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十一話 新しい日々

アンスの体調も無事整い、出発の日がやって来た。

森を出て、街道に立った二人。


「では、私はこれで行くとするよ。最後にいいものを見せて貰った」

いいものとは、もちろん魔力変換速度200%のことだ。

アンスの知識にはなく、使われたときは完全に不意打ちとなって、倍の威力となった魔力弾をもろに食らってしまった。

「お気を付けて下さい。保存食は計画的に食べてくださいよ」

「旅立った日に母にも同じことを言われたよ。一年間ほどだったけど、濃い時間を過ごせたよ。またいつか会おう。私の弟子、スカイよ」

「ええ、また会いましょう。絶対に」

白い髪の毛を風になびかせて、アンスは旅立っていった。

その後ろ姿をスカイは見つめ続けた。

随分と楽しい日々だったと思い返す。

また、一人の時間がやってきてしまう。寂しさがスカイの心を覆った。


この一年後、スカイは10歳になる。

魔力総量の測定で、99を出してしまい、とうとう15歳時での魔力総量1000未満が確定してしまった。

実家からの失望は更に強まり、兄たちとの間柄にも溝が大きく開いた。

この日以来、ヴィンセント家三男スカイ・ヴィンセントは仮のビービー魔法使いとなり、世間からの冷たい目にさらされることとなる。


領地の民からも一切貴族扱いをされることがないし、かといって平民の中に友達が出来るわけでもなかった。

基本は一人で魔法の修行に励み、実家で食事を摂りづらいので森で食料を調達しながら日々を過ごした。

そんな代わり映えしない日々にも、たまにある嫌なことと、たまにある嬉しいことがあった。


嫌な方は、実家からの強制的な呼び出しだった。

王都で開かれる貴族のパーティーや特別な祝い事などは、基本家族全員の参加が義務付けられている。

ビービー魔法使いである息子を世間に晒したくないヴィンセント家当主もこういった場には仕方なく三男のスカイを呼ばざるを得なかった。

間違いなく嘲笑の対象になる息子だ。

誰も彼も直接言ってはこないが、心の底では笑っていることだろう。それを思うだけで飯がまずくなる。だから三男のことはいないものとして扱おうとヴィンセント家当主はそうやって己を納得させていた。


パーティーなどがあると、いつも同年代の貴族に絡まれるスカイだった。ビービー魔法使いなんてなかなかいる存在ではない。遊ぶには持って来いの相手なのだ。

それ故パーティー唯一の楽しみである豪華な食事も、いつも決まって邪魔をされる。

つい先日は、バランガ・レースとひと悶着起こして少し騒ぎになった。


所詮子供同士のいさかいということもあり、大ごとにはならなかったが、レース家の人間はかなり怒り心頭なご様子だった。それでも子爵家の立場で伯爵家であるヴィンセント家に文句を言えるはずもなく、レース家の人間は密かに仕返しの機会をうかがっている。自分たちから仕掛けておいて、返り討ちにされたことはとうに忘れ去っており、被害者面をしているところが何とも醜いのだが、スカイの立場に立ってやる人がいないため、レース家を責める者はいなかった。嫌われ者の辛いところである。

貴族の集まりはこのように、向かってくる相手を撃退することで難を凌いできたスカイだった。


この一人で過ごしていた間、たまにある嬉しい出来事もあった。

それは、森にとある人が訪れてきてくれることだった。


ヤガータ一の杖師で、スカイの拳銃を作り上げた青年だった。

名前はルルロロ。店主である父にスカイ・ヴィンセントを気遣うように言われたのと、個人的に拳銃に興味があって、彼はたまに暇ができるとスカイのいる森へと足を運んだ。

森を訪れると、世間話に一切花開かない二人だったが、杖のことになるとお互いに意見が止まらない。


まずはルルロロが最近の拳銃の使い心地を確かめ、事細かにスカイが報告する。

で、その後はスカイが改善点を述べて、ルルロロが専門的見地から本当に改善すべき点をまとめていく。技術的にできることと、できないことをスカイに説明し、理解したスカイがまたそれを考慮して改善点をあげたりした。

スカイの杖強化にも役立ったし、ルルロロの腕向上にも大いに役立った。

二人は一緒に遊びに行ったり、ご飯を食べたり、友人的なことは一切しなかったが、お互いのことを嫌いではなかった。それどころか、会って杖について話している間が一番楽しいくらいだった。


そうした生活が続いていき、あっという間に4年が過ぎた。

スカイは14歳になっており、体も随分と大きくなっていた。


二人の兄は王都にある高等魔法科学院に通ようため領地を出ていた。来年15歳を迎えた時、スカイも領地を出る予定だ。15歳になればできることが一気に増える。ビービー魔法使いとして揶揄される貴族界に残るつもりなどなく、自分の力で生きていこうと決めていた。


そう決めていたのだが、予定というのは得てして変わりやすい。

ある日、父からの呼び出しがあった。

父の執務室にスカイと二人きりでの面会。父の顔をしっかりと見たのは10歳の時、魔力総量を測定して以来だった。

スカイの様子を一通り確認して、ヴィンセント家当主、アランは言葉を発した。


「随分と大きくなったな」

「ええ、伸び伸び育ちましたので」

スカイなりの皮肉だった。

「お前は残念ながら、来年15歳を迎えるさいに魔力総量1000を超えることはないだろう」

「ええ、知っています」

「世間様に出したくない息子だが、そうもいかなくなった。高等魔法学校は知っているな? 」

兄たち二人が通っているからある程度知っている。子供のころにも家庭教師から将来はそういった場所に通うのだと聞かされていた。

この国で一番の魔法教育機関であり、一般的に貴族と優秀な平民の魔法使いが通う学園とされている。


「知っていますよ」

スカイはそっけなく答えた。

「お前も来年から通え。手続きは済ませてある」

「理由を聞いても? 魔力総量1000を超えない息子を貴族が通う学校に入れるなど家の恥をさらすようなこと。なんで今更? 」

「お前の兄、タランに王家の姫との縁談が入った。家名を継ぐことが難しくなったのでな、お前はスールの予備として高等魔法学院で学んでもらう」

タランはヴィンセント家の長男。確かにいい男だが、姫を落とす程の器量があったことにスカイは驚いた。スールはヴィンセント家の次男だ。この場合、長男が王家の一員になるため彼が家を継ぐことになる。彼に何かあったときのために、自分もしっかりとした教育を受けさせられるのかとスカイは事情を把握した。


「断ります。あまり俺にメリットがない」

「そう言うな。いままで冷たくしてきたのは悪かった。実家のことを思って魔法学院に通ってくれ」

「どの口が言ってんですか。実家に恩義なんて感じちゃいません」

実際この7年間、スカイはアンスと一年を共にし、残った6年はほとんど自分で生きてきたようなものだ。実家に愛着も何もなかった。


「わかった。スールが無事領地を継いだ場合でも、領地の三分の一はお前に譲ろう。断るなら力ずくにでも、ということになるが、それはこちらもしたくない選択だ 」

高等魔法学院は三年間通う場所だ。

卒業後はいろいろな道が開けるし、卒業したというだけで信頼も得られる。

そこに通うだけで、ヴィンセント家の領地の三分の一も貰えるだなんて随分といい話に聞こえてきた。

スカイはしばらく悩む。

変に逆らっても、ここはいい方向に出ない気もして来た。


ヴィンセント家は伯爵家だ。この国において大いに影響力を持つ。父に反発して出ていったところで、生活の邪魔をされないとも限らない。ならば、この美味しい話は飲んでおくべきか……。


「仕方ありませんね。通ってあげてもいいですよ。その代わりですが、在学中も卒業後もあまり俺に干渉しないでください」

「それは願ったり叶ったりだ。一つアドバイスだが、あまり目立つことをするな。貴族連中に絡まれるぞ」

「今までずっとそうでしたよ」

パーティーなどで良くからまれた。今更なアドバイスだった。


こうしてスカイの高等魔法学院行きが決定した。


一年後、スカイ15歳。

魔力総量測定で、999というちょうど1足りない魔力総量をたたき出して、正式にビービー魔法使いとして高等魔法学院の一員となることが決定した。


高等魔法学院は貴族位を持つ家庭なら自動的に入学が可能だ。

平民の位では、高い魔力総量および、高い知識量が必要とされる。

いわゆるエリートが集まる場所だ。

平民の中に魔力総量1000未満は当然おらず、貴族位の中にも今年はスカイ一人だと言う。ビービー魔法使いが一人なので、いいターゲットになりそうだとスカイは心構えた。

「どの程度の反撃なら退学にならないだろう」

やられる考えは、そこにはなかった。








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