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十三話 注目の三人

高等魔法学院の入学に当たって、能力ごとにクラス分けが行われた。

能力測定はもちろんアンスがスカイに教えたような内容ではなく、世間一般で測られる5つの重要視される項目。


スカイ・ヴィンセント

魔力総量999

魔力率 100%

魔力操作 A級

魔力速度 A級

使用可能魔法 4種類


以上の結果を総合的に判断して、Eクラスへの配属を決定する。


寮の郵便ポストに入った紙を開くと、その様に書かれていた。

一見すると三項目で最上の評価を受けているので、最下位のクラスであるEクラスへの配属は不当にも思える。しかし、5つの項目はクラス分けの判断をする際に、その比重が大きく違う。


言わずもがな、この世界において魔力総量が絶対である。その比重は最大にして、ほとんどといってもよい。その数値が1000未満という時点でスカイのE組は確定したも同然だった。そして、使える魔法が4種類だけというのも少ない。学生の使用可能魔法の平均は15、4種類なので、およそ三分の一だ。ちなみに、スカイ最大の武器である魔力弾は使用可能魔法に含めて貰えなかった。それ故、魔力率の測定は魔力波で行った。練度100なので、魔力を余分に注ぐことなく魔力率100を出すことが可能だった。


目立つこの二つの項目により、スカイは最下位となるE組から高等魔法学院の生活をスタートすることになる。

進級時に一年の実績を考慮してクラスの昇級があるのだが、魔力総量が低すぎるスカイはその線も薄い。


かくしてスカイの前途明るくない学校生活が始まる。

父からあまり目立たないようにと言われているため、スカイは入学しても誰とも仲良くなろうとしなかった。自分はビービー魔法使いなので、敵対してくる人間は多いだろうが、積極的に仲良くしようとする者はいないだろうと教室の隅でひっそり過ごす。実際声をかけてくる者は皆無だった。


けれど、やはりビービー魔法使いという存在はかなり目立つ。

どれだけひっそり過ごそうが、スカイ・ヴィンセントの話はすぐに学年中に広がる。


休憩時間になれば、Eクラスにわざわざ覗きに来るような輩もいるほどだ。

ただ、覗きに来られる理由はスカイ一人にある訳ではなかった。


今年の新入生で、大きく目立つ人物が3名いた。

一人はビービー魔法使いのスカイ。Eクラス配属。揶揄や嘲笑の対象として目立っている。


二人目は、先日冒険者ギルドでスカイとあいさつを交わしたアエリッテ・タンガロイ。稀代の天才魔法使いであり、容姿端麗、実家は侯爵家という目立つ材料フルコースだ。彼女は当然Aクラス配属。ちなみに、彼女はクラスにスカイがいないことで困惑していた。Aクラスに群がる野次馬の中からもスカイを探そうとしたのだが、結局見つからずにまた戸惑う彼女だった。


そして、Eクラスに暇な野次馬が集まるもう一つの理由。それが三人目ソフィア・ナッシャーの存在だった。たとえ隣に侯爵家や伯爵家の子弟がいようともきっと存在が一切霞むことはないだろう。彼女は現国王の6番目の子にして、正当な王家の血を引く者なのだから。その容姿も非常に端麗であり、銀色に輝く髪は誰もが二度見するほど美しい。幼少の頃から病弱の身という噂も本当らしく、顔にどこか儚さがある。体の線が細く、それがまた周りに気遣いの心を芽生えさせて彼女を一人にさせない。


Eクラスには、このように目立つ三人のうちの二人がいた。野次馬が面白がって集まらないはずはなかった。ソフィアには少し珍しい噂がいくつかあり、それがまた彼女の謎めいた魅力を増した。

そのうちの一つ、情報がどこからか漏れたのか、ソフィアがEクラスに配属されたのは本人の希望だという話もすぐに広まっていった。魔力総量をはじめ、判断基準となる5項目で悪い数値は出していない彼女だが、病弱の身を考慮して授業の難易度が低いEクラスを希望したのではないかと推測がされている。

一見納得できる理由なので、ほとんどの生徒が騙されたのだが、彼女の真意はそこにはなかった。


彼女の目当て、それはEクラス配属が確定しているビービー魔法使いであるスカイ・ヴィンセントだった。


授業中など教師の隙を伺っては、ちらっとスカイを見たりするが、彼は窓の外を見て一人で静かに過ごしている。

時間をおいてまたちらっと見るが、スカイはまた涼し気な顔で過ごしている。


ソフィアは別にスカイに好意を抱いている訳ではなかった。むしろその逆である。

妬み、嫉み、そしてライバル心が心の中で暴れ回っている。

自分は視線を投げかけるというのに、スカイは視線を返してこないことに若干のいら立ちを覚えたりもした。


それも無理はない。

そもそもスカイはソフィアのことを知らない。まさか、自分が嫉妬の対象となっていることなんて夢にも思わなかった。たまに視線を感じると、またビービー魔法使いだと揶揄されているのかと思うくらいだ。どうせそのうち乱暴者が自分を呼び出して暴力行為を働きに来るのだろうと予想している。その上手なカウンターを考える時間だけでいっぱいいっぱいだ。だから視線や嘲笑で済んでいるうちは楽なものだと思っていた。


そんな訳でソフィアの視線は一切気にしていない。ていうか、この場合気が付いていないだけだった。

数日視線を投げかけても一切反応しないスカイにだんだんと腹を立てていたソフィアだった。


そしてとうとう、入学して2週間くらいしたとき、ソフィアは一人スカイの元へと歩み寄った。

自分に近づいてくる足音を聞き、スカイは想定通りだと思った。どうせ2週間目くらいで呼び出しをくらうと思っていたからだ。昨晩考えた上手な正当防衛を披露するときが来たと考えていた。


考えていたのだが、席の隣に来たのは、ソフィア・ナッシャーだった。存在としては知っていたが、個人的な面識はない。まさかクラスのマドンナ的存在の彼女が自分のもとに来るとは思っておらず、驚きを隠せないスカイだった。

最初に呼び出しを食らう相手がクラスのマドンナで、王家の人間だなんて。当然好意ではないだろう。こんな可憐な女性にも嫌われるのか。ビービー魔法使いとはそこまで嫌われるものなのか、とスカイは軽くショックを受けた。


「ちょっと」

ソフィアの顔には好意の欠片もない。

ソフィアとスカイの目立つ二人の会話に、クラス中が注目した。

「なに? 」

「放課後時間を頂戴。話があるから」

「いや、あんたみたいなのが相手だといろいろ困る。だから断る」

やり返すにしても相手が王家の人間だといろいろまずい。流石に上手な正当防衛もこの人相手には発揮できない。

「いいから来なさいよ。校舎裏ね」

そう言い残すとソフィアは立ち去っていった。


……その放課後、スカイは校舎裏にはいかず、そのまま寮へと戻っていった。

ソフィアと関わってもいいことがなさそうだったからである。

一時間ほど待ってもスカイが姿を現さないので、ソフィアはようやくあの男がこの場に来ないことを理解した。怒りに満ち溢れて、ソフィアは男子寮へと歩を進める。

途中すれ違う男子生徒に驚かれながらも、臆することなく速足でスカイのもとへと向かった。


107号 スカイ・ヴィンセント


そう書かれた郵便ポストを確認して、ソフィアは107号室へと向かった。

力の限り拳で扉を叩いた。そこには礼儀の欠片も見当たらない。

反応がないので、また何度か叩く。

そうすると、扉がゆっくりと開いた。

なぜか杖を準備してスカイが顔を出した。

「なんだ、あんたか」

「あんたか、じゃないわよ。校舎裏に来なさいって言ったよね」

「言われたけど。あんたを相手にすればいろいろとまずいことになりそうだし」

「は? 何言ってんのよ」

「いや、だって俺をリンチにしたいんだろ? ああ、それとも一対一か? 黙ってやられるつもりはないけど、あんたの場合やり返すと静かな学校生活に支障が出そうだ」

「随分と修羅の世界に生きているようだけれど、そんなつもりで呼んだんじゃないわ」

「じゃあどういうつもりだ? まさか……」

告白? という線が芽生えて、スカイは身構えた。


「変な想像をしないで頂戴。あなたには宣言をしたいだけなの。アンス・ランスロット先生の一番弟子はこのわたしだということをね! 」

「は? 」

思わぬところで、子供の頃師事した師匠の名を聞き困惑するスカイ。


「幼少の頃より先生はわたしの治療師として側にいて下さり、そして正しい魔法の知識も授けて下さった。しかし、旅から帰ってきた後、先生が口にする名はスカイ・ヴィンセントのことばかり。不快だったわ。その存在にようやく出会えたから、伝えたいの。先生の一番弟子はこのわたしだとね」

「はぁ……アンス、いや師匠は元気なのか? 」

「気安く呼ばないで頂戴! いいこと? 伝説のラグナシかなんか知らないけれどね、このわたしも魔力変換速度93%を誇るのよ。先にラグナシになっただけで先生の気を引いているようだけど、すぐにわたしもラグナシになって、先生の興味を独り占めして見せるわ! それまでせいぜい短い天下を楽しんでおくことね! 」

ピシッと言い切り、力強く扉を閉める。

危うく顔をぶつけそうになったスカイだった。


「嵐みたいな女だな」

思わずそんな感想を口にして、部屋へと戻っていく。

せっかく外出の準備をしたのに、無駄になったとため息をつく。


その直後、また扉が叩かれた。

若干苛立ちながら扉を開く。そこに人はおらず、足元に置き手紙だけがあった。


『バランガ・レースより 今すぐ校舎裏に来い』

見覚えのある名前に、慣れた呼び出され方。こっちは間違いなく想像通りの呼び出しだった。

外出の準備が無駄にならずに済んだと、スカイは足取り軽く寮を出た。




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