そのはち:強面とスイーツ(岸視点)
「そのご:となりのゴ○ゴ。(岸視点)」の後日談です。
自宅勤務になっている山野の様子を岸が見に行くと、本人は案外元気そうだった。
「そりゃー問題あるの足だけだし」
けろっとして言う山野の片足は、ギプスでしっかり固められていた。
「それもそっか」
「またコケて余計な怪我したら困るから、もうちょっと動けるようになるまで出てくるなってさ」
室内では動けているらしい山野は、マグカップにインスタントコーヒーを入れながらそんなことを言っていた。
かなり雑に目分量で入れている。それじゃ濃くなりすぎるだろうと思っていたら、案の定、刺激的な苦味がするだけの謎液体になっていた。
「牛乳なら冷蔵庫に入ってるよ」
濃くなりすぎたら薄めればいい、という理屈らしい。間違ってはいないが。
「作る時にスプーン使えよ」
「えーめんどくさいじゃん」
「牛乳取りに行くほうがめんどくさくね?」
「そうでもない」
「あっそ」
冷蔵庫の牛乳を取ってきて自分のマグカップに注ぎ、山野にも要るかと聞くと、たっぷり入れてくれと言って来た。
「自分でも濃すぎたんじゃないか」
「たまにはこーゆー事もあるってことで。あ、ついでにプリン持ってきてもらえばよかった」
「先に言えよ」
「悪い悪い、冷蔵庫に二つあるから片方食って良いよ」
「お、さんきゅ」
もう一度立って冷蔵庫を覗き込む。
「高そう」
岸だったら買いそうもない、どこかのケーキ屋のプリンが最上段に鎮座していた。
「さっすが山野、高いの買ってるなあ」
大の甘党で、昼食にはデザートが欠かせないのが山野である。もちろんコンビニスイーツは制覇済みだ。
そんな山野だから自分の趣味で買って来たのだろうと思ったら、山野はにやにやしながら首を横に振った。
「それ、ゴルゴがくれたんだよ。意外だよな」
「え、いつ」
「退院の時に送ってくれたついでに買ってくれた」
「送ってくれた?」
妙なことになっていた妹を拾って届けてくれたのも寺井だから、機会があれば手は貸してくれるだろうが。
「へ~、なんで?」
「俺が入院してたとこ、昔ゴルゴも入院してたんだってさ。で、まだ時々通ってるらしくて、一度リハで一緒になってさ。そん時に、退院の時は送るって言ってくれたんだよ」
ゴルゴこと寺井健司の片足が悪いのは、二人とも知っている。
本人は何も説明しないが、前職で海外にいた時の怪我だという話も聞いていた。
「え、日本で手術してたんだ。怪我した国でやったんじゃなくて」
高そうなグラス入りプリンを渡してやると、山野はにこにこしながらスプーンを突き立てていた。
「普通そう思うよな」
「現場ですぐ応急手当てして野戦病院とかに送るのが普通じゃないの?良く知らないけど」
「そのへんは、はぐらかされた。現地じゃまともに治療できなくって、日本に戻ってから手術したんだってさ」
「やっぱり怪しいよなあ、あの人」
岸だけではなく山野ももちろん、寺井が開発した商品のことは知っている。
軍用品のスピンアウトとしか思えない代物で、かつ、開発者本人が利用状況を良く理解しているのだから、どう考えても寺井の前職とやらは軍事関係としか思えない。本人は一切回答しないが。
「傭兵だったにしては、技術に詳しいんだよなあ」
「そうなんだよなあ」
「あれ趣味で作ってたレベルじゃないよ」
「あの人、何者なんだろうな」
あまり詮索しないほうが良いと言われているが、言われると余計気になるのが人間というものである。
「甘いもの好きなのは判ったけどさ」
「え、マジ。これ俺の退院祝いって買ってくれただけなんだけど」
「マジ。あの人、あの顔でスイーツ男子だぞ」
先日貰ったご当地アイスリストは、かなりきっちり色々フォローしていた。
ネタ系に分類されている一群は、見なかったことにしたいが。
そういうと、
「うわなにそれ、そのリスト見たい」
と、山野はかなり興味をひかれたようだった。
「ほい」
タブレットからリストを開いて見せてやる。
「うっそ何これ、あのおっさんおもしれー」
山野が笑い出したのも、無理ないだろう。
「食べたものにちゃんとフラグ立ってるのもマメだよなー」
「ネタ系も挑戦済みってあたりが侮れない」
寺井がイカすみアイスを試すようなおっさんだと思ってなかったのは、岸も同様である。
「まさかのお茶目系だった」
あれはどこからどう見ても、硝煙漂う戦場が似合いそうな強面おっさんである。お茶目系には程遠い。
「人って見かけによらないよな」
山野の感想に、同意するしかない岸だった。
ネタ系アイスを含むリストは本編第56部「世間は意外に狭いもの。( https://ncode.syosetu.com/n1418ef/56/ )」で岸の妹・彩夏がリクエストしていたものです。
強面おっさんがちまちま作ったご当地アイスリスト、ネタ系も含んでます。




