかく速いのよ。まあ、10回は吐くことを覚悟することね」

レメの顔がまた少しだけ歪んだように、スカイには見えた。



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