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十話 魔力変換速度200%の世界

初級魔法の威力の壁、その突破の意義を聞かせるため興奮しながらアンスはスカイを座らせた。

この間にも杖のチューニングは行なっている。


「上級魔法が上級魔法と呼ばれるにはそれだけの理由がある。君は上級魔法が広範囲に影響を与えることを知っているね。上級魔法は撃たれる前に対処するのが基本だが、もちろん状況によっては上手くいかない事だってあるだろう。相手にしっかりと上級魔法を撃ち切られた場合、対処法は二つに限られる」

「一つは、かわすですか? 」

「その通りだ。戦闘中立ち止まっているのは素人でしかない。動き続けることで常に狙いを絞らせず、そして”実力差”があれば完成された魔法すらもかわすことが可能になる」

実力差というポイントを強調して言った。

実力差がないとかわし切れない、と言っているようなものだった。


「しかし、現実問題、戦い慣れている者なんてのは確実に魔法を当てくる。広範囲の上級魔法なんてのはほとんど100%といっていいだろう」

「では、どうすればいいんでしょうか? 」

「魔法相殺というのを使う。これは学校などに通うとまず習う基本的な知識だ。相手が初級魔法を撃ってくれば、初級魔法で相殺。中級魔法なら中級魔法で。上級魔法なら上級魔法でだ」

「なら、その通りにすればいいんじゃないですか? 」

「その通りなんだが、所詮は理論の話で、これは実際の戦闘に適していない。戦い慣れている者は有利な状況下で魔法詠唱を始めるからだ。その後に追随して詠唱したところで魔力変換速度に大きな差がない限り先に魔法を撃たれてお終いだ」

「ああ、なら俺は大丈夫だ。なんたってラグナシだし、俺より先に魔法を撃てる相手はいない。なら一歩遅れたところで何の問題もないですね」

「そうもいかない。残念なことに無の性質は他の魔法程威力がないため相殺しきれない。同時に撃った場合、ほぼ間違いなく相殺されるのは無の性質だ」

「……なら、魔力封じで! 」

「あれは魔力量が莫大に必要になるから」

「えっ、無の性質悲しすぎませんか? 」

「悲しすぎるな」

あくまでこの状況下ではだ、という一言を添えてアンスは続きに入る。


「しかし、君の魔力弾が威力”500”だと話は一気に変わってくる! 」

今度は500を大きく強調して言った。

「実際の戦闘で、上級魔法を撃ちきられるような状況になった場合、正しい対処としては中級魔法もしくは初級魔法で相手の魔法威力を弱めて、残った余波を事前に使用した防御魔法で受けきるか、余波のダメージを受けきるというのが定石だ。ただ、上級魔法を撃ちきってくるほど実力のあるものは、大抵その前段階で初級魔法と中級魔法を駆使して有利な盤面を築き上げる。そういった実力ある者が君を相手にする場合、有利な盤面を築くのはほぼ不可能だという話だ」

「ああ、なんとなくわかってきました」

初級魔法の威力は300~400。スカイの魔力弾は500。そこに答えはあった。


「強いやつというのは本当に初級魔法の扱いがうまい。あれよあれよと追い込んで、気が付けば上級魔法が完成間近なんてのをやってくる。しかし、君を相手にする場合、初級魔法を駆使して有利な盤面を気づくことはほぼ不可能だ。初級魔法は全て君の魔力弾に完璧に相殺されてしまうからだ」

相殺されるどころか、威力は魔力弾の方が大きい。余波が相手のもとに届けば、さらに動きづらくなる。

それに、そもそもの詠唱速度が違いすぎる。

初級魔法に2秒かかった場合、スカイは20発の魔力弾を撃てるし、その一発を相殺に使った場合、更に次の2秒間攻撃し放題である。有利な盤面を築けるはずもない。


「500っていう威力の凄さがわかったかな。一部の中級魔法もカバーできる威力なんだよね、これって」

「でも、待ってください。それだと、師匠と出会った時のように隠れて上級魔法を詠唱されたときに対処しきれません」

「その通りだ。しかし、それも君の場合なら対処可能になる。重複詠唱だ」

ああ、そういば使えると教わっても使っていなかった技術だった、とスカイは思い出した。まだ一発一発撃つ癖が抜けていなかったので、ずっと放置していた。


「0.1秒、ラグナシで魔力弾を君は2発撃てる。基本魔法で瞬間火力が実に1000にも到達するなんて私は聞いたこともない。いくら奇襲しようが、0.1秒で1000の威力を叩きだせる相手に上級魔法を直接ぶつけることは不可能だ」

上級魔法の威力は1000~1200が相場だ。1000ものダメージを打ち返せれば、余波が来てもたかが知れている。

魔力封じならばどうか、とスカイは自分で考えたが、スカイにとっては既にネタのバレている魔法だし、魔法が自分にかかる前にそれも魔力弾での対処が可能だと思えた。


魔力弾、威力500の講義が終わった後、本格的な杖のチューニングに入った。

杖は魔法使いにとっては絶対に手放せないものである。

それ故、何があっても杖は使い手から離れさせてはならない。身に着けるタイプの杖ならそう気にすることでもないが、スカイの様に手にするタイプの杖には最優先するべきポイントである。


早速杖が使い手の魔力に引き寄せられるように調整をした。

すこしだけ苦労したスカイだったが、半日もすると杖を魔力だけで自分のもとへ引き寄せられるようになっていた。いつでも杖を握れるように、腰の位置に杖を待機させている。

引き寄せと魔力潤滑が完璧になったのは3日後だった。

杖は完全にスカイの魔力になじんでおり、これでチューニングは完了だ。


一通り身につき、少しだけ立派になった姿のスカイをみて、アンスは一つの決断をした。

そして、夕食時、バチバチと火に焼かれる魚を見ながらアンスはきりだした。


「スカイ、君の才能は素晴らしいものだ。しかも私の厳しい特訓にも根をあげずに良くついてきてくれた」

何かいつもと違う雰囲気を感じて、スカイは少し心構えた。

「なんですか? 急に」

「いや、もう君に出会って一年ほどたつ。伝説のラグナシに出会えたし、君はもう充分強い。教えることも教えた気がするし、そろそろ私は旅を終えて実家に帰ろうかと思ってね」

「……ヴィンセント領を出るんですか? 」

「そうだ。父に仕事を任せっぱなしで悪いし、こう見えても私には帰りを待つフィアンセもいる。そろそろ帰ってやらないと捨てられてしまうかもしれない」

「フィアンセいるのに何やってんですか!? 」

「どうしてもラグナシを見たくてね。私の師匠が昔から語るその伝説の存在を見たくて見たくて、ついにそれを探す旅に出てしまった。3年費やしてようやく君と出会い、そしてここで一年を過ごした。実に有意義な日々だったよ」

「フィアンセ絶対逃げていると思いますよ!? 」

「そんなことはないさ。彼女は私に惚れきっているからね」

「冷めきってますよ! 4年ですよ!? 」

「愛は不変なのだよ」

何言ってんだこいつ、と思ったが言っても目が覚めることはなさそうなので、スカイは現実的な路線を行くことにした。


「師匠! 1年もの長い間ありがとうございました! 私を探す間の3年も含めて合計4年、本当にお世話になりました! 」

「いいんだよ、私のしたかったことだからね」

「だから早く帰ってあげて! フィアンセのためにも! 」

「そう急かされると、もう少し残りたくなる」

「帰れっ!! 」


アンスの夕食を取り上げながら、必死に説得するスカイだった。

それでようやく話がまとまり、一週間後にアンスが旅立つことがきまった。

決まったら決まったで、スカイは寂しさを覚えて、その日嫌に眠れなかった。ちなみに、眠れなかったのはアンスも同じだ。気持ちは二人とも同じだった。


旅立つまでの一週間は、準備に忙しかった。

アンスには計画性というやつがなく、保存食や金などを一切持たない癖があった。

それ故、当分の食糧はスカイが調達した。実家の屋敷地下に保存食がたっぷりとあったので調達。父の部屋にある高級な酒も一本調達。

一年ぶりにおこった窃盗だったが、ヴィンセント家当主は今回も犯人を捕らえられず怒りに地面を踏みしめた。


忙しくスカイが走り回ったおかげで、旅立つ二日前にはしっかりと準備が終えられた。

余った二日をただ過ごすっていうのは勿体ないとアンスが言い、どうせなら一戦交えてみないかと提案した。

「旅に支障が出ても知りませんよ」

と、スカイが強気の発言をする。

「子供の骨折は治りが早いというし、大丈夫だよね? 」

と、アンスも負けずに返す。


二人の戦いは旅立つ前日の早朝に行われた。


正面切っての対決だった。

まず杖を握って魔力弾を打ったのはスカイ。

威力も速さも勝るため、打ち合うとアンスにはぶが悪い。

急いで木陰に身を隠す。

その間に魔力弾を二発食らう。


「くっうー、いったいな。でも、後五発は打たれても大丈夫そうだ」

アンスはスカイに見せていない魔法がいくつかある。スカイは全ての魔法を覚えて切っているので、奇襲はほとんど難しいが、一つ有効な魔法を思いつく。それを使って、近づき近接戦闘に持ち込めば勝機はある。無事師匠としての面目躍如だ。

少しの間だけ考えこんでていたアンスだったが、スカイが追撃をやめる理由はなく木の幹が魔力弾に完全にえぐられて倒れてきていた。


木の崩落を交わして飛び出すアンスを狙い撃ちにする予定だったスカイだが、一向にアンスの姿が見えない。木に押しつぶされるほど鈍い男でないことは知り尽くしている。じゃあ、どこに消えた!?

両目を必死に動かしてその姿を探すが、見つからない。

何か見落としてないかと考えて、一つ思い当たる。


無の性質の魔法に、姿隠し、というのがある。10秒間姿を消すという魔法だ。

それを使って、木の崩落から逃げたに違いなかった。

しまった、と気が付いたときには少しだけ遅かった。


自分の後方10メートルで、魔力封じの詠唱を完成させてたアンスが笑っていた。


次の瞬間には魔法が飛んでくる。それと同時にアンスも突っ込んでくるだろう。

魔力封じが飛んできた。届くまでに0.2秒はある。……かわし切れない。

魔力封じは他の魔法と違い、威力がないぶん相殺もできない。

魔力封じが当たれば、近接戦闘だ。魔力弾を使えず、アンスの勝ちが確定してしまう。

魔力弾を打ち返すにも重複詠唱で4発だけしか打ち返す猶予がない。それではアンスは倒れないだろう。


負けが確定したかに見えた。

しかし、スカイは師匠に隠していたことがあった。

ラグナシになったあの日、実は自分の中に新しい能力を見つけていた。

師匠の旅立ちだ。勝って、自分が強いことを示したい。自分のことは気にさせず、安心して旅立たせてやりたい。


だから、今こそラグナシの新の力を解放する。

使える時間はわずか10秒間だけ。それで十分だ。


解放されし力、『魔力変換速度200%』。

詠唱時間、半分に短縮。同時に魔力変換率も200%になり、使用魔力量が二分の一に。更に魔法の威力が10秒間倍に。


魔力封じが到着するまでの0.2秒間で、スカイは魔力弾を8発も撃ち返した。しかも威力は倍。

魔力封じが当たり、息の詰まるような感覚がスカイを襲う。

その後に続くはずだった、アンスからの追撃はなかった。


見ると、アンスは地面に倒れ込んでいた。

スカイが違づくと顔をパンダにしており、意識を失っていた。

オーバーキルしてしまったようだ。


やり過ぎたスカイによって、アンスの旅は一週間延期された。

一週間つきっきりでアンスの世話をすることになったのだが、スカイは嫌ではなかった。

フィアンセには申し訳ないと思ったけど。アンスも大体似たようなことを考えていた。








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