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一話 魔力量至上主義


この世界には嫌なしがらみがある。


魔力量至上主義と呼ばれるものだ。

簡単にその概要を述べると、魔力量が高い、すなわち優秀という観念が完成している世界のことだ。


10歳にして魔力量が900もあるレース家長男は将来有望と両親が貴族界で騒いでいる。

同じく、10歳にして魔力量が130のマクルーン家長男は、15歳で魔力量1000を超えられるか怪しい位置にいるため、日々魔力量を高めるため特訓に励んでいる。

魔力量は10歳から15歳の間に爆発的に成長するとわかっている。


なぜ130でぎりぎりなのかというと、統計データが多く、その過去のデータがこれからの事実を示しているからだ。

10歳で魔力量が200を超えた者は、15歳時に100%魔力量1000を超える。

10歳で魔力量が150-199の者は、15歳時に80%魔力量1000を超える。

10歳で魔力量が100-149の者は、15歳時に40%魔力量1000を超える。


そして、10歳のヴィンセント伯爵家三男スカイは魔力量99。

10歳で魔力量が99以下の者は、15歳時に100%魔力量1000を超えない。

数百年記録されてきた統計データがスカイの15歳で魔力量1000を超えることはないと断言しているのだ。


そして、15歳で魔力量1000を超えなかった魔法使いは一般的にB級魔法使いと呼ばれる。B級魔法使いが貴族だった場合、その者は更にB級貴族の呼び名も加わり、通称ビービー魔法使いと揶揄され続ける。


ビービー魔法使いで日の当たる人生を送れた者はいないと言われている。

貴族家には異常なまでにプライドの高い人もいて、ビービーが家に誕生するとその存在をなかったかのように隠し続ける家もあるとか。悪い場合は密かに消されることも。


その点を見れば、ヴィンセント家の三男、スカイは幸運だった。

存在を隠されることもなければ、命を脅かされることもなかった。

ただ、父親からは存在を認識されているのかいないのか怪しいくらい興味を持たれていないのと、二人の兄から距離を置かれているくらいだった。

あ、最近になってもう一つ厄介ごとが増えたのだった。


10歳にもなり、伯爵家の人間ということもあり社交界に出向くことが多くなった。

伯爵家ともなれば、貴族界でもピラミッドの頂点付近に位置する存在だ。

すれ違う人間たちは皆笑顔を作り、こびへつらう。

父と二人の兄には、だ。


社交界でもビービー魔法使いであるスカイはいないかのような扱いを受けた。

それだけなら良かったのかもしれないが、同い年の少年たちは簡単には放置してくれない。


レース子爵家長男、バランガ・レースを先頭に、取り巻き6人がスカイへと近づく。

バランガはスカイの前に立つと、親指で庭を指した。社交界の会場の外へと連れ出そうとしているのだ。

取り巻きに一瞬で囲まれて、スカイは断ることもできないまま庭へと連れていかれた。


これから何をされるかは明白だった。


「あのさ、俺伯爵家の人間なんだけど。俺に手を出していいのかよ? 格下の貴族が」

無意味だと知っているが、一応スカイはそこのところ確認しておいた。

一通り笑ったバランガとその取り巻き達は質問に答えてやった。


「あほかよ。ビービーに人権なんてあるわけねーだろ。今日証明してやるよ。お前をボコボコにしてもヴィンセント家は無関心なはずだぜ」

「そう……」

予想通りの回答にスカイも特に反応を示さなかった。

貴族の陰湿なリンチがこの場で行われるのだ。


「複数相手は疲れるんだがな」

「は? 」

スカイのどこまでも冷静な態度にバランガは若干の苛立ちを覚えた。

「っ、素手でやってやろうと思ったがやめだ。お前ら下がってろや」

バランガの言葉に取り巻きたちが緊張感を示す。下がっていろの先に続く言葉が分かっているかのようだった。


「おい、バランガ、まずいって。相手は腐っても伯爵家の人間だぜ? お前の魔法を食らわせたらただじゃすまねって!! 」

「大丈夫だって。俺の父上が言っていたんだ。ヴィンセント家の三男は人間だと思わなくてもいいってな」

とんでもない言いようだった。

相手が魔法を使ってくることが明確になり、素手でやり合う予定だったスカイも魔法の使用を心構えた。


取り巻きたちがバランガから離れていく。

広い庭とはいえ、会場の屋敷にまで魔法の余波が飛ばないように魔法で壁を作る者もいた。

あくまでこの場で起こることは外部に漏らさないつもりらしい。


バランガ・レースは貴族界でもかなり有名な男だ。

若干10歳にして魔力量は900を超え、15歳時には魔力量10000越えを期待される逸材だ。

魔力量の多さから既に使える魔法数も多いらしく、加えて上級魔法も既に使える化け物と言われている。


「俺の魔力性質は”水”だからよ、死ぬことはないぜ。まっ、骨の何本かはいっちまうと思うけどよ」

「俺の魔力性質は”無”だから、そっちも死ぬことはないと思う」

バランガが魔力性質を述べたので、スカイも自分の魔力性質を述べた。

「はっ! 魔力性質まで下等じゃねーか! 笑えて腹がよじれそうだ。ま、とりあえず俺の魔法でもくらってろや!! 」


バランガは左手を添えて、右掌をスカイに向けた。

「くらえ、ウォーターウェーブ!! 」


よりにもよって、バランガは唯一使える上級魔法を唱えた。

ウォーターウェーブは圧縮して一気に暴発させた水の衝撃を相手に当てる魔法だ。体の内部から組織が壊され、場合によっては即死するレベルの危険な魔法だ。たとえウォーターウェーブの練度の低い10歳の魔法だとしても、その危険さに大きな違いはない。

魔力性質”水”特有の青い魔力がバランガの右手に集まっていく。


これから起こる惨劇を彼は想像できているだろうか。きっとできていない。

ただ自分が訓練して手に入れて力を人に向けて打てる高揚感で満たされていた。

相手はいくら傷つけてもいいとされる相手だ。罪悪感はそこにかけらもなかった。


バランガは更なる雄叫びをあげ、魔力を練っていった。

そして、突如視界がぼやけ、手のひらの魔力は離散し、膝が崩れ、口から涎が垂れた後、その場に受け身なしで倒れた。


「えっ!? 」

取り巻きから声が上がる。

魔法を練っていたはずのバランガがなぜか倒れた。

魔力の操作に失敗したわけではない。失敗したとしても倒れるようなことにはならない。悪くて魔力が弾けるくらいだ。


では、なんだ。

結論はすぐに出た。


スカイからの反撃だ。

取り巻きのうち、見えていたものは一人もいなかった。


スカイは魔力弾をバランガの顎に向けて撃っていた。

それが直撃しただけだ。


ウォーターウェーブの魔法詠唱時間は6秒。バランガの魔力変換速度が平均的な50%と仮定した場合、魔法が発されるまで12秒もの猶予がある。

一方、スカイの打った魔力弾は魔法詠唱速度0、1秒。魔力量の少ないスカイはバランガほど使える魔法の数も多くない。それ故、魔力弾の練度も高く、一発の重みはある。そして、スカイの魔力変換速度は”100%”。スカイの師匠はそれを伝説のラグナシと呼んでいた。一切の遅れなく、0,1秒で完成した魔力弾が飛んでいったのだ。

それが全く無警戒の顎に直撃した。


完全に格下相手だと思い込んでいたバランガはこの程度の反撃も見抜けず地面に倒れることとなった。


取り巻き達の戦意喪失を見届けたスカイは社交界の会場へと歩いて戻っていく。

その前に、一つ言葉を残した。

「普通に遅すぎだろ」











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[気になる点] タイトルがおかしい。一髪を打たれる前に先発を打ち返す.......? 打つ や 打ち込むの方がしっくりと来た 打ち返すって言うのは先に打たれた時に使う言葉やからな? …
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